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大阪市立大学大学院 理学研究科 生物地球系専攻 地球情報学研究室
塩野清治 教授、升本眞二 様
地質学の情報科学的体系化で地質情報の合理的な評価を目指す

お話を伺った方

大阪市立大 塩野教授塩野 清治 教授
理学博士

研究テーマ
  • 地質学的方法の情報科学的体系化
 

大阪市立大 升本教授升本 眞二 教授
理学博士

研究テーマ
  • 地球情報のコンピュータ利用
     

かつて地球にはどのような生物が生存し、どのような地殻変動があったのか、どのような人間生活を送っていたのかなど、我々が住んでいる足元にはさまざまな地球の歴史が記されています。大阪市立大学大学院理学研究科地球情報学研究室では、生物地球系専攻の大学院生と理学部地球学科の学生を対象に地球情報学と情報地質学を教えるとともに、塩野清治教授が地球情報、特に地質情報について地質学的方法による情報科学的体系化を、升本眞二教授が地質情報の定式化と可視化などの表現方法についての研究を行っています。

地球学科は、1952年に設立された地学科を母体に、1993年に地球そのものの歴史や現在の姿、未来を考えようという発想から、地球学科として生まれ変わりました。地球学科は、わが国の大学で大阪市立大学が初めてであり、現在でも金沢大学と2つしかありません。特に、大阪市立大学地球情報学研究室は、地学と数理科学という学問分野を横断する学際的な研究・教育を行っている日本では数少ない研究室です。今回は、地球の歴史を知り、未来の予測に資するための研究、人材育成に努める塩野清治教授と升本眞二教授に、地球情報学研究室の取り組みについて伺いました。

地球に関する膨大な情報や知識をコンピュータで有機的に結合

環境保全や自然災害防止など、地球に関する関心が非常に高まっています。環境保全や自然災害防止を図るためには、地球の過去から現在までを正しく認識する必要があります。地球に関する深い基礎知識と優れた応用能力が備わっていてこそ、未来を予測することができるのです。地球情報学研究室では、自然と人間の接点である、地球を構成する物質や地球の歴史的変遷を解明するための知識や方法を、野外調査を含め総合的かつ横断的に研究・教育しています。

図1:地質構造の3次元モデリングのために作成した学習用プログラム(Geomodel5)の表示例 図1:地質構造の3次元モデリングのために作成した学習用プログラム(Geomodel5)の表示例

地球情報学とは、地球に関する情報や知識を情報科学的観点から研究する新しい学問分野です。人間の地球への知的好奇心から、先人達が膨大な量の情報や知識を蓄えてきました。そして近年の科学技術の進歩により、地球に関する情報は加速度的に増加し続けています。

一方、情報化の急速な進展により、コンピュータによる情報処理は研究・教育の場で日常的なものになり、その環境整備は今後さらに進むものと思われます。地球情報学研究室は、今日の情報環境を地質学に活用し、これまでに蓄積された地球に関する大量の情報や知識を有機的に結合することで、諸現象間の関係法則性の発見、地球情報の論理構造の解明、地球環境の未来像の予測などの基礎研究を通じて社会に貢献することを目指しています。

図2:3次元地質構造推定のイメージ(ボーリングデータからの地質境界面推定)   図2:3次元地質構造推定のイメージ(ボーリングデータからの地質境界面推定)

地球の歴史そのものをひもとく

私たちは、日常生活の中でも崖などでよく地層や岩石を目にすることがあります。こうした地層や岩石は、当然地中にも広がっています。教育の現場では、崖などで目にできるところの地層や岩石の分布を調べ、そこから地中の地層の成り立ちを推定する知識や、数値解析など情報処理技術を教えています。地中の地層や岩石には、地球の誕生から現在までの変遷、生命の歴史が刻み込まれているからです。

地質情報のコンピュータ処理推進を目指し数学的基礎により理論化

ITの進展により、グローバルGISのように地球に関する情報化は急速に進展しています。しかしながら、地質情報の分野はコンピュータ化が遅れているというのが現状です。それは、地質分野で扱う情報が通常の数値情報に加えて定性的な属性情報や関係情報など多岐にわたり、単純な数値解析では対応できないからです。

地質情報のコンピュータ処理を推進するには、まずは数学的基礎の確立が必要です。数学的基礎に基づいた理論化が進めば、コンピュータを使った地質学がさらに発展する可能性は非常に高いと言えます。特に、空間や時間を3次元的に取り扱う地質学独特の方法に対しては、離散数学が重要な役割を果たすと考えられます。そこで地球情報学研究室では、地質調査結果から地下の3次元地質構造を推定して地質図の形で可視化する地質解析のコンピュータ処理を目指した基本理論とアルゴリズムの開発、特に、3次元モデリングに関わる基礎理論を重点に研究を進めています。私たちが行っている研究・教育は、離散数学を基礎としたもので従来にない革新的なものであり、地質学の論理を定式化することで、地質情報を従来に比べ精度の高い保存や利用が可能になります。

地下の地質構造に関する情報は、災害予測、防災対策をはじめインフラの整備など生活に密着する分野で欠かせない基本情報であり、コンピュータによる地質学の論理の定式化で、学問的に証明された地質情報が今後さまざまな分野で応用されることを期待しています。

図3:地形情報の可視化の例(VRMLによる動的な表示) 図3:地形情報の可視化の例(VRMLによる動的な表示)

地質構造の論理モデル化と可視化を進める

地質体と境界面の関係を示す「地質構造の論理モデル」は、堆積作用や浸食作用による地質体の追加や削除あるいは断層運動による地質体の切断や移動などにより、一定の規則で変化していきます。地質構造論理モデルを作成すれば、断層や岩脈などのある複雑な地質図のモデル化が可能になります。この地質構造の論理モデルに、野外調査データから推定した境界面の標高データ(DEM)を加えると3次元地質モデルが確定します。地質図は平面図ですが、地質図の3次元モデル化により、地質体の3次元分布とその関係を示す複雑な情報を、表現することが可能となります。

さらに情報科学的手法を用いることで、3次元的な可視化などへも利用できるようになりました。地球情報学研究室では、3次元の可視化技術を早くから導入し、これまでに地形情報と地下の地質情報の可視化の研究により、通常目に見えない地下の地質情報を“見える化”することで、地質情報の重要性を示してきました。

地形情報では、1995年に発生した兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)で大きな被害を受けた地域について、1956年の地形と1992年の地形をバーチャルリアリティモデルを用いて可視化しました。これにより、人工的に地形を変形した地域が著しく被害が大きかったことを、証明することができました。

また、地下の地質情報では、都市部の地下の地質構造や地質情報をボーリング調査の結果をもとに、バーチャルリアリティモデルを用いることで可視化しました。都市部の地下の地質構造や地質情報は、地上の露頭からは得られないため、ボーリング調査を行うことで、正確な情報が得られます。

図4:地質構造の可視化の例1(GISによる可視化例) 図4:地質構造の可視化の例1(GISによる可視化例)


図5:地質情報の可視化の例2(Voxelモデルによる可視化例) 図5:地質情報の可視化の例2(Voxelモデルによる可視化例)

このように可視化することで、地質情報を扱う他分野に理解しやすい形式で地質情報の提供が可能となり、今後さまざまな応用分野で活用されることが期待できます。 応用の拡大を目指しています。

“見える化”した地質図のデータベース化を進める

大阪市立大学は、(社)全国地質調査業協会連合会と(独)産業技術総合研究所(AIST)および特定非営利活動法人地質情報整備・活用機構(GUPI)との4者の連携で、Web-GISによる地質・地盤情報の流通および高度利用に関する共同研究を行いました。

地質情報は、従来多くは自治体等が紙面で保有していましたが、近年は電子納品という形で集まるようになってきました。こうして集積された地質データやそれらをもとに作成された地質図は、膨大な量となっています。共同研究ではこうした地質図のWeb上での発信方法などを研究してきました。例えば、公的情報である地質図のWeb上で改ざん防止をどうするのか、リアルタイムでの3次元地質図の提供方法などの研究です。

AISTでは,20万分の1の日本全国の地質図をシームレスに繋ぎ、インターネットの世界で発信しはじめました。今後は3次元モデリングによる可視化により誰もが理解しやすい形で提供できるようになればと考えています。

業界標準となった「GEORAMA」に期待

伊藤忠テクノソリューションズ(株)(CTC)が開発した3D土木GISソリューション「GEORAMA」は、調査ボーリング、地質平面図、断面図など地下の地質構造の断片的なデータから高精度な3次元地質モデルを作成できる大変優れたソフトウェアです。

実は、このソフトウェアを開発したCTCの山根裕之さんは、当大学の地球情報学研究室の卒業生で、開発にあたってさまざまな相談も受けました。地質図をコンピュータ化処理するには、まず自分が地質を見て、そこにある多様な情報を読み取る力が必要です。地質調査の考え方までコンピュータに取り入れることは大変なことであり、地球科学、特に地質の経験を有し、地質を見る力を持った山根さんだからこそ作ることができたソフトウェアと言えます。

GEORAMA」は世界を見ても完成度の高いソフトウェアです。「GEORAMA」は、今後業界のスタンダードとなる可能性があります。ただ難点は入力が難しいことと値段が若干高いことでした(笑)。入力用の前処理ソフトウェアがあるとよりユーザーフレンドリーになるので、ぜひ前処理ソフトウェアを開発して世界のスタンダードになることを期待しています。

図6:「GEORAMA」による可視化の例 図6:「GEORAMA」による可視化の例

社会に役立ち自分のロマンも満たす地球情報学

人の住む星、地球の足元には、人間が誕生するはるか前からの歴史が刻まれています。地球学は地味な学問分野ですが、コンピュータ知識・技術を融合することで、今までにできなかった大きな広がりを見せています。大阪市立大学で学び研究すれば、山根さんのように新しい地質に関するソフトウェアの開発者になることができる可能性があるばかりか、社会のさまざまな場面で役立てることができるとともに、地球の歴史を知るというロマンを満たしてもくれます。

地質に関係する方々のみならず多くの方が地球情報学に興味を持っていただき、この分野のさらなる発展を期待しています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
地球情報学という分野に先駆的に研究されてきた塩野教授・升本教授の話しを直接伺い、地質学とコンピュータ技術の融合化により、今後あらゆる領域にその知見・ノウハウが展開されていく予感を強く感じました。同時に、社会性の高い学問であることも理解いたしました。CTCとしては、両先生の研究成果により培われました「GEORAMA」を広く社会に提供することにより、いっそう社会貢献度を上げていきたいと思っております。
長い時間にわたってのインタビューを有難うございました。(聞き手:CTC亀岡)

大学・研究室概要 地球情報学研究室 
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