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独立行政法人 日本原子力研究開発機構 システム計算科学センター 様計算科学・計算機科学の推進で安全・安心な原子力開発を
強力にバックアップ

お話を伺った方

中島憲宏 様 中島憲宏 様

受賞等
1988年 3月 関東電気協会 第56回優秀賞
2003年11月 SC03 HPC Challenge賞
2005年11月 SC05 Analytic Challenge Honorable Mention賞
2007年11月 SC07 Analytic Challenge FINALIST(優秀賞)

所属学会
日本機械学会、日本原子力学会、シミュレーション学会

1982年 株式会社日立製作所入社(日立研究所)、2003日本原子力研究所入所(計算科学技術推進センター)、2005年 日本原子力研究開発機構に改組(システム計算科学センター)、現在システム計算科学センター次長。工学博士。
計算機科学・計算科学の研究開発に従事。専門分野は設計工学、計算力学。計算機シミュレーションを活用した設計支援研究として、CAD/CAM/CAE/CG、構造/振動/熱/流動/電波/電磁解析、有限要素法/差分法/境界要素法などに従事。シミュレーション技術の観点からベクトル化、並列化などスーパーコンピュータやワークステーションなどのミドルウェアの研究開発に従事。グリッド・コンピューティングをはじめとする分散処理技術やネットワーク研究などに従事。

実大3次元仮想振動台のベースプログラムにCTC開発のFINAS/STARを採用
独立行政法人日本原子力研究開発機構(JAEA=Japan Atomic Energy Agency、本部:茨城県那珂郡東海村)は、2005年10月、日本原子力研究所(1956年設立)および核燃料サイクル開発機構(1956年設立原子燃料公社、1967年動力炉・核燃料開発事業団、1998年核燃料サイクル開発機構に改組)を統合し、わが国唯一の原子力の総合的研究開発機関として原子力に関する基礎・基盤から応用・実用化までの研究開発を行っています。
システム計算科学センター(CCSE=Center for Computational Science & e-Systems)は、JAEAの計算センターと計算科学推進のための研究開発の2つの役割を担っています。
今回はCCSE次長・中島憲宏氏に、同センターの研究開発の概要、今注力していること、今後の展望とCTCへの期待などについて伺いました。

設立以来高度計算科学技術の開発に携わる

システム計算科学センターのルーツは、旧日本原子力研究所(以下、原研)設立の翌年、昭和32年に原研の計算室として設立され、昭和38年に情報システムセンターへと発展しました。当時から最先端の大型コンピュータを導入していたわが国の計算科学研究センターの草分けです。現在CCSEのスーパーコンピュータはSGI社製のARTIX3700BBで13テラフロップス、13テラメモリ空間を有するもので、導入した当時はメモリ空間では世界一というものです。
1995年に旧科学技術庁の指導のもとで、当時、国家施策として進められていた計算科学技術の研究開発の実施機関として計算科学技術推進センターに衣替えし、原研の計算センターとしての役割と日本の科学技術計算のための計算センターという2つの役割を担うことになりました。JAEAとなった今は、並列コンピュータを主軸にスーパーコンピュータによる計算科学を推進するとともに、日本の原子力分野の中で高度計算科学技術を活用し広めていく役割を担っています。
現在、CCSEは、(1)計算科学(アプリケーション)研究、(2)計算機科学研究(コンピュータサイエンス)、(3)ITインフラ基盤の運用の3つを三位一体としての経営と、分野横断という2大方針のもと、JAEAの大きな研究テーマである高速増殖炉、核融合、J-PARC(光量子)、地層処分はじめ、軽水炉、安全性、放射性廃棄物の処理・処分などの分野と連携し、研究と基盤運用を行っています。
また、国のプロジェクトにも積極的に関与し、文部科学省の指導のもと高度計算科学技術や並列計算処理技術などの研究開発を牽引するとともに、ITBL(仮想研究所)計画では、グリッド・コンピューティング研究の中核的役割を担い、宇宙航空研究開発機構、理化学研究所など6機関合同で参加しました。ITBLは総務省のプロジェクトであったe-JAPAN計画の一つとして行われたもので、全国のスーパーコンピュータをネットワークで接続し、計算科学、HPC(ハイパフォーマンスコンピュータ)等を広く活用していく基盤を構築しようというものです。
これらを実現するためにCCSEでは原研時代から培ってきたSTA(シームレスシンキングエイド)が役立ちました。これは途切れない思考、途絶えない計算環境という概念で、スーパーコンピュータ間を自由にデータが行き来したり、ジョブを簡単に投入できるという仕組みです。そうしたことからITBLにおけるグリッドコンピューティングテクノロジーはJAEAの中に浸透して行きました。ITBLには延べ約4,000名の研究者が参加し、国のプロジェクトが終わった現在でも大学から産業界の方まで約1,900名が活用しています。

有用性が高まる計算機科学

JAEAが設立されて以来、CCSEは一段と重要な役割を担うようになりました。それは大規模な実験設備に多額の投資をできなくなってきたことと、理論を実践したり、実験を検証する手段として計算機科学の有用性が認識されるようになったからです。JAEAの論文数の約20%は計算科学を何らかの形で活用しており、実験データとシミュレーションの結果を併用する時代がやってきたのです。
今、実験・研究用のコンピュータは東海と大洗にありますが、遠隔地からでもコンピュータの所在地にいるかのごとく使えるようになっています。このようにCCSEはITインフラの整備と、計算機科学の成果を役立てるという両面の機能を担っています。計算機科学の研究は、原子力シミュレーションが本来向かうべき姿は何か、どこまで行けるのか、何を目標にできるのかを指し示すコンパスのような存在です。
CCSEの計算機科学は、“原子力分野が必要とする計算機は何か”が命題です。一方、計算科学では“どこまで物理や工学の現象を解明できれば原子力がわかるのか”つまりどこまでシミュレーションを精緻化できるかが大きな命題です。
JAEA各部門の研究者は、現状で直面している問題の解決あるいは実験の効率化を図るという視点で動いていることから、既存の確立された物理モデルを使ったり、既存の技術を使って補完を行ったりして、課題解決に努力しています。それに対しCCSEは、新しい物理モデルや先進的な技術を持ってくることによって現象をより精緻に解明できる、わからない世界を見えるようにするというような視点で、JAEA各部門の解決手段を高度化していくことを大きな目標の1つとしています。しかし、計算科学で物事のすべてを表現できているわけではないので、現象解明の精緻化や問題解決手段の高度化のために、計算科学と計算機科学を両輪とした研究を持続していくことがCCSEの使命と思っています。

組立構造解析は「モデリングレス」「設計対象解析」のスタート

予期しえなかった大規模地震が頻発しており、原子力分野における技術的課題は「耐震」が大きなキーワードになっています。原子力開発の最大のポイントは、“安全・安心”です。安全・安心のために、CCSEは原子力プラントの堅牢さを科学技術で証明していく、あるいは過去のやり方でまずいところがあればそれを正していく、これまでの基準に対してなにがしかの寄与をしていくという視点で原子力発電のパブリックアクセプタンスを得られるようにしていきたいと思っています。
そうした中で、1つの大きな課題は原子力が複雑な組立構造物からできていることにあります。原子力発電所は、建屋を除いて1,000万点を超える部品から作られています。自動車が約30万点の部品から作られていると言われているのに対し、原子力発電所がいかに多くの部品によって作られているかがわかります。そうすると、計算科学で組立構造物を一体構造物として扱うほうがいいのか悪いのかということが、1つの大きな命題としてあります。
振動問題では、バネ・マスモデルのような簡略化したモデルを用いる方法が広く用いられています。また、部分構造合成法のように構造を部品ごとに扱う方法も古くから研究されています。ところが、バネ・マスモデルのモデル化あるいはシミュレーションの入力データを作成するためには、様々な知見や経験、ノウハウが必要とされ、こういった計算の専門家には容易でも、一般の設計者にはなかなか習得することが容易でないものでした。そこで、こういったノウハウがなくても設計図面に描かれた設計対象の図形データがそのまま、シミュレーションできるようにしようと考えました。設計は、数多くの部品ごとに詳細設計が進むので、これらの部品のデータをそのまま集積してシミュレーションできれば、なお、シミュレーションが有効な手段となりうると考えました。なぜそうなったのかと言うと、設計者の観点からは、モデリングレス(モデル化を考える必要のないように)にしたいということがあったからです。それは設計者の本来の興味は、計算ではなく、実際のモノであるからです。あるフロアのマス(質量)を何キロ、何トンにするかは誰でも計算できますが、フロアのどこからどこまでを1つの重さとして扱ったらいいのかという判断は、経験とシミュレーション技術を理解していないとできません。こういった人間が頭で考える、シミュレーションのモデル化の部分を上手にシミュレーションの中に埋没させて行こうという考えがモデリングレスです。そうすれば設計者は設計対象物をそのまま解析可能となり、設計に注力することができます。
ところが現状の技術をもってしても、シミュレーション技術にはどうしてもモデル化が必要です。これを解決しようということで考えたのが組立構造解析です。より精緻にしなければならない現象をいかに細かく見ることができるようにするかが組立構造解析のテーマであり、それをわかりやすい言葉で「モデリングレス」「設計対象解析」と言っています。これを行うことは、地震のみならずパイプ内の水流、タービンの回転、建屋や地盤の微振動などさまざまな振動が相乗効果としてどのような影響を与えるのかを知ることに繋がります。そのためには目に見える大きな現象のような非常に広域なものから人間の目には通常見えない微小な現象まで、また、流体と構造、流体と熱などといった実際に稼働する環境で現れる事象の連成解析が必要となります。
「モデリングレス」あるいは「設計対象解析」の研究は2005年にスタートし、研究期間は15年の予定です。今は、バラバラに設計展開された部品データを集めて解析するところまでできるようになりました。次の5年間でバラされた部品データを個別に解析した後、集積して統合解析したり、部品間の接合条件の問題や部品間をまたがる波動伝播解析など、難しい問題に少しずつでもこうした研究を進めていきたいと考えています。

  高温ガス炉モデル

実大3次元仮想振動台で原子力プラントの総合的な解析を目指す

原子力施設の地震に対する安全性について関心が高まっている中で、より信頼性の高い耐震解析を実現するために、実際に運用している状態での原子力プラントの総合的な解析・評価を行うことを目指した実大3次元仮想振動台の開発に取り組んでいます。これはプラント全体を3次元モデル化し、構造・流体・熱の連成解析を行うと同時に、各種地震動データによる振動現象を与えることで、地震動が原子力施設にどう影響を及ぼすかを解析しようというものです。
まだスタートしたばかりであり、現在は組立構造解析をベースにしたFIESTAを開発中です。有限要素法解析はJAEAの一方の前身である動力炉・核燃料開発事業団が開発し、CTCが開発サポートと販売をしているFINAS*1およびその後継のFINAS/STAR*2を使い、部品を集合体として解析しようというものです。方法論は確立できたので、実際にさまざまな分野で使えるようにすることが今の目標です。それと同時に、この仕組みを使うことで、部品間の接合モデル、物理現象などを考えていく土台にしたいと思っています。シミュレーションは計算精度が非常に重要であることから、実際にJAEAの実験炉の主要部品約1,000点をすべてデジタル化して組み立てた集合体を、実際にゆすったり、応力解析をしたり、流動解析をすることで精度の高度化を図っていきます。

*1) FINASは1976年以来、JAEAにより開発されてきた汎用非線形構造解析システムです。CTCは、JAEAの許諾を得て、自己の責任および負担のもと、FINASの販売・保守および改良業務を行っています。
*2) FINAS/STARは、FINAS開発の伝統を引継ぎ、CTCにて開発を進めている並列汎用非線形構造解析システムです。

わが国の軽水炉1号炉は運転開始から40年を経ようとしており、今後もこうした原子炉を使っていくのか、新しい原子炉にするのか、あるいは原子力利用をやめるのかといった議論が起こりうると考えます。そのときに、FIESTAなどのシミュレーションにより構造の強度、健全性などが目に見える形で提供できるようになっていれば、様々な議論の参考にもなると考えられます。

  挿絵:原子炉モデル

今後のテーマは3次元仮想振動台に流体との連成解析を取り入れること

これまで連成解析の研究を進めてきた結果、解析技術を確立するとともに、ある程度どこまでできるかが見えてきました。ここで確立された連成解析技術を具体的にどう生かすかは研究課題の1つになりますが、実大3次元仮想振動台に流体との連成解析を取り込むことが今後の重要な研究テーマです。原子炉の耐震解析で流体を扱う以上、マス(質量)のある流体を扱ってこそ意味あるものになります。特に増殖炉のように金属で重いものが流れるとなると、その影響は非常に大きいため、金属の流れと構造物を連成させることも大事な研究課題です。また、組立構造物の中で、微妙なずれが冷却材の流れに影響を及ぼすこともあり得ます。そういう部分まで精緻な解析ができるようにしたいと考えています。
また、基礎研究レベルでは構造材に実際にき裂が走ることでどのような状態変化が起こるのか、そこまで連成させるとなると、これは大きな課題です。こうした基礎研究を進めることが、古典物理から現代物理への橋渡し役になる可能性もあり、それも物理工学的意味での研究課題だと思っています。

CTCのソリューション力に期待

CTCとは、私が日立製作所へ入社して間もない頃にFINASを使うことになり、そのときからのお付き合いです。FINASは弾塑性解析に適しているのでFINASを使うことになりました。FINASは旧核燃料サイクル開発機構(以下、JNC)の研究開発成果が商品化されたものであり、当センターでは、設立前の2004年から旧JNCとの共同研究で、またFINASを使うことになりCTCとのお付き合いが復活しました。3次元仮想振動台や組立構造解析などは、技術的にお互い興味ある問題であることから、CTCにも原子力学会の耐震研究会に参加していただきました。3次元仮想振動台は、CTC開発のFINAS/STARをベースプログラムに使っていく予定です。
CTCは、構造、地震、建築、流体をはじめ、計算科学、シミュレーションの幅広い分野で日本を代表する企業であり、さまざまな科学ソリューションを提供しています。そういう点からCTCの専門メーカーとしての高度なソリューションに期待しています。また、民間企業ならではのアンテナでこの分野を俯瞰していただき、実用化すべき技術や市場ニーズなどの戦略分析においても、お互いに相乗効果を持てる関係を築いていきたいと思っています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
システム計算科学センターは、日本におけるシミュレーションの技術開発の中心的存在で、中島様が推進されているFIESTA開発のような世界的な成果を上げています。
日本の原子力産業は新たな発展期に入ろうとしていますが、シミュレーションの分野でも、日本が世界をリードできる技術を発信していくべきであると思います。我々が、微力ながら、システム計算科学センターの先駆的取り組みに参加できることは、技術者として大きな励みになっています。
長い時間のインタビューをありがとうございました。
(聞き手:CTC中村)

名称 独立行政法人 日本原子力研究開発機構
システム計算科学センター
所在地 〒110-0015
東京都台東区東上野6-9-3住友不動産上野ビル8号館
本社所在地 〒319-1184
茨城県那珂郡東海村村松4番地49
設立 2005年10月
(旧日本原子力研究所と旧核燃料サイクル開発機構が統合)
理事長 岡﨑俊雄
主な事業概要
  • 原子力に関する基礎的研究及び応用の研究
  • 核燃料サイクルを確立するための高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発
  • 核燃料物質の再処理に関する技術及び高レベル放射性廃棄物の処分等に関する技術の開発
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