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建設分野におけるCIMの全体実施に向けて
「CIM導入推進委員会」で情報共有ツールを活用

古川敬 様

お話を伺った方

一般財団法人 日本建設情報総合センター
建設情報研究所 研究開発部
主任研究員 影山 輝彰 様

一般財団法人 日本建設情報総合センターの概要

一般財団法人 日本建設情報総合センター(略称:JACIC=Japan Construction Information Center)は1985年11月19日、公益法人として国土交通大臣(当時は建設大臣)の許可を受けて設立され、2012年4月1日、一般財団法人に移行しました。JACICは、社会資本の企画から調査、設計、積算、入札・契約、建設(施工)、維持管理にいたるライフサイクルの各プロセスで発生する書類や図面等の各種情報を電子化し、ICTを活用することで情報の重複入力の排除、情報検索等を容易にし、情報共有の環境整備を推進しています。JACICは、情報サービス事業、受託事業、自主研究事業、公益事業の4つの事業を柱とし、特に建設における情報化推進の新しい研究事業としてCIM(Construction Information Modeling/Management)の研究開発を推進しています。

検討体制(産学官CIM)

検討体制(産学官CIM)
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出典元)JACICホームページ(産学官CIM 全体実施概要:http://www.cals.jacic.or.jp/CIM/sangakukan/pdf/sanagakukan_01.pdf)

国土交通省は、建設現場の生産性向上策「i-Construction」のトップランナー施策と位置付けている「ICTの全面的な活用」を推進するために、CIMの導入・普及を図っています。2012年にCIM制度検討の中期目標である『先導的導入によりCIM導入事業の推進』に向けて、実モデル構築を通じた課題抽出、対応検討を行うことを目的に「産学官CIM」を立ち上げました。産学官CIMは橋梁、トンネル、ダム、河川の4分野を対象に、(Ⅰ)企画・調査・計画、(Ⅱ)設計、(Ⅲ)施工・監督検査、(Ⅳ)維持管理・サービス提供の4段階についてCIMモデルを構築し、その精度、各段階で付与すべき属性情報、データ授受に関する課題と対応、受発注者間のデータ共有に関する課題と対応等を検討しています。
2016年6月には「産学官CIM」を発展させたものとして、3次元モデルを活用し社会資本の整備、管理の効率化・高度化を図る具体的な方策についての意思決定を行うため「CIM導入推進委員会」を立ち上げました。同委員会の運営を担うJACICは、CTCが提供する情報共有ツール「CIM-LINK」を用いて委員会活動の効率化を図っています。

公共事業の安全・品質確保・環境性能向上・トータルコストの縮減を実現するCIM

建設業界ではかねてよりICTの活用による労働生産性向上に取り組んでいます。その一つに1996年度に当時の建設省が発表した「建設CALS整備基本構想」があります。これをベースとして公共事業支援統合情報システム「CALS/EC」の利用・推進が図られることになりました。これは従来紙ベースで交換されていた公共事業の企画、調査・計画、設計、調達、工事及び維持管理の各業務プロセスで発生する図面・地図や書類、写真等の情報を電子化し、通信ネットワークを利用して、関係者間及び事業プロセス間で効率的に情報を交換・共有・連携できる環境を創り、関係するすべての人が最新情報を活用できるようにしたものです。「建設CALS」がスタートして15年目の2012年4月13日に、JACICでは「CALSの15年を振り返り、新たなステージへ」と題したセミナーを実施し、本格的にCIMに着手していきました。
CIMは建設ライフサイクルの一連の過程で、ICTツールと3次元データモデルの導入・活用により、建設事業全体の生産性向上を図る取り組みです。

導入推進委員会 体制図

導入推進委員会 体制図
出展元)国交省ホームページ(第1回 CIM導入推進委員会資料 http://www.mlit.go.jp/tec/it/pdf/shiryou1.pdf

CIMが目指す全体像の実現には、CIM導入推進に関する実施方針とCIMの導入に必要な基準類の整備が必要です。CIM導入推進委員会はICTを全面的に活用し、産学官が一体となってCIM導入の推進及び普及に関する目標や方針について検討を行い、具体的な方策について意思決定を行うことでCIMの施策を進めていくことを目的としています。

CIM導入推進委員会の下には次の3つのワーキンググループ(WG)とそれらを統括するチームが設置されています。

  1. CIM導入ガイドライン策定WG=実現場・業務で活用可能なガイドラインの策定
  2. 要領基準改定WG=CIM導入に関わる要領基準の改定等
  3. 現地での検証WG=CIMの現地での検証、検証成果の整理
  4. 全体統括チーム=実務者レベルでの委員会、WGの円滑な運営

さらにWGの下に実務者で構成するいくつかのサブWGがあります。委員だけで約100名、サブを加えると全体で200名くらいが参加するコミュニティです。

CIM導入推進委員会の運営に「CIM-LINK」を導入

JACIC建設情報研究所研究開発部は、CIM導入推進委員会の運営に「CIM-LINK」を活用しています。2016年度には委員会を3回開催しましたが、委員会開催へ向けて週1回のペースで開く準備会、WGでの討議内容、委員会で配布する仕様作成、委員会開催前の事前説明、委員会報告、さらには各委員から寄せられる意見等の情報を一元管理し、これに関わるすべての人が情報共有する必要があります。それにより全員が同じ認識で会議に臨むことができるからです。
これらの情報伝達は、かつては電子メールで配信するしかありませんでした。しかし、200名に上る委員会関係者へ膨大な資料を間違いなく送るのはかなりの手間がかかり、時には漏れも出ます。資料には画像データも含まれていることからデータ量も大きく、一部の方はメールでは受け取れないというケースもありました。これを解決するためのツールが、CTCが提供する「CIM-LINK」でした。
また、建設工事などのプロジェクト現場では、担当者の入れ替わりなどによりノウハウが蓄積できないという悩みがありました。「CIM-LINK」は、通常のメールのように文章をやり取りするだけでなく、あるテーマについての経緯や協議に使われた添付ファイルが特に意識することなく整理されるという利点があります。さらに、「CIM-LINK」はブラウザでの3次元モデルの閲覧、簡易GISによるファイルと位置との結びつけなどの機能を備えており、関係者の認識や理解を深めることができます。
JACICは、こうしたシステムを普及させる役割を担っていることから、まずCIM導入推進委員会で使うことにしました。

CIM-LINKイメージ

「CIM-LINK」で情報を迅速・確実に伝達し、関係者全員が情報を共有化

CIM導入推進委員会はWG、サブWGなど複数のWGがあり、さらにWG毎にメンバーの入れ替わりも頻繁に発生しています。また、関係者の所在は全国にわたっているため対面での打合せを数多く行うことができません。「CIM-LINK」は、過去のコミュニケーションの履歴が掲示板機能ですべて残るので、後から参加した委員でも、あらためて教えるなどの手間はなく、経緯を容易に知ることができます。
「CIM-LINK」はWG毎に参加メンバーを登録することができます。このため、登録されていないメンバーは、WGが存在することすら知ることができず、セキュアに情報共有を行うことができます。また、パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで利用できるため、WGのメンバーはいつでも、どこでも情報を共有することが可能です。非常に簡単な仕組みのため、参加メンバーからは「どう使っていいのかわからない」「使いづらい」といった声もほとんどありません。

災害時の業務支援にも重要な役割を担う「CIM-LINK」

CIMの導入推進には、多くの関係者とコラボレーションを図る必要があります。履歴の共有、情報の一元化、情報の蓄積が可能な「CIM-LINK」は、そうしたコラボレーションを図るための必須のツールと言えます。災害などの場合、遠隔地からの支援が求められます。「CIM-LINK」を利用して遠隔地の作業者とコラボレーションを行うことで、業務支援を行うことができるようになります。例えば、東日本大震災のような広域な災害の場合は、被災地にある地方整備局も被災したり、被災しないまでも混乱しているケースが想定されます。このようなときに「CIM-LINK」によって被災地の整備局と遠隔地の整備局の双方で情報が共有されていれば、被災していない整備局が素早く判断し、対策を講じることが可能です。そういうバックオフィスの役割も果たせるのです。
昨年4月に発生した熊本地震でも被災地は複数の自治体に及びました。このため復旧計画を立てる際、道路の復旧1つをとっても4、5社の建設コンサルタントが参加しました。その4、5社が立てた設計をどこでどう繋ぐかが問題になります。こうした問題を解決するために3次元CADで可視化し、そのデータを「CIM-LINK」で共有することで、関係者間で設計のボトルネックや見えないところが見えてきます。それにより復旧計画を立案・判断する人にとってクリティカルパス作業がスピーディに行え、どこにどんな資源を投入するか、その順番も含めた意思決定が的確に行えるわけです。

社会資本の維持管理に欠かせない情報共有ツール

日本のお家芸に“カイゼン”があります。委員会活動を例にとっても、かつて情報伝達手段は書類をプリントし、封入、投函という作業が必要でした。それが電子メールにより時間短縮と作業の効率化が図られました。さらに「CIM-LINK」になって、履歴も蓄積され情報の一元化という“カイゼン”を図ることができました。もう1つは高度化です。例えば委員会の場合、従来は委員会で顔を合わせてはじめて討議に入りました。しかも出席できなかった委員は、その討議に参加できなかったわけです。それが「CIM-LINK」では、仮想コミュニティに皆が集まっていつでも討議することが可能になりました。年3回開催しているCIM導入推進委員会ですが、「CIM-LINK」を使わなければ年1回の開催がやっとだったと思います。しかも委員会で初めて討議することになるため、1回の委員会で討議できる項目も限られます。このように情報共有ツールによって、単に迅速化、効率化のみならず、委員会活動の高度化も図られました。
国も政府共通プラットフォーム化、情報の一元化を打ち出し、クラウドサービスを活用するとしています。少子高齢化、建設人口の減少という社会状況にあって、社会資本の維持管理を進めるにはICTを活用するしかありません。そういう流れにあって、「CIM-LINK」のような情報共有ツールは、「i-Construction」を推進するうえで欠かすことのできないツールだと言えます。

CIM導入により目指す全体像・将来像(案)

CIM導入により目指す全体像・将来像(案)
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提供元)一般財団法人 日本建設情報総合センター 建設情報研究所

影山 輝彰(かげやま てるあき)様

1972年千葉県生まれ。ゼネコンを経て、2006年一般財団法人日本建設情報総合センターへ入社。
現在、建設情報研究所 研究開発部 主任研究員。技術士(総合技術監理部門、建設部門)。

CIM-LINKイメージ

左からJACIC川島様、阿久澤様、影山様