東洋ゴム工業株式会社 タイヤカンパニー 様設計のさまざまな段階でiSIGHTを利用
-要求性能を満たすためのブレークスルーを期待-
お話を伺った方
タイヤ先行技術開発部 CAEグループ長
大石克敏様(写真右)
タイヤ先行技術開発部 CAEグループ
担当課長代理
島 一郎様(写真左)
訪問先
TOYO TECHNIACL CENTER:
兵庫県伊丹市藤ノ木2-2-13
元F1ドライバーのジャン・アレジと後藤久美子夫妻をTVCMに起用したミニバン専用タイヤ「TRANPATH(トランパス)」でおなじみのTOYO TIRE。車両ごとの専用タイヤという発想は、同社が業界で初めて導入されたものです。セダンに比べて重心が高いミニバンの走行性能に適したタイヤの開発によって、「ミニバンならTOYO TIRE」という評価を獲得しました。2006年6月には、コンビニ配送・宅配便でよく使われる小型トラックにも専用タイヤ発想を取り入れ、新ブランド「DELVEX(デルベックス)」を発表しています。
タイヤの開発・設計には、CAEによるシミュレーションが積極的に取り入れられています。同社タイヤカンパニー タイヤ先行技術開発部CAEグループでは、エンジニアリング・プロセスの自動化・統合化・最適化システム「iSIGHT」を導入し、シミュレーションの最適化を図っておられます。今回は、iSIGHTの活用事例についてお伺いいたしました。
車両ごとの「専用タイヤ発想」を支えるシミュレーション
TOYO TIRE様では、自動車メーカーに納入する新車用のタイヤと、一般向けに販売される汎用品のタイヤとはまったく別に開発されています。新車用は、自動車メーカーからの「次の車両にはこんな性能のタイヤが欲しい」という要望に対して、新車専門の設計部門が開発して提案する、いわば究極の専用タイヤです。
一方、汎用品は、以前は乗用車かトラックかといった車種とタイヤサイズだけで考えられていました。そこに、車両ごとの「専用タイヤ」というコンセプトを導入したのはTOYO TIRE様が業界で初めてだそうです。マーケティング部門の「これからはミニバン系の車がブレイクする!」という予測に基づき、「ミニバンとセダンでは重心の高さが違い、走行性能も異なる、それなら、ミニバンに合ったタイヤを開発すれば消費者に受け入れられるのでは」との発想から専用タイヤの開発が始まりました。
タイヤに求められる性能には、操縦安定性、振動、乗り心地性、制動性、耐磨耗性、高速耐久性などがあります。こうした要求性能を満たすタイヤを、効率的に設計するために、同社CAEグループでは各種の解析・シミュレーションに取り組んでいます。専用タイヤの開発にあたっては、ミニバンとセダンの走行時の挙動の違いを数値データとして明らかにして、タイヤの解析・設計に活かしました。
TOYO TIRE様には、T-mode(http://toyotires.jp/technology/tmode.html)という設計基盤技術があります。これはタイヤの挙動を解析するタイヤシミュレーションに、走行中の車両の挙動を解析するドライビングシミュレーションを融合させたものです。
ドライビングシミュレーションでは、ミニバンやセダンの特性を捉えて外力として使用し、走行中のタイヤのさまざまな状態を高精度に知ることができます。タイヤ業界でこうしたドライビングシミュレーションの導入は初めてとのこと。その結果、ミニバン専用タイヤに必要な性能が明らかになり、それらを実現する最適な設計を求めて、タイヤシミュレーションで形状や振動状況などの解析が繰り返されました。
「タイヤの形状設計では、鉛筆の線1本分ずれても性能が変わってしまうことがあります。そういった微細な部分をどれだけ変形させればよいかということは、特に若い設計者の知見ではなかなか見つけにくいもの。シミュレーションではそうした点が容易に明らかになります」と大石克敏CAEグループ長。CAEグループのシミュレーションは専用タイヤ開発の大きな力となっているのです。
iSIGHTで膨大な解析結果を統合
TOYO TIRE様のCAEの特徴は、タイヤに特化したFEMコードを自社開発されていることです。タイヤの解析は非常に難しく、大変形、複合材料、材料異方性、粘弾性、摩擦、転動など多くの解析を必要とします。また、タイヤの形状、材料となる混合ゴムの配合、構成部材の組み合わせなどを変えて、何通りもの解析が行われます。さらに設計の前段階での絞り込み、最終段階のチューニング、販売後のクレーム対応のための事象の再現など、非常に守備範囲が広く、さまざまなステップで解析・シミュレーションが行われています。
そこで、膨大な解析結果を統合し、効率よく判断するために、CAEグループでは「自動化・統合化・最適化システムiSIGHT」を導入されました。
「例えば、タイヤが地面に接触しているときの接地面の形状や圧力の分布は非常に重要です。こうした解析はタイヤシミュレーションでパラメータを自動的に変えて行い、多くの結果から最適な組み合わせを抽出し、それを参考に設計していきます。昔は設計者の勘で“この条件”と決めて解析を行っていましたが、いまはiSIGHTと各種のソフトを組み合わせて解析することで、よりよい答えをより早く手に入れられるようになりました」と島一郎CAEグループ担当課長代理。「タイヤの性能はトレードオフの固まりといってよく、バランスチューニングが非常に難しいのです。実験計画法などで、ある程度特性はわかっているのですが、その精度をさらに上げるのにiSIGHTは役立っていると思います。」
「かっこよさ」と「音が静か」、相反する要望も最適化で実現
TOYO TIRE様は、アメリカではNITTO TIREというブランドで展開しており、ピックアップトラック専用タイヤなどの特殊なジャンルで非常に人気があります。そうしたジャンルでは、かっこよさを追求するため、「トレッドパターンは炎が燃え上がるようなアグレッシブな感じで、でも音は静かに」というような、相反する性能が製品に求められることがあり、そうした製品の開発でもシミュレーションを活用した最適化が一役買っているそうです。
また、最近は新製品の投入サイクルが早くなっており、開発期間の短縮が求められることも多いそうです。そうした中で、大石CAEグループ長からは「シミュレーションに期待するのは、要求性能を満たすためのブレークスルーの方向を示してくれること。iSIGHTに今後も大いに活躍してもらいたいと思っています」との言葉をいただきました。
事例1:トレッドパターンの設計問題で計算時間97%オフ
タイヤには目的に応じたトレッドパターンがついており、このトレッドパターンが道路に接触することによって音が発生します。音を低減するためには、トレッドパターンをどのように変えたらよいかを理論に基づき検討します。複雑なパターンになると変数が増え、総当りで計算すると膨大な時間が掛かります。iSIGHTを利用して最適化した結果、あるケースでは計算時間が97%減となりました。また、総当り計算より、よいポイントが見つかることもあります。
事例2:変数の最小化でタイヤ接地性能11%向上
ある解析事例では、制約条件を満たしながら、目的の変数を最小化することを目指したところ、ベースとなる状態に比べて、一般的な実験計画法を使った場合は5%、iSIGHTを使って形状の最適化まで行った場合は、11%タイヤ接地性能が向上しました。
事例3:構造部材性能の最適化に利用
タイヤの内部に使われている、鉄線やナイロン線などの部材の物性がどうあるべきかをiSIGHTを使って解析しています。
TOYO TIRE様では、iSIGHTを非常に有効にお使いいただいていることを改めて知ることができました。「フラフラしない」ミニバン専用タイヤもシミュレーションの積み重ねで開発されているのですね。これからもよりよいタイヤの開発および自動車業界の発展にご活躍いただきますようお願い申し上げます。(聞き手:CRC遠藤一人)
名称 | 東洋ゴム工業株式会社 http://www.toyo-rubber.co.jp |
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本社所在地 | 〒550-8661 大阪市西区江戸堀1-17-8 |
設立 | 1945年8月1日 |
社長 | 代表取締役社長 片岡 善雄 |
資本金 | 239億7,462万7,991円 |
主な事業概要 | 自動車タイヤ、工業用ゴム・プラスチック製品、硬・軟質ウレタン製品、防水シート、自動車部品用防振ゴム、シートクッション、スポーツ用品の製造・販売 |