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財団法人 鉄道総合技術研究所 様安全な鉄道を目指し地震防災技術の研究・開発に取り組む
-「将来型早期地震警報システム」のプロトタイプ完成-

お話を伺った方

 防災技術研究部
地震防災研究室長 :芦谷公稔様

(財)鉄道総合技術研究所は、1986年12月に運輸大臣(現国土交通大臣)の許可を得て発足し、1987年4月1日の日本国有鉄道の分割・民営化に伴い、研究・開発部門を承継する法人として事業活動を開始した。

車両、土木、電気、情報、材料、環境、人間科学など、鉄道技術に関する基礎から応用までのあらゆる分野を対象とした研究活動を展開している。

研究開発の目標を、「信頼性の高い鉄道」「低コストの鉄道」「魅力的な鉄道」「環境と調和した鉄道」に置き、鉄道技術の革新にチャレンジしている。

財団法人鉄道総合研究所(以下、鉄道総研)防災技術研究部は、雨・風・雪・地震による鉄道沿線の自然災害を防止するための研究開発や地形・地質に関係する地盤の諸問題の研究を行っています。

また同部の中の地震防災室では、地震の早期検知・警報や地震による 構造物の被害推定、地震時の運転規制などの地震防災技術全般および 列車走行に伴う沿線地盤振動の予測・対策に関わる研究開発を行っています。

同室では、2000年度より3年計画で「将来型早期地震警報システムの開発」に気象庁と共同で取り組んでこられました。3年目の2002年度はプロトタイプの開発が行われ、CRCもその中の「鉄道構造物の被害推定システム」の構築に協力しました。

早期地震警報システムについて、地震防災研究室長の芦谷公稔氏にお話をお伺いいたしました。

ナウキャスト地震情報の活用を想定した「早期地震警報システム」の開発に着手

地震が発生したとき、素早く列車の運行を止め、安全を確認するために、現在は新幹線を中心にユレダス(早期地震検知警報システム)が導入されています。ユレダスは10年前に鉄道総研が開発したもので、鉄道独自の観測点から集められる地震情報をもとに防災に一定の成果を上げてきました。

しかし、この10年間で、コンピュータやネットワーク技術が飛躍的な進歩をとげ、また公的機関を中心とした高密度な地震観測網が整備されたことにより、地震そのものの現象をリアルタイムで解析し評価していくという、リアルタイム地震学が発展してきました。私たちはユレダスの開発にあたって、リアルタイムで地震をモニターし、その後大きな被害が発生するかどうかを予測し列車の運転を制御するというコンセプトを持っていましたが、まさにそうした思想をバックアップする新しい知見がたくさん集まってきたのです。

一方、気象庁では、全国ネットの情報網を使ってリアルタイムの地震情報を発信しようという計画を進めています。1つは、気象庁が設置した全国180箇所の地震計から、地震発生直後の緊急即時情報(ナウキャスト地震情報)を配信するというもの、もう1つは、全国の自治体など約3500箇所に設置されている震度計の震度情報などを気象庁に集約し、それをもとに1kmメッシュでの推定震度などの情報(面的震度情報)を計算して配信するというものです。配信までは5分程度を想定していますので、被害推定の情報発信は数分オーダーとなります。

私たちは気象庁と共同で、これらの情報を活用し、リアルタイム地震学の新しい知見を反映させた新しい「早期地震警報システム」の開発を進めています(図1参照)。

図1 将来型地震警報システムのイメージ 図1 将来型地震警報システムのイメージ

地震情報を運行制御に反映させるためのアルゴリズムの研究から。 

システムの開発にあたり、1年目はまず、単独観測点のデータのみで地震の規模や位置を推定するための新しいアルゴリズムの研究に取り組みました。その結果、地震波のP波の初動3秒程度の波形から、震央距離とマグニチュードを推定する新しいアルゴリズムを開発しました。この新アルゴリズムは気象庁のナウキャスト地震情報の処理にも適用される予定です。

また、どういう地震波の情報が鉄道構造物の被害推定に有効かという研究も行いました。
鉄道構造物の被害と地震動指標の相関関係を調べた結果、正規化周期(地震動の卓越周期を構造物の降伏周期で除したもの)と正規化加速度(地震動のPGAを構造物の降伏加速度で除したもの)の関係で見ることにより、構造物の耐震性能に応じたきめ細かい被害の推定が可能となることがわかりました(図2参照)。

こうした研究をもとに、2年目は、ナウキャスト地震情報を活用し、大きな揺れ(地震の主要動)が来る前に該当するエリアの列車の運転を制御するシステムや、面的震度情報をもとに構造物の被害推定を行い、それに基づいて鉄道の安全確認や運転再開を迅速に行うための支援システムの設計を行いました。

そして3年目の2002年度は、その成果をもとに「早期地震警報システム」のプロトタイプを構築しました。CRCには「鉄道構造物の被害推定システム」の構築でお手伝いいただきました。

図2 T-PGA関係図を用いた被害の解釈 図2 T-PGA関係図を用いた被害の解釈

運転再開の判断を助ける「鉄道構造物の被害推定システム」。

ここにはまさに今回の研究の成果が詰まっています。どのような考え方で鉄道構造物の被害を推定し、列車の運行を停止したり再開したりするかが"ミソ"です。その部分のアルゴリズムがしっかりできていれば、あとは情報をネットワークのなかで、どう管理すればいいかということになります。

今回、CRCには、被害推定をして、その結果列車を走らせていいかどうかを判断する部分、面的震度情報をうまく活用し運転再開のための判断部分のシステム構築をお願いしました。ナウキャスト地震情報を使って列車の運転を止めるのは、人がほとんど介在しない自動制御の世界です。

ところが運転再開は判断が難しい。止めるほうは安全サイドで止めますが

今回は膨大な数値情報の処理の部分もさることながら、そういうインタフェース、ビジュアルな表現の仕方、そしてデータベースの有効活用など、システムの実現化にCRCのノウハウを大いに活用させていただきました。

鉄道構造物のデータベースを構築

また、被害推定のためには、どこにどんな鉄道構造物があるかというデータベースを作成しておく必要があります。この構築も今回、CRCにお願いしました。

鉄道構造物の位置は通常キロ程で管理されています。起点の駅から○kmのところに○○があるというものです。この情報を、2次元の面的震度情報と組み合わせようとすると、当然緯度経度の情報が必要になります。このキロ程と緯度経度をリンクして数値化を行う作業はかなり大変でした。また、構造種別ごとのいろいろな情報もデータベース化しています。

今回はテストフィールドを設定し、GISとOracleデータベースを使ってプロトタイプを作成しています。

アルゴリズムの開発は私たちの専門ですが、それをどのように使いやすく表現するか、また、こうしたデータベースの作成など、システム化に際してのノウハウはあまりないのでそのあたりをCRCにお願いしました。

実用化を目指して研究開発の新しいフェーズがスタート

CRCとは、耐震シミュレーションの分野で、以前からお付き合いがありました。今回のプロジェクトのシステム構築に関して声をかけてご提案をいただきましたが、CRCのプロポーザルが非常に明確で、できること、できないことがはっきりしており、安心しておまかせできると考えました。

2003年度からは、実用化を目指す計画がスタートします。基本的なプロトタイプは今回できあがったので、これをブラッシュアップして実用機を作るための問題点の整理を行っていきます。もちろん成果はどんどんオープンにしていくつもりです。実際の被害との検証も必要であると考えていますし、今後、耐震設計と防災をリンクしていきたいと考えています。また、鉄道事業者でこのシステムを実際に利用したいというケースがあれば、これまでの私たちが蓄積した技術を公表して作っていただこうと思っています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
今後、東海地震等の大規模地震が発生する確率が高くなっている今、防災に対する備えは益々必要性が増してきています。これまでの技術・実績を基にし、新しい知見やITを駆使した防災システムの構築に携わっている鉄道総合研究所地震防災研究室に対しまして、今後も社会的貢献度が非常に高い研究の成果を上げられるよう期待するとともに、そうした研究に少しでもCRCとして協力できればと思っております。今後ともCRCに対しましてご意見、アドバイスをいただきますようお願い申し上げます。

最後に、芦谷様には大変貴重なお時間を頂戴致しまして誠にありがとうございました。(聞き手:CRC亀岡)

名称 財団法人 鉄道総合技術研究所
 
http://www.rtri.or.jp/index_J.html
本社所在地 東京都国分寺市光町2-8-38
設立 1986年12月10日
会長 松本嘉司
理事長 副島廣海
予算規模(一般会計) 159億円
職員数 515名
主な事業概要 鉄道の将来に向けた研究開発、実用的な技術開発、鉄道の基礎研究、浮上式鉄道の技術開発(プロジェクト)。
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