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待ち行列シミュレーションが大学入学共通テストに出題される可能性

科学ビジネス企画推進部 プロダクトサービス第2課 綛 宜史

[2023/05/31]

はじめに

2022年12月に公開された大学入学共通テストの「情報I」の試作問題に、「待ち行列シミュレーション」に関する問題が出題されました。「情報I」は2022年4月から高等学校教育の必修科目となっており、2025年1月の大学入学共通テストから新規科目として追加され、国立大学ではほぼ受験必須科目となる見込みです。これを機会に、今後の高等学校教育において、待ち行列シミュレーションの関心が高まることが予想されます。

「情報I」とは

高等学校の学習指導要領は2018年に改訂され、2022年から施行されています。「情報I」も2022年に新設されました。旧学習指導要領では「情報の科学的な理解に関する指導が必ずしも十分ではないのではないか」「情報やコンピュータに興味・関心を有する生徒の学習意欲に必ずしも応えられていないのではないか」といった課題が指摘されており、それを踏まえ、高等学校情報科については生徒の卒業後の進路等を問わず情報の科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力を育むことが一層重要となってきていることから、新新学習指導要領に「情報I」が必修科目として新設されました。

図1. 学習指導要領の改訂(新学習指導要領)と実施時期 ※政府広報オンライン

図1. 学習指導要領の改訂(新学習指導要領)と実施時期 ※政府広報オンライン
(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201903/2.html) より引用

大学入学共通テストにおける「情報I」の取り扱い

大学入学共通テストとは、共通テストを利用する国立・公立・私立の各大学が、大学入試センターと協力して同一の期日に同一の試験問題により、共同して実施する制度のことです。
大学入学共通テストでは、2024年度から新たに教科「情報」として「情報I」が出題されることとなりました。出題教科の追加は、共通一次学力試験や大学入試センター試験の時代も含めて初めてのことです。
すべての国立大学は、一般選抜における「5教科7科目」の原則を「情報I」を加えた「6教科8科目」に変更する予定です。ただし2024年度については合否判定に含めないなどの経過措置をとる大学もある模様です。
私立大学では、大学入学共通テストの利用自体が各大学の自主的・自律的な判断に委ねられており、その利用方法もアラカルト方式となっていることから、ただちに「情報I」が受験必須科目とはならないようです。ただし国の方針として、未来を支える人材を育む大学等の機能強化を図るために理系分野の学生の割合を現状の35%から5割程度に引き上げるなどの目標を設定することを2022年6月に閣議決定されたことから、理系学部を強化する方向にシフトすると考えられます。

「情報I」における待ち行列シミュレーションの位置づけ

新学習指導要領に記載されている「情報I」の内容は、「(1)情報社会の問題解決」「(2)コミュニケーションと情報デザイン」「(3)コンピュータとプログラミング」「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」となっています。
その中の「(3)コンピュータとプログラミング」での指導内容に「目的に応じたモデル化やシミュレーションを適切に行うとともにその結果を踏まえて問題の適切な解決方法を考える」ことが挙げられています。待ち行列シミュレーションは数あるシミュレーション手法のひとつであり、新学習指導要領に明示的に記載されているわけではありませんが、2022年12月に公開された大学入学共通テストの「情報I」の試作問題に待ち行列シミュレーションが取り上げられたことで、基礎的かつ効果的な問題解決手法として認知されていくものと予想されます。

「情報I」の試作問題に出題された待ち行列シミュレーションの設問の概要

2022年12月に公開された大学入学共通テストの「情報I」の試作問題では、文化祭期間中にクレープを販売したときの待ち行列に関する問が3問出題されました。

測定した来客時刻から求められた相対度数から乱数で10人の到着シミュレーションを実行した結果(ガントチャート)から、最大待ち人数と最大待ち時間を求める問題

人数を20人、30人、40人と増やし、それぞれ100回実行したときの最大待ち人数のグラフから読み取れない事象を選択する問題(3つは読み取れる事象、1つは読み取れない事象)

調理時間を4分から3分に短縮した場合の最大待ち人数のグラフを選択する問題

問1、問2は問題文の意味とグラフの見方が分かれば回答可能に思われますが、問3は待ち行列の性質を理解していないと答えるのが難しい問題になっています。待ち行列シミュレーションを実際に体験していれば問1、問2、問3すべて直感的に回答できる問題になっています。

待ち行列シミュレーションが大学入学共通テストに出題される可能性について

実際に存在する対象をモデル化してシミュレーションするには、対象を抽象化し、適切なモデルに適合させるアプローチが必要になります。モデルには複雑な数式で表現するものもありますが、数式を理解しなくてもモデルの振る舞いのみを理解していれば、シミュレーションソフトウェアに数値計算を代行させることで、対象の抽象化に注力することができます。高等学校教育では複雑な数式の理解よりも、モデルの振る舞いと使い方を理解することに重点を置くことが望ましいと思われます。
その点において待ち行列モデルは高等学校教育に向いているモデルであると言えます。待ち行列モデルはモノ・ヒト・カネの流れが生じる社会の様々な場面に登場し、実際の多くの問題解決に使われるモデルです。大学入学共通テストの「情報I」の試作問題に取り上げられた理由もその広い適用範囲にあるのではないでしょうか。またそのため問題表現を変えやすく、実際の大学入学共通テストでも出題される可能性は大いにあると思われます。

待ち行列シミュレーションを適切に行うための学習ツール

待ち行列理論では複雑な数式が登場しますが、実際に待ち行列シミュレーションを行う際には数式を理解する必要はなく、シミュレーション対象を自然な形でモデル化しシミュレーションすることで問題解決できる手法です。
待ち行列モデルをコンピュータ上に表現しシミュレーションするためのソフトウェアは1960年代から存在しており、現在ではマウス操作により簡単にモデルを作成できるプログラムレスなツールに進化しています。シミュレーション過程をアニメーションで表示することもできるため、一般のプログラミング言語よりも待ち行列シミュレータを用いる方が理解しやすく、経営工学の授業に採用している大学もあります。実際に、試作問題に出題された待ち行列のモデルは、数分で作成することができます。
CTCで取り扱っている生産物流シミュレータ「WITNESS」は待ち行列シミュレータの進化版であり、工場の製造フローや物流センター内のモノの流れなどのさまざまなプロセス上の流れをコンピュータ上に再現し、プロセスを仮想的にシミュレーションすることで、生産性の評価やボトルネックを発見するためのソフトウェアです。マウスのドラッグ&ドロップによるモデル作成、シミュレーション過程のアニメーション表示、統計情報の自動集計とグラフ表示などの機能を備えており、簡単に待ち行列シミュレーションを実行できます。WITNESSのアカデミック版は世界中の教育機関に採用されております。

図2. WITNESSシミュレーション実行画面(3D)

図2. WITNESSシミュレーション実行画面(3D)

図3. WITNESSで表示可能なグラフのサンプル

図3. WITNESSで表示可能なグラフのサンプル

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