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コラム:製造・構造

XFEMによるき裂進展解析

材料・工学技術部 応用技術第1課 田村 茂之

[2022/02/24]

構造物や機械部品の破壊現象は、繰り返し荷重等による、き裂進展により引き起こされるため、破壊形態を予測したり、高寿命化を検討するには、き裂進展解析が不可欠です。き裂進展解析には、様々な手法が有りますが、あらかじめ、き裂の進展経路が分かっている場合は、き裂に沿ってメッシュを作成し、粘着要素等を用い、発生基準にしたがい、メッシュを切り離すことで、き裂の進展が再現できます。しかし、複雑形状の部品や、荷重変化が有る場合等は、あらかじめ進展経路を予測することが難しく、このような場合は、き裂先端部の応力拡大係数からき裂の進展方向と進展速度を決めて、それに従いメッシュを切り直す方法や、XFEM(Extended Finite Element Method)が利用されています。

XFEMでは、有限要素の定式化を拡張して、要素内部に、き裂等による不連続性を許し、き裂の発生と進展を模擬します。この手法は、Belytschko と Black (1999)により最初に導入されました。進展方向はメッシュに依存しないため、他の手法よりも比較的容易にき裂進展を計算することが可能です。Abaqusでは、XFEMを標準機能として内蔵しており、Abaqus/CAEにより各種設定、結果表示が出来ますので、効率的に、き裂進展解析を行うことが可能です。以下、AbaqusのXFEM機能について紹介します。

XFEMでは、通常のFEMで用いられる、変位の内挿式にヘビサイドの追加項とき裂先端部の追加項を導入します。ヘビサイド項は、き裂面間の変位の不連続性を表し、き裂先端部の追加項で、き裂先端の特異性をモデル化します。

XFEMにおける変位の内挿式

XFEMにおける変位の内挿式

有限要素内のき裂の進展を表現するために、通常の節点に重ね合わせたファントム節点を導入します。ファントム節点は、き裂発生前には、通常節点と結合拘束されており、き裂発生時には、拘束がなくなり、元の要素と切り離されます。

●:元の節点、〇:ファントム節点

●:元の節点、〇:ファントム節点

き裂位置を決定するには、レベルセット法を用います。レベルセット法は、界面を追跡する問題で表面を表すのによく使われる手法で、XFEMでは、φとΨの2つの符号付き距離関数を利用します。φ=0の時、き裂面を表し、Ψはき裂の方向を表し、き裂側が負の値になります。両方が0の時には、先端部となります。

き裂の発生と伝播には、損傷モデルを用います。損傷モデルには、粘着損傷モデル(Cohesive Damage)と、線形弾性破壊モデル(LEFM)が利用可能です。粘着損傷モデルでは、最大主応力または最大主ひずみ等がある基準に達した時に損傷の発生と、き裂面の方向を判断します。損傷発生後は、指定されたトラクション―分離量則により、トラクションが減少していきます。一方、線形弾性破壊モデルでは、損傷発生後は、仮想き裂閉鎖手法(VCCT)に基づく臨界エネルギー開放率基準で損傷が発展します。

Abaqus/CAE でXFEMモデルを作成するには、まずき裂発生を許容するエンリッチ領域を指定します。また、き裂面間は閉口時に接触状態になるため接触定義を行います。初期き裂は、エンリッチ領域に別インスタンスを作成すれば、自動的にレベルセット法のφとΨが設定されます。次に、損傷モデルの設定を行います。粘着損傷の場合は材料モデルで、線形弾性特性の場合は相互作用で定義します。計算結果では、レベルセット法の符号付距離関数φ=0の箇所に、き裂のアイソサーフェスが表示されます。

以下は、XFEMによりコントロールアームの破壊解析を行った例です。ピン部に4mmの強制変位を与え、コントロールアームに張力を発生させます。最大主応力に基づく損傷発生基準を用い、き裂の発生と進展を計算します。右図が最終結果です。2か所で、き裂が発生していることが分かります。

解析モデル

解析モデル

最終結果(相当塑性ひずみ)

最終結果(相当塑性ひずみ)

このように、AbaqusではXFEMによる、き裂伝播問題を比較的に容易に設定することが出来、様々な形状、荷重状態のき裂の進展をメッシュ依存せず、計算することが可能です。機械構造部材の健全性評価や研究開発にご活用いただければと思います。また、AbaqusのXFEM機能は、2020 FD02版では、温度が導入され熱応力解析が可能になるなど、毎年アップデートされております。ご興味を持たれた方は、以下のURLを参照頂ければと思います。