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コラム:建設系

減衰について

科学・工学技術部 建設技術課 久保 典之

[2016/06/17]

地震が発生すると、その大小に関わらず、ほとんどの人は経験的に「今は揺れているが、そのうち収まる」ことを知っており、その経験が覆ることはありません。
ただ、「なぜ収まるのか?」という問いに明確に答えられる人は、意外と少ないのではないでしょうか。

グラフ

この問いの答えを乱暴にいってしまえば、「減衰するため」です。逆に減衰する成分が一切なければ、いつまで経っても揺れが収まることはありません。ただ、なぜ減衰するのでしょうか。そもそも減衰という言葉の意味は「振動が徐々に収まること」であるため、「なぜ収まるのか」→「徐々に収まるため」ということになり、「減衰するため」というのは実は答えになっていません。

地震現象を机上でシミュレーションする耐震解析では、通常何らかの減衰を考慮することになります。ただ、あくまでシミュレーションであるため、減衰現象そのものを表現できているかは別の話です。まず実際に減衰する原因を考えてみます。例えば、地震が起きたときにビルの3階にいる人に伝わる振動は、ビルを構成する材料(鉄骨、鉄筋、コンクリートなど)が持つ材料減衰(内部減衰)、ビル本体や地盤の塑性化によってエネルギーが吸収される履歴減衰、ビル直下の基礎から周辺地盤に伝播してゆく逸散減衰、地盤の不均一性による散乱減衰、さらには空気抵抗など、様々な減衰が組み合わさって揺れが次第に収まっていきます。
これらの現象が、冒頭の問いに対する答えになってくると思います。
※ 各種減衰の呼び名は、書籍や人により指す内容が異なる場合があります

ただ、解析上はこれらの現象をそのままモデル化できるわけではありません。履歴減衰に関しては適切な非線形モデルが適用できればそれなりの精度でモデル化できると考えられますが、材料減衰や逸散減衰、散乱減衰、空気抵抗などは、それそのものをモデル化するのが難しい現象です。そこで耐震解析の分野では、こういった種々の減衰現象を運動方程式へ取り込むための代表的な評価法として、レイリー減衰(レーリー、レーレー、Rayleighなど人により呼び方は様々)を用いることが多くあります。レイリー減衰について文章だけで正確にわかりやすく説明するのは難しいため、ここではわかりやすさ重視で説明したいと思います。

レイリー減衰は、「1.剛性に比例する減衰」と「2.質量に比例する減衰」を足すことで減衰係数を決定する、というものです。1 は剛性が高い・固いものほど減衰が大きくなる成分、2 は質量が重いものほど減衰が大きくなる成分です。レイリー減衰と聞くと「αやβを決めるもの」と頭に浮かぶ方がいるかもしれませんが、αやβとは剛性や質量にかかる係数です。αを剛性に乗ずる係数(剛性か質量かは人や使用するソフトにより異なるため要注意)とすれば、αを大きくすると剛性の違いによって減衰が大幅に変わることとなり(減衰に対する剛性の感度が高くなり)、逆にαをゼロとすれば1 の剛性に依らず減衰がゼロとなります。
β(ここでは質量にかかる係数とします)についても全く同様です。αとβをどういうバランスで設定するかによって、モデル全体にどのように減衰を効かせるかを調整できるのがレイリー減衰です。いろいろなことを端折ってますが「剛性と質量から減衰を算出する」ということには違いありません。

なお、耐震解析において使用される減衰には、他にもひずみエネルギー比例減衰等から決まるモード減衰、応力-ひずみ(力-変位)から決まる履歴減衰など、多数あります。レイリー減衰は非線形問題に適用しやすいため、そういった問題でよく使用されます。また、減衰自体は耐震解析に限らず、動的な解析であれば、衝撃問題や振動問題など、様々な分野で取り扱うことがあるかと思います。

耐震解析を行う上で減衰は非常に重要な要素であり、結果に与える影響が大きいにも関わらず、その性質(理解・表現するのが難しい)から、正しく理解できないまま実務で使用せざるを得ない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。理解を深めることで実務上の課題を解決する手助けになることもあると思いますので、これを機会に今一度減衰について考えてみるのもよいかもしれません。

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