オイレス工業株式会社 様大地震でも揺れを最小に抑え、安全な橋の普及を目指す
-無償で利用できるWeb版「ゴム支承設計計算サービス」で免震・制振設計が容易に-
お話を伺った方
第3事業部 技術部 次長 竹ノ内 勇 様
オイレス工業(株)は、1952年に設立(創業は1939年)された自動車や各種機械の軸受機器、建築用および橋梁用の免震・制振・耐震装置を製造・販売するオイルレス(油を使わない)ベアリングの総合メーカーである。創業時からのトライポロジー(摩擦・磨耗・潤滑)に「振動減衰」を加えたコア技術の研究・開発を経営の中心に据え、独創的な製品を市場に投入することで、今ではこの分野におけるトップメーカーとして世界中でその製品が広く使われているグローバル企業である。免震、制振装置の分野においても世界のリーダーとしてオイレス工業ならではの創造的製品と技術が、社会の発展と安全・安心を支えている。
阪神・淡路大震災における高速道路高架橋の倒壊・崩落は、私たちに今もなお強い印象を残しています。世界有数の地震国・日本にあって地震による構造物の破壊を防ぐことは、私たちの生命・生活を守るために非常に重要です。こうした大地震の際の破壊的な地震動を柔らかく受け止め、その力を低減する技術を用いた構造が免震構造といわれるものです。
今回のインタビューでは、わが国でいち早く1970年代に免震・制振技術の開発に着手し、建築物や土木構造物の免震・制振・耐震装置で独創的な製品を次々に生み出しているオイレス工業(株) 第三事業部様に橋梁の免震装置と、免震設計の一環として同社が提供する「ゴム支承設計計算サービス」について伺いました。
「ゴム支承設計計算サービス」は、CTC の提案・システム開発によりWeb上で橋梁のゴム支承設計ができる無償のASPサービスで、支承設計システムの普及と迅速な顧客情報の収集が可能なシステムです。
大地震にも耐える免震橋梁が急増
わが国は、これまでも数多くの大地震により、大きな災害がもたらされてきました。特に橋梁は倒壊すると大きな被害が出るため、部材強度を高めることで強度を維持する「耐震技術」が主流でした。しかし近年は、構造物そのものを強く造る「耐震設計」から、構造物への地震力を弱めて相対的に構造物の耐震力を強める「免震設計」が注目されるようになってきました。
そのための方法として、近年では、橋桁を多径間連続化してゴム支承により支持し、地震時の力を各橋脚に分散させる「水平力(荷重)分散橋梁」や、振動を長周期化し、かつ地震エネルギーを吸収して地震力を低減する、より耐震性の優れた「免震橋梁」が多く採用されるようになってきました。その背景としては、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)以降、橋梁の耐震基準が見直されるなど、耐震性・安全性が以前にもまして重要視されるようになったことが挙げられます。私たちの生活に不可欠な社会インフラを守ること、そして、車による快適な走行や、もちろん第一に人々の安全を守ること、これらのために水平分散橋梁や免震橋梁のニーズが今までにもまして高まっているのです。
地震時の揺れを柔らかに吸収するゴム支承
積層ゴム支承(RB)はゴムと鋼板を交互に重ね合わせて一体成型したもので、ゴム単体に対して上下方向の剛性が大きく、より大きい荷重を支えることができま す。また、水平方向には柔らかいので温度や地震の動きに追従し、その弾性によって橋の周期を長周期化したり水平力の分散を図ることができます。鉛プラグ入 り積層ゴム支承(LRB)は、RBに鉛プラグを埋め込んだもので、鉛の塑性変形によって地震時に大きな減衰性能を発揮することができます。たとえばLRB を用いれば兵庫県南部地震で記録されたような1,000ガルの揺れを200ガル程度以下と約5分の1に低減することが可能です。鉛は塑性変形しても常温で 元に戻る(再結晶)する性質があり疲労しないので、長期に渡ってこのような優れた減衰性能を発揮することができます。当社のLRBはわが国の免震橋のさき がけとなった静岡県の宮川橋からはじまり、現在は各幹線道路の主要橋梁、アクアライン、第二東名・名神高速道路、またつくばエクスプレス線の荒川橋梁などの大規 模鉄道橋など、より高い耐震性の要求にも応え、多くの橋梁に用いられています。
CTCの提案で独創的なASPサービスを提供
水平分散橋、免震橋は地震力を制御したり減衰により力を低減させたりする一方、ゴム支承の特性が橋全体の振動特性に大きな影響を及ぼし地震時の挙動が複雑になることから、平成14年の「道路橋示方書」で動的構造解析を行うことが義務づけられるなど、橋の設計により高度な技術力が必要とされるようになりました。しかしながら、ゴム支承のための最適な 設計ツールがなく、また、最適設計を行うためには、動的解析と支承形状の修正作業を何度も繰り返えさなければならず、設計が収束するのに時間がかかるな ど、設計コンサル会社からLRBを簡単に設計できる計算ソフトウェアが望まれていました。
一方、公共投資の抑制が続く中で業者間の競争が激化、自社製品の普及拡大をいかに図るかが大きな課題となっていました。そこで当社のLRBの普及拡大を図 るため、社内で支承設計用ソフトウェアの開発を試みました。しかし、支承設計の初心者やこのソフトウェアに不慣れな人には使いづらく、また、配布した場合 のバージョンアップ管理などの問題もあって社外に出せるようなものの開発は進みませんでした。そういう時にCTC からASPによる「ゴム支承計算サービ ス」の開発提案をいただき、“これだ!”ということでCTC へお願いすることにしました。
CTC は、橋梁の構造解析で豊富な実績があると同時に、ITのスペシャリスト集団であることから、システムから運用に至るトータルな開発をお願いしました。ま た、私自身もかつて原子力発電所の機器の免震解析をCTC と共同で行った経験があることから、安心してお願いすることができました。
ユーザー、オイレス工業共に多くのメリット
「ゴム支承計算サービス」は、支承設計プログラムを無償でWeb上に公開、誰でもインターネットを介してゴム支承の設計ができるASPサービスです。支承メーカーでは初めての試みであり、当社のDNAとも言えるパイオニア精神を発揮できるとともに、技術力をアピールできると感じました。同時に、アクセスされた顧客情報や設計情報をデータベース化することで、営業支援ができるという側面も兼ね備えており、ユーザー、当社双方のニーズを満たすものとなっています。 本サービスは、Web上でユーザー登録し、E-mailでID、パスワードを取得すれば利用可能となり、ユーザーは支承設計Webサイトに設計条件やプロジェクト情報などを入力するだけで計算結果が得られるというものです。CTC からは2002年9月に提案いただき、約18ヵ月の開発期間を経て、これまでに以下の3回のステップでリリースしました。
- 支承のゴム部分の設計ができ、ゴムの強度、層数、鉛プラグの数などの解析が可能(2004年5月リリース)
- 鋼板の設計を追加し、全体の寸法が把握でき、より詳細な橋の設計が可能(2004年11月リリース)
- 耐震補強に最適な制振ダンパーの検討が可能(2006年8月1日リリース)
これにより、ユーザーは次のようなメリットがあります。
- 支承ばねや支承概略寸法、動的解析に必要な諸元など、水平分散橋や免震橋の設計を進めていく上で必要なデータをすぐに求めることができる。
- 慣れている人ならゴムの形状は10~20分、図面作成までも1~2時間と、図面から計算書まで非常に短時間で作成することができる。
- 自動でゴムの形状、鋼材の形状が出てくる上、反力等を見ながら条件に合わせて形状を容易に修正できる。
- 減衰力が大きく、かつ下部構造に伝わる地震力をコントロールできる耐震補強に最適な制振ダンパーの検討ができるようになった。制振ダンパーは、国交省が進めている平成17年から耐震3ヵ年計画(昭和55年以前の基準で設計された国交省管轄の国道、都道府県の道路の耐震補強)などの耐震補強の要求に対し非常に有効である。
すでに設計コンサル会社を中心に多くのアクセスがあり、いくつかのコンサルの方からは「大変便利なので活用している」という言葉もいただいています。一方、当社にとっても、ゴムや鋼材の計算書等からユーザーの状況が把握でき、これらの情報を営業へフィードバックすることで、営業を強力に支援できるようになりました。また、最近では受注時の資料にWebのフォームで打ち出した計算書が増え、業務の効率化が図れるなど、双方にとってメリットを享受できるシステムとなっています。
利用すればするほど使い勝手が向上
本サービスは、CTC のデータセンターで運用していただいていますが、セキュリティも万全で安心してお任せしています。CTC の提案があってから4年経ち、当初の予想を上回る効果を挙げています。今後は、入力をもっと簡単にし使い勝手を向上させることや、EXCELなどとの連携も図れるようにしていきたいと考えています。さらに将来は、動的解析との連携や設計方法の変更にも対応できるようにすることが課題です。
今後も雑誌、営業活動、講習会などを通じて本システムのアピールをしていくとともに、橋梁設計に携わっている皆様には、使いこなせば使いこなすほど便利に使えるシステムですので、ぜひご利用いただきたいと願っています。
「地震大国」などありがたくない言葉がついて廻る日本にあって、先端をいく橋梁の免震、制振技術でインフラを守るオイレス工業(株)様の取り組みがよくわかる内容のインタビューでした。CTC としても、今後の「ゴム支承設計計算サービス」のバージョンアップにお応えできるよう、解析ツールの整備、より使い勝手のよいシステムにすべく努力して参りたいと思います。(聞き手:CTC亀岡)