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コラム:AI・OR・最適化

Gurobi Optimizerによる電力消費量ピーク平準化

科学ビジネス企画推進部 プロダクトサービス第2課 綛 宜史

[2022/05/26]

2013年の省エネ法改正のポイント

電力需要家に求められる従来の省エネ対策は量・効率の省エネ対策が主でしたが、2013年の省エネ法改正では電力需給バランスを意識した時間の概念を含むエネルギー対策が求められるようになり、電気の需給の状況に照らし電気の需要の平準化を推進する必要があると認められる時間帯(電気需要平準化時間帯)が設定されました。
電気需要平準化時間帯は、具体的には全国一律で7月~9月(夏季)および12月~3月(冬期)の8~22時(土日祝日を含む)と定義されています。地域の需給状況や労働環境などに留意しつつ、事業者は以下のような具体的な電気需要平準化措置を講じる必要があります。

  1. 電気需要平準化時間帯における電気の使用から燃料又は熱の使用への転換 (チェンジ)
  2. 電気需要平準化時間帯から電気需要平準化時間帯以外の時間帯への電気を消費する機械器具を使用する時間の変更 (シフト)
  3. その他事業者が取り組むべき電気需要平準化に資する措置 (カット等)

電力ピークの「シフト」はスケジューリング問題として扱うことができ、数理最適化技術で解決できる可能性があります。

図1 電気需要平準化時間帯からそれ以外の時間帯へのシフトのイメージ

図1 電気需要平準化時間帯からそれ以外の時間帯へのシフトのイメージ

電力消費量ピーク値と電力コスト

電力消費量ピークの低減は、事業者の電力コストを削減する観点からも重要なテーマとなります。電気料金は契約電力に応じた基本料金(固定料金)と電力使用量(従量料金)によって決まりますが、契約電力は過去1年間の最大需要電力(使用電力の30分値の最大)で更新されるか、あるいは電力会社との協議によって決定されます(電力会社や契約形態によって異なります)。
契約電力を超えて電力を使用すると、契約電力が上がったり超過分の電力料金が割高になったりするため、電力消費量の30分値のピークを低減することが電力コストを削減することにつながります。

数理最適化技術による電力消費量ピークの平準化

CTCでは最適化ソルバー「Gurobi Optimizer」を用いて、電力消費量を平準化した生産スケジュールを自動的に生成するプロトタイプを開発しました。
プロトタイプで考慮している条件は以下の通りです。

  • 1つのワークは複数の工程で決められた順序で処理されて出荷される。
  • ワークには納期がある。
  • 1つの設備は同時に1つのワークしか処理できない。
  • 設備には利用可能時間があり、利用可能時間外ではワークは処理できない。
  • 設備でのワークの処理時間および電力消費量は、ワークによって異なる。
  • 設備ではワークの切り替え時に段取り替えが発生する場合がある。
  • 時間軸の粒度は10分(処理時間および段取り替え時間は10分単位に丸めを行う)。
図2 自動生成したスケジュール例(ガントチャート)

図2 自動生成したスケジュール例(ガントチャート)

電力平準化プロトタイプで評価計算を実行したところ、電力使用量の30分ピーク値が約25%低減可能なケースがあることを確認できました。
電力平準化プロトタイプの計算結果の一例を以下に示します。

  • ケース1: 電力平準化を考慮しない
  • ケース2: 電力使用量の30分ピーク値の最大値を最小化する
図3 ケース1: 電力平準化を考慮しない場合の電力消費量(横軸のメモリは30分間隔)

図3 ケース1: 電力平準化を考慮しない場合の電力消費量(横軸のメモリは30分間隔)

図4 ケース2: 電力ピークを最小化したときの電力消費量(横軸のメモリは30分間隔)

図4 ケース2: 電力ピークを最小化したときの電力消費量(横軸のメモリは30分間隔)

まとめ

電力平準化プロトタイプでの評価計算の結果、数理最適化技術による電力平準化は以下の条件に当てはまる処理工程であれば大きな効果が得られることが分かりました。

  • 処理時間や段取り替え時間を10分単位の値に丸めても運用に影響がないこと。
  • 設備稼働率に余裕がある工程であること(設備稼働率が高いとシフトできない)。
  • スケジュール対象の全ワークの処理タスクの合計が数百程度であること。

また、電力ピークの上限値を時間帯別に固定して、上限値の範囲内でスケジュールを生成することも可能です。

近年、ハードウェアおよびアルゴリズムの進歩によって複雑な組合せ最適化問題に対して数理最適化ソルバーの応用範囲が広がってきており、過去に解けなかった問題も解けるようになったという事例が増えています。今後もさまざまな問題への適用を検討しております。

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