HOME技術コラムサージ解析における逆止弁のチャタリング現象とその抑制

コラム:熱流体

サージ解析における逆止弁のチャタリング現象とその抑制

科学ビジネス企画推進部 プロダクトサービス第2課 橋本 元信

[2023/10/31]

逆止弁は、遠心式ポンプ吐出ラインや給水ライン、そして各種流体ラインや熱交換器ラインなどの流れの逆流防止を目的として数多く利用されています。基本的に逆止弁は逆止弁上流(入口側)と下流(出口側)の圧力差によって開閉する機構の為、圧力の変動が頻繁に生じる場所に設置すると、開閉を繰り返すチャタリングが発生する事があります。チャタリングが発生すると弁体と弁座が激しく接触しシート部が摩耗します。そして開閉を頻繁に繰り返すことで異音(騒音)だけでなく摺動部や回転部も摩耗が進行し、寿命の低下と破損を招く場合があります。

本稿ではこのチャタリング現象について、1次元流動解析を使用したサージ解析におけるスイング式逆止弁の例をあげ、現象や原因の解明と抑制方法をご紹介します。

チャタリングと同じような現象としてフラッタリングがあります。JIS規格(JIS B 0100 : 2013 バルブ用語)には表1の記載があります。

表1 チャタリングとフラッタリング

チャタリング(chattering) フラッタリング(fluttering)
弁体が繰り返し弁座をたたく不安定な状態。 弁体が弁座をたたかない程度の開度で小さな振動をしている状態。
チャタリング(chattering) イメージ図
(イメージ図)
フラッタリング(fluttering) イメージ図
(イメージ図)

すなわち弁体が弁座を繰り返したたくか、あるいはたたかないかかが両者の違いになりますが、弁体が弁座をたたかないフラッタリングのような微振動でもその周期が弁可動部の固有振動数や配管系統の固有振動数と近しい場合、共振が考えられます。本件はまた次の機会にご紹介できればと思います。

図1は今回のチャタリング現象を検討したモデルとなります。遠心式ポンプ4台(内1台は予備)で圧送する吐出ラインで、一番上のPump(P-100A)(赤の四角)をトリップさせた際のラインの圧力変動を検討対象と想定しました。

そして図2がトリップしたPump(P-100A)下流側に配置された逆止弁(青の四角)開度の時刻歴結果となります。

図1 遠心式ポンプ4台で圧送する吐出ライン例

図1 遠心式ポンプ4台で圧送する吐出ライン例

図2 逆止弁(青の四角)の開度の時刻歴結果

図2 逆止弁(青の四角)の開度の時刻歴結果

図2の逆止弁の開度は表1のイメージ図として記載した波形程ではありませんが、全閉と全開を繰り返すチャタリングが生じている事が確認できます。このようなチャタリングを抑制する方法として、

  • 逆止弁サイズを変更する(逆止弁を通過する流速を見直す)
  • 逆止弁自体を変更する (解析上では逆止弁の動特性を見直す)

があり、各々有効に作用する場合がほとんどですが、稀にチャタリングが抑制できない場合があります。このような場合、チャタリングの現象をより把握(理解)する為に1次元流動解析の予測結果が有用になります。

図3は逆止弁開度の予測結果に逆止弁前後の圧力と通過する流速を加えたグラフです。この図から2.4秒ほどで流れは逆流に転じ、3.4秒ほどで逆止弁が全閉になることが判ります。すなわち逆止弁が全閉になる瞬間、逆止弁入口側は逆流ですから圧力は低下し、反対に逆止弁出口側は流体が弁に衝突しますので、圧力は上昇する現象を確認できます。

図3 逆止弁(青の四角)の開度、前後の圧力、流速の時刻歴結果

図3 逆止弁(青の四角)の開度、前後の圧力、流速の時刻歴結果

逆止弁閉鎖により生じた圧力低下と圧力上昇はそれぞれ逆止弁の上流側と下流側に伝播します。伝播した圧力波はそれぞれの端部であるタンクで反射し、再び逆止弁に戻ってきますが、本モデルではパイプは逆止弁上流側より下流側の方が20倍以上長く、それぞれ伝播した圧力波が再び逆止弁に戻ってくる時間は上流側の方が早くなります。

また図3に示したバルブ開度のように、全閉したバルブが再度開く間隔は0.2秒と非常に短いことから、逆止弁上流側のパイプがチャタリングの要因の1つである事が予測できます。

そこで図4に示すようにPump(P-100A)から逆止弁のパイプ(紫の四角)、そしてタンクからポンプ吸込口のパイプ(オレンジの四角)を便宜的に排除し解析を実施しました。実施結果を図5に示します。

図4 遠心式ポンプ4台で圧送する吐出ライン例(排除したパイプ)

図4 遠心式ポンプ4台で圧送する吐出ライン例(排除したパイプ)

図5 逆止弁上流側パイプを排除した場合の逆止弁開度の時刻歴結果

図5 逆止弁上流側パイプを排除した場合の逆止弁開度の時刻歴結果

図5に示すように逆止弁上流側のパイプを便宜的に排除した場合、多少逆止弁が開く現象を確認できますが、チャタリング自体は生じないことが確認できました。

今回の例ではチャタリングの要因が逆止弁サイズや逆止弁の仕様だけでなく、逆止弁を配置した位置、すなわち逆止弁上流側のパイプを伝播する圧力に起因する可能性とその抑制方法を1D CFDソフトウェアのSimcenter Flomasterを使用して検討、記載させて頂きました。

実際に逆止弁上流側の配管長さを変更するのは困難が予測され、このような場合の抑制としてはリリーフ機構を設け昇圧を外部に逃がす方法があると考えます。

今回ご紹介しました1D CFDソフトウェアのSimcenter Flomasterは、様々な熱流動解析の課題に対して適用することができます。CTCではこのような機能をタイムリーにお伝えすることで、お客様の生産性向上のお役に立てるよう取り組んでまいります。

関連製品についてはこちら

1次元熱流動解析ソフトウェア Simcenter Flomaster
https://www.engineering-eye.com/FLOWMASTER/