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コラム:衝撃・安全

「自動車渋滞はなぜ起きるのか?」の思い出

科学・工学技術部 CAE技術課 阿部 淳

[2017/02/17]

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毎年年末になり、そろそろ帰省の予定を・・・を考えると、「○○高速渋滞予想10km」などのニュースが目に入り、帰る前からうんざりしてしまいますね。自動車の自動運転で渋滞が劇的に緩和されるのでは?などとても待ち遠しい限りですが、そもそもなぜ自動車が渋滞するのか、そのメカニズムについてはかなり研究が進んでおります。その詳細については、たとえば東京大学西成先生の「渋滞学」などが有名ですが、ここでは関連するコラムとして、私の学生の頃のお話をさせていただこうと思います。

非線形性の講義の一環として、簡単な渋滞生成プログラムを作成してみようという課題が出されました。プログラムと言っても簡単なもので、一本道の片側から乗用車がどんどん入ってきて、ある程度の速度で通過して、もう片方からどんどん出ていく状況をつくっておき、一本道の中央に信号がある場合に発生する渋滞を考えるというものです。そして、乗用車の発生頻度、速度や車間間隔、信号の赤青間隔などを変えて、渋滞発生との関連性を調べ始めました。

しかし、私のプログラムでは、どんなにパラメータを変えても何故かまったく渋滞が発生しなかったのです。確かに信号が赤の際は、そのタイミングで交差点に差し掛かろうとした乗用車は交差点前に停止、その後ろの乗用車は前の乗用車の動きに合わせて、ある程度の車間距離を開けて、停止します。これが赤信号の間だけは乗用車は待ち行列を作るのですが、よほど現実離れした条件でないと、待ち行列はさっさと解消されてしまい、なかなか渋滞は発生しなかったのです。

まずはプログラムミスを疑い、この疑義が晴れると、今度は「車間距離をもっと広めにとらないといけないかな?」「乗用車をすべて一定速度でなくある程度の幅でランダムにしてみようか?」「黄色で減速する効果を入れてみようか?」などいろいろ試しましたが、状況は改善されず、さっぱり渋滞の起きてくれない世界に「なんで渋滞が起きないんだ!」とまるまる一日悩み続けました。

結果として原因は何かというと「信号が青になった瞬間、待ち行列のすべての乗用車がスタートした」ことでした。正確には前の乗用車との車間が空いた瞬間に自分の乗用車が走り始めるようにプログラミングされており、実際には「信号が青に変わる」→(数秒後)「前の乗用車が進んだのを目で確認」→(数秒後)「自分の乗用車を発進」というタイムラグがあるはずです。これを適当な秒数で設定すると、比較的現実的な渋滞を再現させることができました。すなわち前のプログラムでは待ち行列の乗用車はすべて連結された列車のような振る舞いを見せていたのです。気づいてみれば、なるほど、あきれ返るほど当たり前のお話、けれどもその最中は気が付きませんでした。しかし、このときに実感したのは「人間の認知によるタイムラグが渋滞そのものの原因なんだな」ということで、今にして思えばなかなか有意義な失敗だったと思います。

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この講義は衝撃波関連工学の講義の一環で行われており、テーマは「衝撃波類似現象」というものでした。これ以外の衝撃波類似現象についても弊社の以下のサイトにて紹介しています。ご興味がございましたら是非ご覧ください。

CTCテクニカルレポート「衝撃波の科学」衝撃波類似現象(その1)はこちら
http://www.eng-eye.com/rpt/c007_shockwave/01_02.html

CTCテクニカルレポート「衝撃波の科学」のもくじはこちら
http://www.eng-eye.com/rpt/c007_shockwave/