HOME訪問インタビューユーザー訪問

株式会社熊谷組 様耐震解析ソフトウェアを幅広く活用し、
地震リスクや免震・制震コンサルティングを展開

お話を伺った方

株式会社熊谷組株式会社熊谷組 建築事業本部
ソリューション営業部
エンジニアリンググループ
耐震担当
課長:荻野伸行様

(株)熊谷組は「建設を通して社会に貢献する」を経営理念に、熊谷組は仕上がりの品質だけでなく50年後100年後に評価される「品質」にも自信と誇りを持てる技術者集団を目指している。超高層ビルでは、日本のみならず世界で15棟の施工実績があり、特に現在、台湾で建設中の台北国際金融センターは地上101階、508mで完成すれば世界一高い建築物となる(2004年末竣工予定)。

図1 世界最高508mに到達!2003年10月9日 図1 世界最高508mに到達!2003年10月9日
 
図2 マスダンパー(TMD:Tuned Mass Damper TMD 重量 650t) 図2 マスダンパー
(TMD:Tuned Mass Damper TMD 重量 650t)
資料提供:(株)熊谷組様

■TAIPEI101【台北国際金融センター】
場所: 台湾台北市信義区
階数:(タワー棟) 地上101階、地下5階
(ポディアム棟)地上6階、地下5階
面積: 敷地面積30,277m2
建物面積15,081m2
延床面積412,500m2
高さ: 508m[ピナクル(尖塔)45mを含む](竣工時世界一)

熊谷組のソリューション営業部エンジニアリンググループは、耐震関連・環境関連・産業施設関連・ソフトウェアエンジニアリングの4つの分野で、専門の技術・ノウハウを活用して、調査・分析・評価・診断等によるアドバイスや企画提案・設計を行っています。そのうち耐震関連分野では、免震・制震構造や高耐震構造の解析、地震リスクマネージメントや地震PMLの算出などで、CRCの耐震関連ソフトウェアを幅広くご活用いただいています。同グループの荻野伸行氏にお話を伺いました。

3次元動的解析プログラム【DYNA2E】に非線形特性を追加。

熊谷組の耐震部門では1980年代の後半に免震構造の開発に取り組み始め、汎用的な動的解析のツールを探していました。当時、土木部門がCRCの【DYNA2E】(線形)を導入していて、これが3次元動的解析も可能なことに着目。免震・制震要素の非線形特性や風荷重のパワースペクトル評価の追加、後処理機能の充実など、さまざまな改良をCRCにお願いしました。現在では、免震・制震や各種の振動問題(風・歩行・交通振動等)を取り扱うプログラムとして、企画・設計などの提案業務で活躍しています。

超高層免震建物 (地上35階 2003.12月着工) 図3 超高層免震建物 (地上35階 2003.12月着工)
資料提供:(株)熊谷組様

【DYNA2E】では、主として3次元立体フレームによる地震応答解析、例えば免震層の免震部材を全てモデル化した場合などを解析しています。また、振動実験のシミュレーションや擬似立体フレームによるねじれ応答解析、歩行や交通などの振動問題で居住性評価をするプログラムとして使用しています。

最近は、高層ビルでの免震部材の導入が定着してきているほか、レトロフィットといって既存建物に免震や制震構法を導入することによって、建て替えずに耐震性能をアップさせることも増えています。耐震部門のコンサルタントとしての出番も多くなっているため、ますます【DYNA2E】を活用することになると思います。


【D-SEIS】と【D-WAVE】を地震危険度分析に活用。 

高層ビルや免震・制震構造のコンサルティングでは、それらを建てようとする敷地の地震危険度分析や模擬地震動(サイト波や告示波)の設定が不可欠です。(図4参照) これらの業務のためのツールとしてCRCの地震危険度・基盤加速度予測システム【D-SEIS】と地震動作成/波形処理システム【D-WAVE】に着目しました。

地震危険度分析・模擬地震動の設定 図4 地震危険度分析・模擬地震動の設定
資料提供:(株)熊谷組様

敷地の緯度経度からそこで発生し得うる地震動の大きさと確率を予測する【 D-SEIS
D-SEIS】は、日本の歴史地震データおよび活断層分布データから、任意の対象地点における基盤加速度や地震ハザード曲線などが出力できるシステムで、CRCと住友建設(当時)さんが共同開発されたものです。土木部門向けという印象が強かったのですが、解析項目や距離減衰式が豊富なので建築部門でも使用できると判断し、建築物荷重

指針による地震危険度分析の評価をはじめ、設計者の意図の拡大を目指した必要な機能追加をお願いしました。 現在、当社では「耐震リニューアル」という観点で、地域ごとに地震危険度分析の評価を盛り込んだ営業を展開しています。例えば、東海地域で耐震診断をする場合、東海地震の起きる確率と加速度または速度を【D-SEIS】で想定し、だから耐震補強はこのくらい必要ですといったご提案を行っています。

当該敷地で予想される地震動を模擬する【 D-WAVE 】
前述のように耐震診断を行う際に、例えば東海地震が起きた時、その場所がどのくらいの影響を被るかがわかれば説得力があります。【D-WAVE】は耐震解析を行う上で必要になる地震動の作成と波形処理を行うプログラムで、ピンポイントの解析・評価を可能にします。

【D-WAVE】には、模擬地震動の策定方法のうち建築でいちばんよく使われている小林・翠川の「距離減衰式に断層の広がりを考慮した方法」を追加していただくとともに、2000年6月の建築基準法の大改正に対応し免震・制震をイメージした改良をしていただきました。

D-SEIS】と【D-WAVE】は、現在、免震・制震構造の設計用入力地震動の検討、耐震診断(耐震リニューアル)で利用するほか、地震リスク分析での入力データとして使用しており、相当な実績を上げています。また、最近は国内や海外の観測地震網からインターネットを経由してほぼリアルタイムに地震データが入手できます。【D-WAVE】、【D-SEIS】はこうしたデータを素早く取り込んで地震危険度評価につなげることもでき、非常に助かっています。

地震リスクマネージメント(SRM)のプログラム作成。

図5 SRMのブロックチャート 図5 SRMのブロックチャート

地震リスクマネージメント(SRM: Seismic Risk Management)は、地震災害が企業経営に与えるリスクを把握し、各種の事前対策を行った場合のリスク低減効果を経済的観点から数値化し、経営上の判断材料を提供する手法です。

当社でも1998年ごろから開発を進めており、ノウハウを構築した時点でソフト化することにしました。その際、CRCが原子力部門でリスク評価を手がけていることと、SRMに必要な地震ハザードを【D-SEIS】からファイル出力しリンクさせることができるため、CRCにプログラム作成をお願いしました。このプログラムは、SRMとともに後でお話する地震PMLを算出する機能も持っています。

図6 イベントツリー(ET) 図6 イベントツリー(ET)

SRMは図5のブロックフローチャートに示すような手順で検討を行います。対象施設の情報と対象敷地の【D-SEIS】による地震危険度情報を合わせて、リスクを評価します。リスクの評価ではイベントツリー(ET)を作ります。(図6参照)ここがいちばん大事なところで、ある地震が発生したときの被害形態と被害要因をすべて明分化し、それが起こる確率と損害額を計算しリスクを評価します。リスク(R)は被害の発生確率(P)と損害額(C)の掛け算で算出できますが、ケースによっては数千~数万ラインもの組み合わせがあり、それを一気に計算する必要があります。また、どんな対策を施せばリスクが低減されるかも計算できます。その結果を用いて、リスクの低減効果を含めて金額に換算し総合的に評価します。被害形態に複数の事象があり枝分かれしている(FT;フォールトツリー)ような場合も分析でき、相当高度なSRMが解けるようになっています。

例えば、地震で屋上排気塔が壊れると工場は機能停止するといったような場合は、物損だけでなく営業的損害も勘定に入れる必要があります。逆に屋上の排気塔を補強すればリスクはかなり下がるわけで、費用対効果は高いということになります。こうしたリスク評価のツールとして、このプログラムを活用しています。


図7 地震リスク評価システム(SRM評価) 図7 地震リスク評価システム(SRM評価)

不動産の格付けに用いられる、地震PMLの算出も可能。 

最近、不動産の証券化が注目を集めています。これは、ビルなど不動産が生み出すキャッシュフローを受け取る権利を、株式や債権などの形に変換することです。証券化にあたっては、該当する不動産について現状分析/短期・長期修繕計画/環境等、さまざまな検討を行いエンジニアリングレポートとして提出する必要があり、耐震性能の指標の1つとして地震PML(Probable Maximum Loss:予想最大損失率)が用いられています。

地震PMLは、建物が地震によりどの程度の損害が発生する可能性があるかを評価する手法です。現在、PMLの定義は、今後50年間に10%以上の確率で生じる地震動の強さ(年間発生確率で1/475)に対して、建物の損傷が90%の信頼性のレベルにある損失率と定義されています。本プログラムでは、SRMの思想をベースに再現期間1/475年相当の地震に対する損失額の期待値(NEL)と、この値に対して90%の信頼性レベルとなる予想最大損失額(PML)を計算します。また、地震動のばらつきを考慮することも可能です。(図8参照)

地震PML評価事例

  1. 地震危険度分析により想定される最大級の地震動αgalを設定。
  2. PML評価に必要な被害形態をイベントツリーにより評価し、想定地震におけるリスクを定量化。(R=P×C)
  3. 想定される被害から修復費を想定し、建替工事費に対する割合をPML値として評価。

* 一般的に「証券化の不動産格付け」では、損害額を確率的に表現し、90%の信頼レベル(想定される損害を超える確率が10%のみである)に対して、PML値を評価します。

地震リスク及びPML評価 図8 地震リスク及びPML評価

図9 地震リスク評価システム(PML評価) 図9 地震リスク評価システム(PML評価)
資料提供;(株)熊谷組様
参考文献: Mamoru Mizutani
[Basic Methodology of Seismic Risk Management (SRM) Procedures]
ICOSSAR'97 Structural Safety and Reliability Vol.3 pp1581~1588


要求性能が上がる建築物。ソフトウェアの使い勝手もますますの向上を。 

建築物はどんどん高層化しています。日本ではまだ200m前後ですが、いま当社が施工を請け負っている台北国際金融センターは508mもあります。構造的にも機能的にも要求性能が上がっているわけであり、そうした要求にわれわれの部署としても対応していかなければいけません。建物だけでなく、地震動、危険度など地面もからんでおり、両方の技術を網羅していく必要があります。日本も台北も地震は避けて通れない問題であり、個別建物のピンポイントでも評価できなければいけない。われわれもせっかく技術を積み上げてきたので、そういったところに全部適応できるようにしたいと思います。

特にSRM、PMLのソフトウェアを開発したことで、大手と肩を並べる解析が可能になったと自負しています。いままでは耐震診断とその性能を確保するための耐震補強を主に実施してきましたが、今後はリスクや建物価値を総合的に判断し、費用対効果を考慮した対策、例えば、この建物の弱点はここだから、こういう対策のほうが費用対効果がもっといいですよという提案もできるはずです。ゼネコンとして大きな仕事にならなくても、お客様に最適な提案ができることが重要と考えています。

CRCのソフトウェアにはたいへん感謝しています。これからの要望としては使い勝手のよさの更なる追求と、プレゼンテーション用にビジュアル面を充実していただければと思います。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
熊谷組では、耐震関連のコンサルティングで数々の実績を上げておられます。特にSRMとPMLに関しては、こうした理論の前線に立って開発を進めてこられました。CRCもその一端を担わせていただくことができ、たいへん勉強になりました。

最後に荻野様には貴重な時間を頂戴いたし、誠にありがとうございました。(聞き手:CRC亀岡)

名称 株式会社熊谷組
株式会社熊谷組 http://www.kumagaigumi.co.jp/
本社所在地 〒162-8557 東京都新宿区津久戸町2-1
創業 1898(明治31)年1月1日
設立 1938(昭和13)年1月6日
社長 鳥飼一俊
資本金 344億円(2003年3月31日現在)
従業員数 4,167名(2003年3月31日現在)
主な事業概要 建設工事の調査、測量、企画、設計、施工、監理、技術指導その他総合的エンジニアリング、マネジメントおよびコンサルティングならびに請負 他
このページの先頭へ