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独立行政法人 原子力安全基盤機構(JNES) 様独自に改良整備したコードを用いて、
原子力施設の安全解析・評価を実施

お話を伺った方

 解析評価部長 
工学博士 蛯沢 勝三 様




(独)原子力安全基盤機構は、規制行政機関である原子力安全・保安院とともに、原子力エネルギーの利用における安全を確保するための専門的な業務を実施する機関として、2003年(平成15年)10月1日に発足した。
原子力施設に関する検査、安全性に関する解析・評価、防災支援、安全確保に関する調査・試験・研究および安全確保に関する情報の収集・整理・提供などを行っている。また最新の研究成果をもとに数々の提言を行い、原子力施設の安全性、信頼性の確保に貢献することを使命とした専門家集団である。

独立行政法人原子力安全基盤機構の解析評価部は、原子力施設の安全性を確認するため、独自に改良整備した解析コード(計算プログラム)を用いて、安全解析・評価を行っています。原子力施設の安全審査の際には、国の要請を受けて、機器や構造物などの安全確保対策の妥当性について、事業者が実施した方法とは別に独自の解析を行ってチェックします(これをクロスチェックといいます)。また、地震などの外部リスクに対し、どこまで安全であればよいか、そのための定量的目標を導入し、リスク情報を活用した原子力安全規制体系の整備において先導的な役割を担っています。

CTCは、長年にわたり、耐震分野のコードの改良整備や解析でJNESに協力してまいりました。今回は、解析評価部の蛯沢勝三部長に、コード整備の歴史や最新の動向についてお伺いしました。

機器免震研究の地震応答解析モデルを開発

CTCとの出会いは、私が日本原子力研究所(「原研」、現「日本原子力研究開発機構」)に勤務していた20年前、昭和63年にさかのぼります。その後、平成13年4月に財団法人原子力発電技術機構(NUPEC)に出向し、さらに平成15年10月にはJNESが設立されて異動し今に至るわけですが、その間、途切れなくCTCとはコード開発でいっしょに仕事をしてきました。

原研時代の主な仕事の1つが、(1)確率論的安全評価手法を用いて安全上重要な機器を免震構造化した場合にどれほど安全性が向上するかを評価したこと、(2)機器免震装置の地震応答解析モデルを開発したこと、(3)安全性が向上するかを評価する「機器免震有効性評価コードEBISA:Equipment Base Isolation System Analysis」を開発研究したこと、(4)ソフト開発からスタートして、後には振動台試験を実施して、その結果をソフトと融合させるところまでを行いました。振動台試験では計画段階からCTCにも加わってもらい、機器の開発メーカーとともに、ソフトとハードが一体となって知恵を出し合って進めたことで、3次元機器免震装置の試験では世界的に重要なデータ・成果が得られたと自負しています。

振動台試験のほかに、原研大洗研究所敷地内において自然地震動を用いた試験も行いました。屋外に3次元機器免震装置をセットして、震度4、水平100ガル、鉛直30ガル程度のかなり大きな地震動を観測してデータを取ることができました。これはたまたまそうした地震が発生したのではなく、水戸気象台の70年間のデータを処理して、100ガル程度の地震が4年に1回は起こっているということがわかったうえで試験計画を作成したのです。このレベルの自然地震動で3次元機器免震装置の機能を確認したのは、世界で初めてです。100ガルの地震動で最大の情報を得るためにいろいろ工夫しました。地震動が起きたときに動くのが免震装置ですが、大きい地震動で動くようにすると小さい地震動では有用なデータが取れないわけです。逆に小さい地震動で動くと、大きい地震動が来たときは装置が壊れ実用に供するデータが取れません。どちらの場合でもデータを取れません。それでは意味がないので、装置がどういう挙動をするか、事前にCTCに解析ソフトでシミュレーションしてもらい、100ガル程の地震動に絞って、試験装置を作ったのです。ここが一番のミソであり、苦労したところです。

EBISAコードは研究機関の原研で開発し、実務機関のJNESに導入され、いま盛んに利用されています。

屋外3次元機器免震装置の写真 屋外3次元機器免震装置の写真
屋外3次元機器免震の模式図 屋外3次元機器免震の模式図

新耐震指針には免震技術の導入が正式に記述

原子力施設の建設に際して、設計用地震動や構造健全性に関する考え方、備えるべき内容について審査する上でのあり方を示したのが「耐震設計審査指針」です。2006年(平成18年)9月19日に、5年数ヶ月の検討・審議を経て、新耐震設計審査指針(新指針)が原子力安全委員会によって策定されました。

新指針には、免震技術の導入が正式に記述されました。これはいろいろな設計のオプションがあれば安全は向上するので、設計の自由度を広げるという意味です。

もう1つ今回の新指針のなかでとりわけ特徴的なのは、「基準地震動の策定方法の高度化」とそれを上回る地震動による「残余のリスク」の考え方が示されたことです。設計を超えた領域の残余のリスクをできるだけ小さくしなさいということも書かれています。免震技術は、そのための技術の1つとして活用できます。

実は、EBISAコードは20年前に、いずれこのような指針が採用されるだろうということを夢見て開発を始めたのです。「設計を超えた大きい地震動が来た場合に、リスクを小さくする1つの道具として機器免震が重要だ」と考え、20年前に始めた先駆的な研究開発がここへ来て陽の目を見たわけです。往々にして研究機関が開発したコードというのは読みづらいことが多いのですが(研究者はプログラミングのプロではないため)、このコードの開発・整備にCTCが開発に加わったことで、品質が保証され、すぐ使えるきちんとしたコードとして信頼度が高まっているのも特徴です。

地震PSAでも先駆的な研究開発

原研時代から取り組んでいるもう1つの仕事が、地震PSA研究です。地震に対するPSA(Probabilistic Safety Assessment):確率論的安全評価とは、発生する可能性のある様々な事象に対して、発生の確率とその影響を考慮して安全性を定量的に評価する手法です。つまり、発生の可能性が極めて小さな地震も含め、それらによってもたらされる地震動の大きさや施設の揺れや損傷のばらつきを考慮に入れて、耐震安全性を評価します。

地震PSAのイメージ 地震PSAのイメージ

地震PSAの手法を構成するタスクの1つに地震ハザード評価があります。対象となる原子力サイトに将来襲来する可能性のある地震動の強さとその発生頻度の関係を示す地震ハザード曲線を求めるもので、CTCとは「地震ハザード評価コードSHEAT(Seismic Hazard Evaluation for Assessing the Threet to a facility site)」の開発も行いました。こちらもNUPEC、JNESに導入されています。2007年7月に日本原子力学会で「地震PSA実施基準」が策定されますが、この実施基準の中に唯一公開コードとしてSHEATが入っています。

従来、地震危険度評価は距離減衰式を用いるのが一般的でした。SHEATでは、地震動の強さの推定に、断層モデルを考慮した地震危険度評価手法を用いることができるよう整備しています。断層モデルを用いたのはたぶん国内外でも最も高度で先駆的な開発でしょう。この研究でもCTCとは原子力学会で共同発表(注)しています。

(注)“原子力機器の構造信頼性評価のための地震動評価コードの開発”
日本原子力学会和文論文誌 VOL.5,NO.2,p.118-124( 

地震危険度に一番重要なのはサイト周辺の地震の設定ですが、阪神・淡路大震災以降、断層モデルはそうした近場の地震による地震力も精度よく評価できるということがわかってきました。実はこれを私たちが手がけたのは平成2年頃で、平成7年の阪神・淡路大震災より前に、将来断層モデルが重要になる、これに基づいた地震危険度評価が中心になるだろうということを想定して始めたのです。強震動推定においていまや主流中の主流で、新指針にも距離減衰式と断層モデルの両方でやりなさい、近いところに重要な断層がある場合は、断層モデルを重視しなさいと書かれています。

断層モデルを用いた地震危険度評価手法の開発は原研のコーディネータのもと、理学の断層モデルの専門家と工学の強震動の専門家に参加してもらい、三者のベクトルを明確に定めて目的意識をはっきり持ってマネジメントしたことが開発の成功につながりました。2006年11月にOECDの地震PSA国際会議で紹介した際にも非常に高い評価を受けています。いま日本の地震PSAは1985年に原研に始まりJNES等を中核として産業界も含め進んでいますが、多くの方々の協力のもとそのベースとなるコードは私たちが作ったのだと自負してもいいのではないでしょうか。

SANシリーズのコード開発とそれらを用いたクロスチェック

NUPEC、JNESでは、これまでSAN(Seismic Analysis for Nuclear)シリーズと呼ばれるコードの開発整備とこれらを用いた原子力施設のクロスチェック(安全性確認のための解析評価)を手がけています。CTCはこれらのうち、主に3つのコードに関わってきました。

「建屋の応答解析SANLUM(質点系モデル解析コード)」、「地盤・斜面の応答解析SANNOS(地盤・建屋相互作用解析コード)」、「津波解析SANNAMI(津波解析コード)」の3本です。これらのコードは、クロスチェックに使用されるので、できるだけシンプルで信頼度の高い機能が求められます。クロスチェックとは、事業者が申請してきたものを独自にチェックするわけですから、事業者とは異なるコードを自ら持っていなければなりません。SANLUMはそのためのコードです。一方では現象論を忠実に反映できる最新知見も求められていますが、これは非常に複雑になり時間もかかるので、別なコードを作っています。また、クロスチェックでは対象構造物に適合した機能追加が必ず要求されます。CTCにはそれにもフットワークよく対処してもらっています。

また、SANNOSは、地震PSAの損傷確率を求めるための応答解析にも使用されています。したがってクロスチェックという決定論にも使われるし、PSAにも使っているということです。

SANNAMIでは原子力サイトのクロスチェック用に解析手法コードと海底地形データの両方を整備しました。サイト極近傍で最小20mメッシュの地形データの整備等、海底地形データの整備はまさにCTCのノウハウが反映されていますね。手法については、過去の強い津波事例で機能の検証を行っています。緊急の要請として、先ごろのスマトラ沖地震について解析の依頼を行い、インド洋全域の海底地形データをメッシュは粗いですが短期間で整備するとともに機能を検証し妥当との結果が得られています。

スマトラ津波解析結果の例 スマトラ津波解析結果の例

JNESではクロスチェックを行う際に、構造健全性の判断基準を独自に設定しています。JNESが独自の振動モデルを作って開発したコードで計算して、計算結果と判断基準を比較して満足しているかをみるものです。事業者の後追いでなく、まったく独自の判断で行うのがポイントです。CTCはメーカー系列ではないこと、対象となるコードを熟知していて、短期間で品質の高い解析結果を提出できることから、各種のクロスチェックに非常に強力に協力してもらっています。

CTCとのおつきあいでは旧原研時代・NUPEC・JNESを通じてよい成果に結びついてきました。今のテーマをやっているときに、次の5ヵ年のテーマを互いに話し合うというように、次の世代のために、種を蒔きながらやってきました。これからもそうした形で若い人を育てて、次の世代にバトンタッチしていきたいと思っています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
蛯沢様とは原研の時代より、CRAYなどの大型計算機から、メインフレーム、ワークステーション、PCと計算機の発達の歴史に沿って、コード開発の協力をさせていただいてきました。開発したコードを適用した研究成果について、国内外の論文投稿をいつも共著でやらせていただき、発表させていただけたのはたいへんありがたいことで、いつも研究協力者のモチベーションを上げる接し方に感謝しております。 今後も原子力施設の安全性確認という重要な役割に対して協力していき、さらなる社会貢献度を上げていきたいと考えております。(聞き手:CTC亀岡)

名称 独立行政法人原子力安全基盤機構
Japan Nuclear Energy Safety Organization (JNES:ジェイネス), an incorporated administrative agency
http://www.jnes.go.jp/
所在地 〒105-0001
東京都千代田区虎ノ門3丁目17番1号
設立 2003年(平成15年)10月1日
代表者 理事長 成合英樹
職員数 理事長1名、理事3名、監事2名 計6名 職員443名(平成18年7月1日現在)
主な業務 ■原子力施設および原子炉施設に関する検査その他これに類する業務
■原子力施設および原子炉施設の設計に関する安全性の解析および評価
■原子力災害の予防、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止および原子力災害の復旧に関する業務
■エネルギーとしての利用に関する原子力の安全の確保に関する調査、試験、研究および研修
■エネルギーとしての利用に関する原子力の安全の確保に関する情報の収集、整理および提供
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