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清水建設株式会社 様メタンハイドレート資源開発に伴う
地層変形予測プロジェクトを展開

お話を伺った方

清水建設株式会社 清水建設株式会社 技術研究所先端技術開発センター
メタンハイドレートプロジェクト
主任研究員 工学博士 技術士
荻迫 栄治様



清水建設(株)の創業は1804年、初代清水喜助が江戸神田鍛冶町で大工として開業したことに始まる。1838年には江戸城西丸造営工事に携わり、それを契機に大名家の御用達大工として社会的信用を高めた。やがて明治には、時代の先端の洋風建築技術を修得し、我が国初の本格的洋風ホテルや銀行の設計施工を手がけた。創業以来200年にわたり、技を磨き、力を蓄え、新しいものにチャレンジすることで成長を続けてきている。

「燃える氷」と呼ばれるメタンハイドレート。石油・石炭に続く新しいエネルギーとして注目されており、日本周辺に存在する資源量は7.4兆立方メートルと試算されています。経済産業省は2001年7月に「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」を発表し、メタンハイドレートを経済的に掘削・生産回収するための技術開発を推進しており、2002年1月には「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」が発足しました。清水建設(株)はこの中の環境影響評価グループに加わり、地層変形予測技術開発の研究を進めています。主任研究員の荻迫栄治氏に最先端プロジェクトの動向をお伺いしました。

メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムに参加。

メタンハイドレートは水分子が籠状の構造を作り、メタンガスを閉じ込めたものです。見た目は氷状のもので、物性的にも氷に似ていますが、メタン分子が閉じ込められているため火をつけると燃えます。それで「燃える氷」(図1参照)と呼ばれているのです。

水分子が籠状の構造を作り、メタンガスを閉じ込めたもの   人工メタンハイドレート 人工メタンハイドレート   燃える氷 燃える氷
     

水分子が籠状の構造を作り、
メタンガスを閉じ込めたもの
Ⅰ型:CH4・5.75H2O
水分子46個+メタン分子8個

 
Ⅰ型:CH4・5.75H2O 水分子46個+メタン分子8個
図1 メタンハイドレートの性質
資料提供:清水建設(株)

メタンハイドレートが安定して存在する条件は低温・高圧であることで、温度が高かったり、圧力が低かったりすると分解してメタンガスと水になってしまいます。そこで日本近海では、深度が1000~2000mで、なおかつ海底面から200~300m下の大深海域がメタンハイドレートの安定存在領域となっています。特に、南海トラフすなわち四国沖から東海沖にかけてと、北海道の周辺などに多く存在すると言われています(図2参照)。日本周辺のメタンハイドレートの資源量は7.4兆立方メートルと試算されており、これは日本の天然ガス消費量1年分の約100倍、つまり100年分に相当します。

日本周辺海域における天然メタンハイドレートの分布  

1.南海トラフ
a:四国沖
b:室戸舟状海盆
c:東海沖~熊野灘
2.奥尻海嶺
3.千島海溝周辺(十勝・日高沖)
4.オホーツク海(網走沖)
5.西津軽沖

図2 日本周辺海域における天然メタンハイドレートの分布 ( http://www.jnoc.go.jp/ より )

これだけの資源量が確かに存在するなら、資源が少ない日本にとっては貴重なエネルギー源となる可能性があります。そこで、2001年7月に経済産業省が「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」を発表し、それに基づいて開発計画が立ち上がりました。 この計画は3つのフェーズに分かれています。フェーズ1(2001~2006年)では主に基礎的な研究を行います。フェーズ2(2007~2011年)では海洋での実証実験が計画されており、フェーズ3(2012~2016年)では商業的に成り立つかどうかを検討、総合的な評価が行われる予定です(図3参照)。この計画を受けて、2002年1月に「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21)」が発足し、ここを中心に研究開発が進んでいる状況です。

メタンハイドレート開発計画スケジュール図3 メタンハイドレート開発計画スケジュール
http://www.mh21japan.gr.jp/より

MH21には3つの大きなグループがあります。「資源量評価グループ」は石油公団を中心に、メタンハイドレートの賦存域や賦存量を探査する技術を研究しています。「生産手法開発グループ」は(独)産業技術総合研究所を中心に、メタンハイドレートを生産する際の安全かつ経済的な生産技術を開発しています。「環境影響評価グループ」は(財)エンジニアリング振興協会を中心に、生産に伴って周辺の海域にいろいろな影響を及ぼす可能性があるので、そうした海底環境に与える影響を予測・評価する技術を開発しています。環境影響評価グループは、さらに「海域環境調査評価」「モニタリング技術」「HSE(Health Safety Environment)調査」「地層変形予測技術」の4つのサブグループに分かれており、清水建設はこの地層変形予測技術サブグループに所属して活動しています。メタンハイドレートの生産に伴って、周囲の海底地盤に変形が発生する可能性が考えられます。当サブグループでは、それを定量的に予測・評価する技術に関して研究を行っています。具体的には、海底地盤の物性を評価して、変形を予測するための構成式を構築したり、それをベースに実際に地層の変形を予測するためのシミュレータを開発するといった項目について検討しています。また、地盤の構成式の構築では、京都大学の岡教授に共同研究という形で取り組んでいただいています。

メタンハイドレードの生産は改定地盤にどのような影響を及ぼすか。 

地盤の変形をなぜ予測する必要があるのでしょうか。1立方メートルのメタンハイドレートは温度が上がったり、圧力が低くなると170立方メートルのメタンと0.8立方メートルの水に分解します。メタンハイドレートを海底の地層から取り出すときは、分解して取り出しますので、その際にメタンハイドレート層に体積や圧力の変動が生じ、それが上部の海底地盤にどういう影響を及ぼすかを研究する必要があるのです。つまりメタンハイドレート開発では、これまでの石油などの海底資源開発とは異なるアプローチが必要であり、私どものような建設会社が従来から行ってきた地盤工学の分野の実績・知識を役立てることができるのではないかと考えています。  もちろん今回のような大深度の海底地盤については、当社も含めて地盤工学では経験のない領域です。しかし、そうはいっても従来の地盤工学の経験や技術を応用していけるはずであり、当社では軟弱地盤を含めて陸上や近海の埋立地などで豊富な経験があり、それらをもとに新しい課題も含めて研究を進めています。。

最終目標は地層変形予測プログラムの開発。

南海トラフでは海底面の下200~300mくらいのところにメタンハイドレート層があることがわかっています。実際にここを掘削して、メタンと水に分解すると、そこに体積や圧力の変化が生じ、その結果、海底地盤の変形を引き起こす可能性があります。その変形を予測するのが、我々のグループのメインテーマ(図4参照)です。

メタンハイドレート開発に伴う地盤変形 図4 メタンハイドレート開発に伴う地盤変形
資料提供;清水建設(株)

フェーズ1では、「感度解析」「地盤物性評価」「構成式の構築」「プログラム開発」という4つの検討項目があります。感度解析は、メタンハイドレートを含む地盤の物性が分かっていないので、パラメータスタディをして、海底地盤に影響を及ぼすと考えられる地盤パラメータを抽出することを目的に行っています。それと並行して地盤の物性を評価します。まだ実際の海域から採取したコアはないので、まず氷模擬試料による力学試験を行います。また、メタンハイドレート生成装置を設計・製作し、模擬メタンハイドレート試料を作成し力学試験を行って、力学特性を把握していきます。そうした実験や解析で得られた知見をもとに、地盤を構成する構成式を構築します。そしてそれを取り込んだ地層変形のプログラム開発が、フェーズ1の最終的な目標です。今はフェーズ1の3年目で今年度の終りに中間評価を受けることになっています。現在の進捗状況は、感度解析では、昨年度はCRCの地盤FEMシステム「Mr.SOIL3D」でいろいろな条件の解析をやっていただきました。今年度は、京都大学の岡教授の研究室で開発されたモジュールを用いてさらに詳細な感度解析を行っています。地盤物性の評価は、今後、人工のメタンハイドレート試料を用いていろいろな応力条件下で力学試験を行っていきます。構成式については、地盤の構成式に関する既往の研究や解析手法について調査・分析するとともに、氷模擬試料や模擬メタンハイドレート試料の力学試験について既存の構成式を用いたシミュレーションを現在実施しています。これらの検討結果を基に、今年度中に既存の構成式の適用性についての見極めを行う予定です。これら3つの項目を総合的に判断するのと同時に、システムの基本設計は並行して走らざるを得ませんので、どういったシステム構成がよいかをCRCにも協力していただきながら検討しています。昨年度は全体的な骨組みの検討、今年度はシステム設計の仕様書を作るための検討を進めました。構成式は今後の検討過程で固まっていくわけですが、全体的なシステムの流れは今年度中に作りこんでいきます。そして来年度よりいよいよシミュレータをCRCに協力していただきながら開発していく予定となっています。

諸外国も注目するメタンハイドレート開発研究に意欲的にチャレンジ。 

今後、生産手法開発グループで検討された結果によって、メタンハイドレートの分解方法がわかってきます。完成後の地層変形予測プログラムは、そうした条件を反映させて解析を行い、生産によってどのような地盤への影響があるかを評価することになります。ただ、メタンハイドレート層についてはまだわからないことがたくさんあるので、実験―評価―解析を繰り返し行っていく必要があると思います。 現在、メタンハイドレートの開発は日本が研究の中心となっており、その動向は諸外国も注目しています。将来の日本のエネルギー開発という面で期待の持てるテーマでもあり、当社にとっても、今までにない新しいことにチャレンジしており、非常に意欲的に取り組めるやりがいのある仕事です。CRCには解析やプログラム開発で、これまでの経験やノウハウを活かしご協力していただけるということで期待しています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
清水建設様には長年にわたり幅広い分野で、CRCをご利用いただいています。このたびはメタンハイドレート資源開発のような日本の将来を担うプロジェクトに協力することができ、私たちもたいへんやりがいを感じており、プロジェクトが成果を上げることを願っています。

最後に、荻迫様には貴重な時間を頂戴いたし、誠にありがとうございました。(聞き手:CRC亀岡)

名称 清水建設株式会社
清水建設株式会社
http://www.shimz.co.jp/

本社所在地 〒 105-8007 東京都港区芝浦 1-2-3 シーバンス S 館
創業 1804年(文化元年)
社長 野村哲也
資本金 743億6,500万円(2003年3月31日現在)
売上高 1兆2,868億300万2003年3月期)
従業員数 12,181人(2003年4月1日現在)
主な事業概要 建築、土木等建設工事の請負。建設工事に関する調査、企画、研究、評価、診断、地質調査、測量、設計、監理、マネジメントおよびコンサルティング業務。地域開発、都市開発、海洋開発、宇宙開発、資源エネルギー開発および環境整備等に関する調査、企画、設計、監理、マネジメントおよびコンサルティング業務 他
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