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コラム:衝撃・安全

衝撃解析ソフトウェアAutodynによる代表的な解析事例のご紹介
(爆発編)

科学エンジニアリング第1部 技術第2課 阿部 淳

[2024/07/11]

1. はじめに:衝撃解析ソフトウェアの紹介

可燃性ガスや爆薬の爆発やそれに伴う破片飛散現象、航空機や徹甲弾の高速衝突による構造物の大変形・破壊現象は、基本的にマイクロ秒オーダーからミリ秒オーダーの短時間現象であり、人間の感覚では「あっ」という間の出来事になります。その短時間の中で物体が複雑に大変形するのみならず、物質の状態(気体・流体・固体)が変化しつつ、さらに力やエネルギーのやり取りをすることになります。この現象を数値シミュレーションで解くことは簡単なことではなく、長年の経験と実績を持つ専門の解析ソフトウェアを導入する必要があります。衝撃解析コードは衝撃現象の解明を目的とした数値解析プログラムであり、その元祖は1950年代に米国で開発されました。これを核として継続的に高速衝突および爆発解析に有効な解析手法が開発され、成長過程でいくつかの衝撃解析コードに枝分かれした経緯があります。さらにそのうちいくつかは現在も商用ソフトウェアとして活躍していますが、そのうち特に高速衝突・爆発解析を得意としたものが衝撃解析ソフトウェアANSYS Autodynです。今回はこのソフトウェアを使用した代表的な爆発現象の解析事例をいくつか紹介します。それぞれの事例のモデル化方法、解析結果動画については最下のリンク先に掲載していますので、ぜひご覧ください。

2. 水素爆発

水素と空気または酸素の混合気体を満たした容器内で着火すると爆発を起こします。中学校の理科実験で経験された方もいると思います。「H2+O2→H20」ですね。ただし、容器が破損したり火災原因になる危険性があるので慎重に実施する必要があります。水素爆発というとやはり東日本大震災時の福島第一原子力発電所の重大な爆発事故が思い出されます。水素は空気に比べて非常に軽く、もし万が一漏えいしたとしてもすばやく上昇して大気中に拡散するので、爆源となる混合気体になりにくい性質があります。しかし、容器や建屋のような閉空間状態の場合、水素が滞留して空気と混ざり合い、何らかの原因で着火して、爆発に至ってしまう危険性があります。その爆発威力は、温度、圧力、水素の混合状態(水素濃度)によって異なりますが、特に爆轟現象または爆燃現象のどちらに生じるかによっても変ってきます。爆燃現象は火炎帯が数m/s~数十m/sの速度で伝播する亜音速現象です。常温常圧で爆燃した場合の爆発圧力は約7気圧に達すると考えられます。一方、爆轟現象は化学反応とともに強い衝撃波(爆轟波)が伝播する超音速現象であり、爆轟波の速度は数千m/sオーダー、発生圧力は数十気圧オーダーとなります。どちらの現象だといても容器や建屋自体を吹き飛ばすほどの威力を持つ爆発が生じてしまいます。

水素爆発が発生した場合、構造物の損傷、破片飛散、火災発生など大規模な被害に至る可能性があります。非常に稀な現象だとしても、万が一発生してしまった際のリスクを事前に把握しておくことはとても重要です。その手法の1つとして水素爆発時の爆風波伝播および構造物の変形・破壊状況を予測する数値シミュレーションが挙げられます。図2-1はタンク内の水素爆発および配管内の衝撃波伝播状況を予測した事例です。タンク内には水素と空気の混合気体が充填されており、端部で着火して、爆轟波が発生する状況を想定しています。配管内は1気圧の空気です。爆轟波が配管に到達すると、配管内には衝撃波が伝播する様子がわかります。配管の管端部分では非常に高い反射圧が生じていることから、この部分の配管が破壊する可能性が予測できます。

図2-1 タンク内の水素爆発および配管内の衝撃波伝播状況

図2-1 タンク内の水素爆発および配管内の衝撃波伝播状況

3. 爆風を受ける構造物の変形・破壊

地上もしくは空中で爆薬や可燃性ガスが爆発した場合、爆発生成ガスの急激な膨張によって、周囲の空気が圧縮され、衝撃波を伴う圧力波が外側に向けて超音速で伝播します。これを爆風波と呼びます。爆風に対する構造物の変形挙動を模擬するためには、爆風のピーク圧(尖頭圧力)とインパルス(力積)を正確に見積もる必要があります。図3-1にTNT爆薬1kgを地上爆発させた際の爆源からの距離とピーク圧の関係を示します。数値シミュレーションで得られた爆風のピーク圧は試験結果を良く再現していることが確認できます。

図3-2に爆風に対する鉄筋コンクリート構造物の変形および破壊状況を示します。想定薬量はTNT爆薬500kg、爆薬から構造物までの距離は10mです。構造物内の爆風伝播過程をわかりやすく把握するため、構造物の中央断面の状態を表示しています。爆風が構造物に衝突して反射波が生じ、高い反射圧が発生しています。爆風の到達とともに窓ガラスは全損し、爆風が構造物内部に入り込む様子がわかります。爆風が構造物を通過した後、鉄筋コンクリート壁には多数の亀裂が生じており、特に爆薬に正対する壁は構造物内側に折れ曲がるほどの損傷を受けることもわかります。

図3-1 TNT爆薬1kgを地上爆発させた際の爆源からの距離とピーク圧の関係

図3-1 TNT爆薬1kgを地上爆発させた際の爆源からの距離とピーク圧の関係

図3-2 爆風を受ける鉄筋コンクリート構造物の変形および破壊状況

図3-2 爆風を受ける鉄筋コンクリート構造物の変形および破壊状況

4. 水中爆発

水中で爆薬が爆発した場合、空気中を伝播する爆風と同様に、水中にも衝撃波が伝播します。ただし、水は空気に比べて圧縮しにくく、空気の約5倍の音速を持つため、同薬種、同薬量の爆発であれば、空気中の爆風よりも水中衝撃波の威力の方が大きくなります。このような水中衝撃波が船舶や水中構造物に及ぼす影響は大きく、その被害は甚大となる可能性があります図4-1にTNT爆薬1kgを水中爆発させた場合の爆源からの距離とインパルスの関係を示します。解析結果は試験結果と良く一致していることがわかります。

図4-2に水深でC-4爆薬が爆発した際の状況を示します。水中で爆薬が燃焼して生成したガスの膨張により、爆薬上方の水面が上昇する様子がわかります。この水中の爆発生成ガスは水中バブルと呼ばれ、周囲の水圧により膨張と収縮を繰り返します。収縮した際に発生する圧力波をバブルパルスと呼びますが、爆発時に発生する水中衝撃波と同程度のインパルスを持つことが知られています。このバブルパルス現象についても数値シミュレーションで再現することができます。

図4-1 TNT爆薬1kgを水中爆発させた場合の爆源からの距離とインパルスの関係

図4-1 TNT爆薬1kgを水中爆発させた場合の爆源からの距離とインパルスの関係

図4-2 浅水深でC-4爆薬が爆発した際の水面と水中バブルの挙動

図4-2 浅水深でC-4爆薬が爆発した際の水面と水中バブルの挙動

5. おわりに

今回は代表的な爆発現象の解析事例をいくつかご紹介しましたが、そのほかにも様々解析な事例があります。ご興味があれば下記リンクをご覧ください。

CTCによる高速衝突・爆発解析事例サイト