HOME技術コラムComWAVE の超音波洗浄への適用:洗浄物・洗浄装置内の超音波可視化および音圧の活用

コラム:超音波・電磁技術

ComWAVE の超音波洗浄への適用:
洗浄物・洗浄装置内の超音波可視化および音圧の活用

科学ビジネス企画推進部 プロダクトビジネス課 池上 泰史

[2023/07/31]

概要

様々な分野で利用されている超音波洗浄は、工業製品の品質向上に大きく貢献しています。

超音波洗浄は、複雑な形状をしたものや目に見えない汚れを落とすことに超音波洗浄は優れており高度な洗浄を、要求される分野で実績のある洗浄方法です。しかしながら、実際に超音波洗浄を利用すると、汚れが十分に落ちていないなど、期待された効果が発揮されないケースも少なくありません。

そこで本稿ではこれらの課題を解決するため、ComWAVEによる超音波シミュレーションを通して、洗浄装置内の超音波可視化および音圧を活用した、超音波洗浄装置の最適化事例等を紹介します。

1. 超音波洗浄について(1)

超音波洗浄は、物体を微細な振動で揺らすことによって汚れや付着物を効果的に除去する洗浄技術です。図1に示すように、主に「キャビテーション、加速度、物理化学的反応促進作用」の3つの作用によるものとされています。この3つの作用は超音波の周波数により、効果に違いが出ます。たとえば、周波数が低いほどキャビテーションが発生しやすくなり、周波数が高くなるに従い加速度は大きくなります。

特に、上記の3要素の中でも「キャビテーション」が最も重要な役割を果たしています。キャビテーションとは、振動によって生成された気泡が、液体中の圧力差で急速に成長・収縮する際に生じる衝撃波によって、周囲の液体が激しく動揺する現象です。この衝撃を洗浄に活用したのが「超音波洗浄機」です。

このキャビテーションの効果は、周波数が低いほど強くなり、周波数が高くなるほど弱くなることが知られています。

図1 超音波洗浄の原理(1)

図1 超音波洗浄の原理(1)

2. 超音波洗浄シミュレーション手順

先に述べた通り、超音波洗浄効果の主な要因は「キャビテーション」ですが、同時に「加速度」、「物理化学的要因」についても考慮していく必要があります。

キャビテーションについては、超音波の音圧が高い(音圧変動が大きい)部分に発生します。また、キャビテーションが多いと超音波が散乱されるため、減衰の影響も考慮した音圧評価が重要となります。先にも述べた通り、一般的には超音波の振動数が低いほど音圧は高くなり、キャビテーションも多くなります。

加速度については、超音波が洗浄物に当たると洗浄物が振動し、その振動により洗浄されます。一般的に超音波の振動数が高くなると加速度は大きくなります。

物理化学的要因については、温度や洗浄液種類に大きく依存すると考えられるため、これらのパラメータと実際の洗浄効果を実験で明らかにすることで、シミュレーションに反映していくことになります。

図2 超音波洗浄効果のシミュレーションへの適用手順

図2 超音波洗浄効果のシミュレーションへの適用手順

3. 解析例1:「水槽内音圧むらの再現および平滑化手法検討」

ここでは、図3に示す水槽に、28kHzの単一周波数の超音波を与えた場合と、2つの周波数28kHzと75kHzの超音波を与えた場合とで、それぞれの水槽内の音圧分布を計算し、違いを評価しました。

図3 水槽内音圧むらの再現および平滑化手法検討用解析モデル

図3 水槽内音圧むらの再現および平滑化手法検討用解析モデル

単一周波数の超音波を入れた場合の解析結果を図4に示します。

同図に示される通り、音圧極大位置が28kHzの水中波長と同程度の約54mm間隔になっていることが分かります。

一方、2つの周波数28kHzと75kHzの超音波を与えた場合では、音圧極大位置が現れず、音圧が平滑化されていることが分かります。

音圧が平滑化する方が、洗浄物の洗浄むらがなくなり、洗浄物へのダメージも低減されると考えられるため、効果が高い手法として知られています。

なお、このような現象は実際の実験でも確認されています。参考資料(2)に示すwebページを参照してください。

図4 水槽内音圧むらの再現および平滑化解析結果

4. 解析例2:「洗浄物が水槽内超音波強度に及ぼす影響検討」

ここでは、洗浄物が水槽内超音波強度に及ぼす影響を評価するために、図5に示される2種類の周波数の違いによる、洗浄物への超音波音圧分布の違いを確認しました。

図5 洗浄物が水槽内超音波強度に及ぼす影響検討用解析モデル

図5 洗浄物が水槽内超音波強度に及ぼす影響検討用解析モデル

112kHzの単一周波数を用いて洗浄物近傍の音圧分布を求めた結果を図6に示しました。

同図では水槽中心の水底から水面までの最大音圧グラフ、水槽内の最大音圧分布図および音圧伝搬図を示しましたが、洗浄物の裏側の音圧が、洗浄物なしと比較して低下していることが分かります。

一方、図7は、28kHz+75kHzを用いて洗浄物近傍の音圧分布を求めた結果ですが、洗浄物の裏側の音圧は、洗浄物なしと比較してほぼ変わらないことが分かります。

洗浄物裏側の音圧が低下すると、裏側の洗浄効果が低下することが考えられるため、本解析結果の通り適切な周波数を複数組み合わせることで、裏側の音圧低下を抑えることが、洗浄効果を高めるためには重要であることが分かります。

6図6 112kHzの単一周波数での洗浄物あり、なしの音圧分布解析結果

図7 28kHz+75kHzの複数周波数での洗浄物あり、なしの音圧分布解析結果

5. 解析例3:「メガソニックによるスポット洗浄解析例」

洗浄物の位置や超音波ノズルの位置を変えて、洗浄物に超音波を照射し、洗浄を行います。ここではシリコンウエハ上の振動状態を可視化しました。

図8に解析モデルを示しました。

図8 メガソニックによるスポット洗浄解析用解析モデル

図8 メガソニックによるスポット洗浄解析用解析モデル

解析結果としては、図9に示す通り、シリコンウエハの表面の超音波による振動状況を可視化しました。

ここでは、1MHzの単一周波数を用いて、洗浄物表面の振動変位を可視化しています。ここに示す図は、洗浄物であるシリコンウエハの表面の超音波による振動状況をパーティクルモーションで可視化しています。

これより、大面積のウエハ上の振動分布を把握することができ、ウエハ上で振動しやすい場所および振動しにくい場所を把握することができます。また、効率よく洗浄するための、洗浄方法を検討するうえで重要な情報を得ることができます。

図9 メガソニックによるスポット洗浄解析結果

6. まとめ

本稿では、超音波洗浄で重要なパラメータについて整理し、シミュレーションの解析手順を示しました。またこの手順を用いた3つの解析事例を通して、洗浄装置内の超音波可視化および音圧を活用した、超音波洗浄装置の最適化事例等を紹介しました。

解析例1:水槽内音圧むらの再現および平滑化手法検討

水槽内のキャビテーション発生位置が音圧極大位置で発生していることを示しました。またできるだけ超音波の音圧むらをなくすためには複数周波数を用いると有効であることを示しました。

解析例2:洗浄物が水槽内超音波強度に及ぼす影響検討

洗浄物の裏側にも周波数等の条件によっては回り込みが発生し、裏側にも強い音圧が発生することを示しました。

解析例3:メガソニックによるスポット洗浄解析例

洗浄物の位置や超音波ノズルの位置を変えて、洗浄物に超音波を照射し、洗浄を行います。ここではシリコンウエハ上の振動状態を可視化しました。これより超音波洗浄では、水中の音圧分布のみでなく、洗浄物自体の振動も発生しており、洗浄物の振動についても洗浄効果に寄与していると考えられることを示しました。

また、シリコンウエハ上で振動しやすい場所および振動しにくい場所を把握できることを示しました。

また、メガソニックを用いた、シリコンウエハの超音波洗浄解析は、シリコンウエハの大きさによっては、数十億要素の計算が必要になるため、ComWAVEの大規模・高精度計算を用いることで、他では実現困難な大規模計算を高速に実行できることを示しました。

参考資料

(1) 株式会社カイジョー 超音波洗浄の原理
https://www.kaijo.co.jp/sansen/technical/genri.html

(2) 本多電子株式会社 超音波洗浄機の原理
https://www.honda-el.co.jp/product/industry/document/about_washing_machine/cleaner_genri

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