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コラム:マルチフィジックス

材料の損傷・破壊とその解析手法について

科学システム開発部 応用技術課 田島 誠一

[2017/10/13]

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材料の損傷・破壊という現象を考えたとき、それを生起させる原因・環境は多岐にわたり、またその形態においてもミクロからマクロのスケールにわたって多様な様相を示します。およそ過去2世紀にわたって構築されてきた損傷・破壊に関する学問的取り扱いにおいても、その因果関係に応じて、疲労、破壊力学、連続体損傷力学など、相互に関連しつつも異なる分野として確立されてきた側面があり、そこで用いられる概念も多様といえます。
一例を挙げれば、文献[1]によると、強度問題における材料の損傷・破壊の様式は、材料の種類、荷重条件などによって大きく異なり、現象論的に分類すると以下のようになる、とあり9つの分類が掲げられています。

  1. 延性損傷
    塑性変形の進行によって引き起こされる微小空隙が発生し、これらが成長・合体する現象による損傷。金属材料における代表的損傷もしくは破壊様式。
  2. 脆性損傷
    塑性変形をほとんど伴うことなく微小空隙あるいは微小き裂が発生し、これらが成長・合体する現象による損傷。岩石、コンクリート、セラミック、複合材料などにみられる。
  3. クリープ損傷
    多結晶金属が、融点[K]の1/3程度以上の高温で一定応力を受けると、クリープ変形の進行とともに、微小空隙あるいは微小き裂が発生し、これらが成長・合体する現象による損傷。
  4. 低サイクル疲労損傷
    材料が繰返し荷重を受けると、塑性変形によって材料内に微小な空隙が発生し、これが合体してき裂となることがあり、これを疲労損傷という。疲労損傷のうち、破壊までの繰返し荷重が1万回より少ない場合、低サイクル疲労損傷と呼ぶ。
  5. 超低サイクル疲労損傷
    低サイクル疲労のうち、破壊までの繰返し数が100回より少ない場合、特に超低サイクル疲労と呼ぶ。この荷重範囲では、通常の低サイクル疲労に対する通常の寿命評価手法は適用できず、それから予測されるよりも小さな繰返し数で破壊することがある。
  6. 高サイクル疲労損傷
    繰返し荷重において作用する応力が低い場合、メゾスケールでの塑性ひずみは小さく、一回の繰返しによる損傷の進行も小さい。最終的な疲労破壊までには多くのサイクル数必要となる。通常、破壊までの繰返し数が10万回を超える疲労を高サイクル疲労損傷と呼ぶ。
  7. 超高サイクル疲労損傷
    疲労限度以下の応力の場合においても、1千万回を越える繰返し数において、材料内部を起点として疲労き裂が発生する現象を超高サイクル疲労損傷と呼ぶ。
  8. クリープ-疲労損傷
    多結晶金属が、高温で繰返し荷重を受けるとき、材料にはクリープ損傷と疲労損傷の両方が発生する場合があり、両者が相互に影響を及ぼし損傷が進行する。これをクリープ-疲労損傷と呼ぶ。
  9. スポール損傷
    物体が高い応力速度の衝撃荷重を受けるとき、入射応力波の反射と干渉によって、多数の微小空隙が局所的に発生・発達する。この現象をスポール損傷と呼ぶ。

CTCでは、こういった損傷・破壊現象においても、長年数値解析あるいは数値解析に関するソフトウェア開発を行ってきた経験がありますが、数値解析手法においても、基盤となる損傷・破壊の理論的・工学的枠組みに応じて、当然ながらかなりの違いが存在します。
そこで、今後本メールマガジンの一記事として、損傷・破壊における現象とその理論的・工学的取り扱い、数値解析手法の違いを整理するという観点で、継続的に記事をお届けしたいと考えています。
次回は、損傷・破壊現象の工学的取り扱いにおいて、最も一般的と考えられる高サイクル疲労損傷をテーマとした記事をお届けする予定です。

参考文献
  • 連続体損傷力学 損傷・破壊解析の連続体力学的方法 村上澄男
    2008 森北出版社
本記事に関連するソフトウェアのご紹介ページはこちら

非線形・動的・流体構造連成シミュレーションツール:LS-DYNA
http://www.engineering-eye.com/LS-DYNA/

衝撃解析ソフトウェア:ANSYS AUTODYN
http://www.engineering-eye.com/AUTODYN/

FEMによる3次元き裂進展解析ソフトウェア:FINAS/CRACK
http://www.engineering-eye.com/FINAS_CRACK/