コラム:超音波・電磁技術
材料・工学技術部 応用技術第2課 濱田 健太郎
[2022/03/31]
超音波による非破壊検査において、ある構造物に対する探触子の最適な位置を検討する際には、探触子の位置および想定される欠陥を設定し、実際に検査を行うことで検査可能かを検討します。ComWAVEを利用して様々な条件で探触子と欠陥を設定し超音波伝搬をシミュレートすることで、実物を使用することなく、最も欠陥によるエコーを確認しやすい探触子の位置を検討できると考えられます。
本解析では、T継手試験体の溶接部の溶け込み不良による欠陥を検知するための最適探傷条件を検討します。本解析では試験体の一定の位置から超音波を発信し、エコーを受信する受信子の最適な位置を探索します。受信波形から欠陥の有無を調べるには、欠陥がある場合とない場合の受信波形の差異が大きいことが望ましいと考えられます。そのため欠陥ありと欠陥なしの2パターンで解析を行い、それらの受信波形を比較して最適な受信子の位置を探索します。
試験体および溶接部溶け込み不良欠陥の解析モデルを以下に記します。左図は解析初期における受信子の位置、右図は最適な受信子の位置の場合を表しています。
欠陥部の形状は簡単のために単純な形状にモデリングされる場合が多いですが、ComWAVEでは欠陥も自由にモデリング可能なため、ここでは実際の溶け込み不良に近い形状のモデルを作成し、試験体モデルと結合します。
探触子の初期配置における受信波形を以下に記します。左図は欠陥のない場合、右図は欠陥を含めた場合です。欠陥からのエコーと試験体によるエコーが重複しており、両者の差異が見られないため波形から欠陥を見出すことが難しいことが分かります。
そこで、欠陥のある結果から欠陥のない結果を減算した伝搬図を次の図に示します。これにより欠陥エコーが最も大きく表れる位置を可視化できることが分かります。その位置に受信子を設置することで、最適な受信位置を見出すことが可能です。
次に、最適な配置における受信波形を以下に示します。先ほどと同様に、左図は欠陥のない場合、右図は欠陥を含めた場合です。これより、この受信子位置では、欠陥からのエコーを明確に確認できることが分かります。
今回ComWAVEを利用して欠陥あり、なしの計算の差分を取ることで、欠陥エコーを最も明確に見出すことができる受信子の位置を見つけられることを示しました。このためComWAVEによって効率的に、低コストで非破壊検査における最適探傷条件を見つけることができることを示しました。