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日揮株式会社 様プラントエンジニアリングの基本設計にFlowmasterを活用
液サージの検討・評価に大きな効果を発揮

お話を伺った方

ガス・ケミカルプロセス部 担当課長 藤井孝義様 / リファイナリープロセス部 シニアプロセスエンジニア 磯部裕之様 エンジニアリング本部 ガス・ケミカルプロセス部 担当課長 藤井孝義様(左)
エネルギープロセス部 シニアプロセスエンジニア 磯部裕之様 (右)


日揮株式会社は1928年10月、太平洋沿岸に製油所を建設することを目的に日本揮発油株式会社として設立された。並行して1930年代から我が国で初めてエンジニアリング事業を開始、戦後復興期の1950年代に入るとエネルギー需要の増加を背景に、石油精製プラント、石油化学プラントを相次いで受注し、エンジニアリングコントラクターとしての地位を確立した。1960年代以降は積極的に海外に進出、アジア、中近東、アフリカ、南米、東欧など世界各地で石油・ガス・石油化学といったハイドロカーボン分野の国家プロジェクトに参画するなど、高度なエンジニアリング技術と卓越したプロジェクトマネジメントで数多くのビックプロジェクトを成功に導いてきた。世界70カ国、20,000件にもおよぶプロジェクト経験を有する日本のリーディングエンジニアリングコントラクター日揮の技術力と力量は、世界のJGC Corporationとして揺るぎない評価を獲得している。
また近年は、高度で幅広いエンジニアリング技術と柔軟なシステム化志向を融合し、医薬品工場、食品工場、研究施設、医療・福祉施設、社会・商業施設をはじめ、各種産業プラント、環境保全施設など一般社会・産業分野でも、高度な技術力を反映した信頼性の高い工場・施設を国内外に実現している。

日揮様には、30年以上にわたりCTCの解析ソフトウェアをご利用いただいています。
今回は、プラント設計に欠かせないサージ(水撃)の検討・評価に効果を発揮している熱流動解析ソフトウェアFlowmasterについて、その活用方法を中心にお伺いしました。

世界で高い評価を確立した
日揮のエンジニアリングサービス

プラントエンジニアリングは、ユーザーの構想や要望に従い、最適なプロセス、設備、機器の設計から必要な設備や機器の調達、さらには設計プランに従ってプラント建設状況の確認や設計性能通りにプラント全体が機能するかの確認、調整が必要とされています。
日揮(JGC)のエンジニアリングサービスは、プロジェクトの基本計画から設計、資材・機器調達、建設、試運転まで一貫して遂行できるのが大きな特徴です。

訪問インタビュー:ユーザー訪問:プラントエンジニアリングの基本設計にFlowmasterを活用 液サージの検討・評価に大きな効果を発揮出典元:日揮殿WEBサイトより

現地にエンジニアリングセンターを整備・展開し、世界のいかなる地域においても卓越したプロジェクトを遂行できる体制を確立するなど、世界から高い評価を受けています。また、プロジェクト遂行サービスに加えて、お客様の業務をライフサイクルの視点で捉え、新たな事業の構築提案やオペレーション、メンテナンス、システムソリューションまでを含むトータルなサービスを提供しています。
当社のエンジニアリングサービスの大きな特徴は、世界各国の石油精製プラント、石油化学プラント、LNGプラント等数々のビッグプロジェクトを手掛けていることです。その種類やプロジェクトの規模は多岐にわたり、比較的小規模のプロジェクトで数百億円程度、大規模なプロジェクトでは数千億円の規模になります。また、プロジェクトの期間は規模に単純に比例するものではないものの、新設プラントの場合では短期の場合で3年程度、長期では5年程度に及ぶ場合もあります。

訪問インタビュー:ユーザー訪問:プラントエンジニアリングの基本設計にFlowmasterを活用 液サージの検討・評価に大きな効果を発揮カタールLNGプロジェクト
訪問インタビュー:ユーザー訪問:プラントエンジニアリングの基本設計にFlowmasterを活用 液サージの検討・評価に大きな効果を発揮エジプトLNGプロジェクト
出典元:日揮殿WEBサイトより

上流から下流へ
設計情報の迅速かつ確実な伝達に細心の注意を払う

プラントの設計は、大きく上流の基本設計と下流の詳細設計に分けられます。基本設計では、プラントを設計するベースとなる物質や熱の流れを決めるために、プロセスシミュレータを使ってマテリアルバランス、エネルギーバランスを取ります。それを基にコントロール系や配管系からなるPFD(プロセスフローダイアグラム)を作成します。さらに、PFDをベースにより詳細な情報を盛り込んだP&ID(配管と計装図)と構成機器のデータシートなどのプロダクトを作成して下流の詳細設計部門に設計情報を伝えます。下流の詳細設計に属する配管設計部では、P&IDの情報と制御、電気、機器、シビル等の複数の詳細設計を担う複数の部門から集まるさまざまな設計情報を集約して、3次元のプラントモデルへと展開していきます。
設計情報の伝達は複数の部門間で行われ、その情報量は非常に膨大になります。ひとつの設計情報の伝達ミスが、場合によっては非常に大きな損失を招くことも多々あるため、設計情報の伝達ミスは絶対に許されません。私たちが在籍するプロセス部は上流の基本設計に属します。上流の設計情報が確実に下流の設計部門に伝わるように、自身が作成する設計プロダクトの内容および電子メールや会議を通して日々行っている設計情報の伝達には、常に細心の注意を払っています。また、ひとたび基本設計に変更が生じれば、プロジェクトの進行と時間の経過とともに下流の詳細設計への影響はより甚大になります。それを踏まえて、私たちプロセスエンジニアは早期に設計を固めるという使命を持って、日々業務に取り組んでいます。

液サージの解析用に
Flowmasterを導入

LNGやガソリンなどの製品の移送ラインでは、バルブの急閉鎖やポンプの起動に伴って配管内部の流体の流速が急激に変化することで、サージ(水撃)と呼ばれる現象によって瞬間的に配管内部で高い圧力が発生します。また、急閉鎖したバルブの下流や停止したポンプの吐出では一時的に圧力降下が起こります。その圧力降下が内部流体の蒸気圧以下になると、配管内部で内部流体が蒸発して液柱分離と呼ばれる気体の発生現象が起こります。また、内部流体の揺り戻しによって気体が潰れて液柱が再結合した場合にも、瞬間的に高い圧力が発生します。このようなサージ現象の発生を事前に把握して必要な対策を講じるために、液サージの検討・評価が必要となります。
具体的な液サージの対策としては、遮断弁の閉鎖速度の緩和、遮断弁閉鎖とポンプ停止のシンクロナイジング、サージベッセルの追加など種々の対策が考えられますが、検討対象となる設備の構成とサージ圧力の発生状況に合った対策がその都度必要となります。
液サージの解析と評価は、従来、ワークステーション版の自社開発ソフトであるDYNALIQを用いて行ってきました。しかしDYNALIQの開発担当者の異動や退職等があり、PC版への移行を含むユーザーからの改善要望等の対応ができない状況となり、その状態がしばらく続きました。
そこで2000年頃から外販のソフトウェアで自社開発のDYNALIQ相当のソフトウェアがないか調査を開始しました。調査の基準としては、DYNALIQと同じ解法で当社が配備しているPCでストレスなくシミュレーションができること、また、日本で適切なサポートやトレーニングを受けられることに主眼を置きました。その結果、CTCが販売するFlowmasterが最適なソフトウェアとして選ばれ、実際のDYNALIQとの比較評価テストを2001年頃に行いました。比較評価テストの結果、Flowmasterは自社開発のDYNALIQと同等の解法を用いて、同等の計算結果を得ることができることを確認しました。しかし、その時点ではDYNALIQにあるTransient forceを計算する機能がFlowmasterにないことが導入の壁となっていましたが、Flowmasterの計算結果からTransient forceを算出するExcelVBAをCTCに作成していただくことで解決し、2003年、正式にDYNALIQに替わるソフトウェアとしてFlowmasterを導入しました。

最適なサージ対策を導き出す上で大きな効果
GUIの充実もFlowmasterの利点

当社では、主にLNG・石油製品の海上出荷ラインや長距離パイプラインの遮断弁閉鎖に伴う液サージ解析にFlowmasterを使用しています。海上出荷ラインは配管の長さが数km、長距離パイプラインとなると数十kmに及びます。その他、大口径配管を伴う冷却水システムで、冷却水ポンプの起動停止に伴う液サージ、およびポンプが停止した後に高所の配管内部で起こる真空(負圧)状態を防止するためのバキュームブレーカーの設置位置の検討にも活用しています。

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プラント内を走る大口径ヘッダーライン(左) / LNG海上出荷ライン(右)

液サージ対策の検討には、複数のケーススタディを伴いますが、Flowmasterはシミュレーションの結果と一緒にモデルのパラメーターの設定が保存され、過去のスタディケースの設定を簡単に呼び戻すことができるので、複数のケーススタディのハンドリングに有効です。また、複数の結果をひとつのグラフに簡単に合成することができるので、各ケーススタディの結果の比較を行い、最適なサージ対策を導き出す上で大いに効果を発揮してくれます。

訪問インタビュー:ユーザー訪問:プラントエンジニアリングの基本設計にFlowmasterを活用 液サージの検討・評価に大きな効果を発揮 Flowmasterによる解析結果の一例

当社では、液サージの解析を主にプロセス部門と防消火部門で担当しています。液サージの検討は、ほとんどのプロジェクトで必要となります。通常、複数のプロジェクトが同時に遂行されているので、現在の契約数では足りないことがありますが、お互い融通仕合いながら活用していることから、当社のFlowmasterの利用頻度はかなり高いものと思われます。さらに、JGCグループ内でもFlowmasterを液サージ解析のツールとして活用する子会社が増えています。また、海外子会社のJGC PhilippineとJGC Gulfでは、現地で直接Flowmaster社から導入して活用しています。
Flowmasterを利用して感じたことは、GUIが充実していることです。ドラッグ&ドロップで簡単にコンポーネントを繋いでモデルを構成していくことができ、操作性に優れています。また、シミュレーションでは、注目しているパラメーターの挙動を随時モニタリングすることができ、結果を整理する際に複数のデータを選んでグラフを合成できるなど、視覚効果にも優れています。質問・疑問がある場合にはCTCのテクニカルサポートの皆様に親身に相談に応じていただいていることも、Flowmasterをスムーズに使う上で非常に助かっています。

自動コンバーションジョンシステム
「Best Pipe Plus to Flowmaster V7」を開発し
液サージ解析を省力化

2010年、Flowmasterによる液サージ解析業務のさらなる省力化を目的に、自動コンバージョンシステム「Best Pipe Plus to Flowmaster V7」を開発しました。解析業務では、まず自社開発のハイドロリック計算ソフトウェアであるBest Pipe Plusを使用してハイドロリック計算を行った後にFlowmasterによる解析を行いますが、Flowmasterとモデルの構成もほとんど同じです。そこでBest Pipe Plusのモデルをフル活用して、さらに不足のデータを追加入力し、Flowmasterの入力に必要なパラメーター類を自動的に計算し、Flowmasterのモデルが自動的に生成できればかなり解析時間の短縮になると考え、CTCに検討を依頼、カスタマイズしていただきました。
2010年10月には社内のイントラネットで公開、既にさまざまなセクションで使われています。Best Pipe Plusでモデリングした配管の径の大きさや属性等のモデルを「Best Pipe Plus to Flowmaster V7」を利用する事でダイレクトにFlowmasterモデルに変換できるので、このシステムを活用することによってFlowmasterを用いた液サージ解析でモデルの作成からシミュレーション結果を得るまでの消費時間を約70%削減できると思って期待しています。

訪問インタビュー:ユーザー訪問:プラントエンジニアリングの基本設計にFlowmasterを活用 液サージの検討・評価に大きな効果を発揮

「Excel VBA」とそのサブツールで
作業時間の短縮と業務効率の向上に貢献

バルブの流量特性やポンプの性能曲線等のデータは、デフォルトのデータがFlowmasterに内蔵されていますが、正確なシミュレーションを行うためには、解析対象となる設備の仕様に合致した一品一葉のデータ入力が必要となります。これらのデータの収集からFlowmasterへの入力までの一連の過程は、初心者のユーザーにとっては馴染みのない作業で非常に手間がかかります。また、配管材質のヤング率、流体の体積弾性係数等の物性値の収集やタイムステップの計算も同様です。
もし、それらの物性値や計算ツールが一元化されて用意されていれば、ユーザーの手間が省けて作業効率が上がります。「Excel VBA」のサブツールは、そのような考えのもとに考案しました。その結果、バルブの流量特性やポンプの性能曲線の定義等の手間が省け作業効率の向上を図ることができました。また、CTCに作成していただいたTransient forceを計算するExcel VBAもその主要な機能のひとつとして取り込ませていただいています。現在、サブツールも社内のイントラネットで公開されており、先のBest Pipe Plus to Flowmaster V7と同様に作業時間の短縮と業務効率の向上に貢献しています。

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サブツールによるTransient Force計算例

今後はユーザーの拡大とさらなる機能向上を目指す

Flowmasterはかなり浸透したとは言うものの、部門内のユーザーはまだそれほど多いわけではありません。これからは自動コンバージョンシステムの浸透などを通じてユーザーの数を増やしていきたいと思っています。同時に、さらなる入力の簡素化、データベースの充実を図り、より使い勝手の良いシステムにしていきたいと思います。
また、Flowmasterについては、Transient forceの計算機能をFlowmaster自体に追加することや、逆止弁の特性の入力方法の簡素化、気体と液の混相領域の厳密な取り扱い、プロセス部門で使用しているプロセスシミュレータにある物性パッケージとのリンク(CAPE OPEN機能)などの機能を付加していただけるとさらに使い勝手がよくなるので、CTCにはそうした機能向上を図っていただけることを期待しています。今後ともよろしくお願いします。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
ウォーターフロント都市・横浜みなとみらいの日揮本社で、藤井様、磯部様は、世界各地の巨大なプラントの基本設計を手掛けていらっしゃいます。インタビューでは、プロセス設計に対する情熱が、聞き手である我々にヒシヒシと伝わる程、一言ひとことに力を込めながらお話しいただきました。中でも、現場での作業のご苦労は、強く印象に残っており、国家プロジェクトを手掛けるエンジニアの方々の使命と熱意を強く感じることができました。
その設計作業を支援するツールとしてFlowmasterを選んでいただき、かつビジネスのパートナーとしてCTCを選んでいただいたことは非常に光栄です。世界各地へ“エネルギー”を伝えているJGC Corporationのエンジニアリング技術を、これからも微力ながら支援させていただきます。今後とも宜しくお願いします。
(聞き手:CTC)

名称 日揮株式会社
英文社名 JGC Corporation
代表者 代表取締役会長 兼 CEO
竹内敬介
代表取締役社長 兼 COO
八重樫正彦
創立 1928年(昭和3年)10月25日
資本金 235億1,118万9,612円(2010年9月30日現在)
従業員数 2,132名(2010年9月30日現在)
本社 【横浜本社】(ワールドオペレーションセンター)
〒220-6001 横浜市西区みなとみらい2-3-1
Tel: 045-682-1111 Fax: 045-682-1112
【東京本社】
〒100-0004 東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル6階
Tel: 03-3279-5441 Fax: 03-3273-8047
事業所 【国内】MMパークビルオフィス(横浜)、上大岡オフィス(横浜)、大阪事務所、技術研修所(茨城県)
【海外】北京、ジャカルタ、ハノイ、アルマティ、アブダビ、アルジェ、パリ、ロンドン
事業内容 1. 各種プラント・施設に関するコンサルテーション、事業計画、基本設計、詳細設計、機材調達、建設工事、試運転、オペレーション、メンテナンス
2. 石油・ガス・資源開発、ユーティリティ事業に関する投資
3. 技術サービス
ホームページ http://www.jgc.co.jp/
日揮様ホームページから引用