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コラム:製造・構造

脱炭素社会の実現に向けた自動車メーカーの動きと
周辺業界への影響

科学システム本部 CAEソリューション営業部 秋田 麗佳
車両開発/数値解析 JSAEプロフェッショナルエンジニア

[2021/10/28]

私の車両開発との関わりは、2000年自動車技術会(JSAE)構造強度部門委員会傘下のワーキンググループの数値解析に関する研究成果を実車へ応用することから始まりました。自動車業界は昨今「100年に一度」の大変革期を迎えていると言われていますが、この20年での業界の変化には私自身驚いております。

2016年にパリモーターショーでダイムラーのツェッチェCEOが提唱した、「コネクテッド」、「自動運転」、「シェアリング」、「電動化」をまとめた「CASE」という造語が大きな注目を集め、自動車業界の技術革新が急速に進む中、新たなルールで、新たな相手との熾烈な競争が始まっています。「CASE」の提唱から5年経った今、この4つの技術はハイスピードで発展し、自動車メーカーが生き残っていくための本命と位置付けられています。自動車メーカーは、単に自動車を製造販売する会社から、移動するというサービス(MaaS)を提供する会社へと変わるべく取り組んでおり、自動車分野の周辺の幅広い産業も大きなインパクトを受けています。

ご存知のように、昨年、世界各国で脱炭素に向けての大きな流れが生まれました。日本・ヨーロッパでは2050年までに、中国では2060年までにカーボンニュートラルを実現することが宣言され、さらに米国からも中間目標が提示されています。環境対応の観点からは、「CASE」の4つの技術の中でも自動車の電動化が最も重要であり、一層注目を集めています。

そもそも、30年前の世界には、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)はおろか、ハイブリッド車もありませんでした。自動車の電動化へ向けた動きは、エネルギー社会へも想像以上の影響を与えるものとなりました。脱炭素社会を実現するために、世界各国において、次世代モビリディー革命のみならず、同時に新たなエネルギー社会を実現すべく様々なイノベーションが進められています。

気候変動をはじめとする環境対応の諸要件から、内燃機関車からハイブリッド車やEV、FCVなど、いわゆる「電動車」への切り替えは避けては通れません。そこで、「2050年までにカーボンニュートラルを達成」という目標に向けて努力する自動車業界において、エネルギー貯蔵媒体が重要な問題として浮上します。バッテリーに頼るのか、それとも水素に頼るのか、あるいは、両方を同程度に推進し、将来的にはゼロエミッション社会に向けてあらゆる面で利活用するか、ということが問われています。

ここで、電動車の燃料・動力・排気について簡単にご紹介いたします。電動車とは、バッテリーに蓄えた電気エネルギーをクルマの動力の一部またはすべてとして使って走行する自動車を指します。下図には、電動車と呼ばれている4種類のクルマのイメージを示しております。

図1

ハイブリッド車(HV)とプラグインハイブリッド車(PHV)は、一般的にエコカーと呼ばれていますが、一部の動力はエンジンから得るため、走行中にCO2を排出します。一方、電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)では、モーターのみを使用するため、走行時はCO2を排出しないという特徴があり、今後の普及が期待されています。

さて、いずれもCO2を排出しないEVとFCVですが、EVは電気を動力源とする一方、FCVは水素が動力源となっています。どちらのシステムが最も効率が良いのでしょうか?フォルクスワーゲンが具体的な数値での評価を公開しています。下図にはその評価のイメージを示しております。

図2

これによると、電気自動車では、発電した電気がクルマのバッテリーに蓄えられるまでの輸送中に失われるエネルギーはわずか8%で、電気エネルギーが電気モーターを駆動するエネルギーに変換される際にさらに18%だけエネルギーが失われます。車種によって異なりますが、電気自動車の場合、Well To Wheel、すなわち発電から自動車の駆動までの効率は70%を超えます。

一方、燃料電池車の場合、電気分解によって水素を製造する段階でエネルギーの45%が失われます。残りの55%のエネルギーのうち、さらに55%は車内で水素を電気に変換するまでに失われます。こちらも車種によって異なりますが、水素を使った燃料電池車の効率は、Well To Wheelでは25~35%程度にしかなりません。

フォルクスワーゲンのこの試算値によると、同じ距離を走るのに、燃料電池車は電気自動車の2~3倍のエネルギーを消費することになります。ただし、長期的な視点では、政府は水素も活用した脱炭素社会の実現を推進しており、これに向けて自動車業界でも水素エネルギーを取り入れた成長戦略を積極的に検討していく必要があるでしょう。

「CASE」をはじめ、自動車産業と周辺業界は正解のない激動の中で新たな局面に向かっています。新しいテクノロジーへの挑戦や、業界をまたいだ新しいパートナーシップを組み、幅広い技術を繋ぎ組み合わせることで、幸せな未来を目指す日本の自動車産業のサポーターとして、私共もしっかり汗をかいて参る所存です。

CTCは、事業戦略、設計・システム構築、保守・運用までのITライフサイクルサービスを提供しております。私の所属している科学システム本部では、CAE技術者が科学・工学分野のシミュレーションで技術を追求しお客様に答えることで、日々変化する社会の様々な課題に対して最適な答えを導き出しています。200人を超える工学分野のエキスパートとCTCグループ全体の総合力で、自動車メーカーを中心とした業界から頼りにしていただける応援団になります。そのために、適切なソリューションの提案を通して、リアルの現場・リアルの力に根差した環境にやさしい社会の実現に向け、技術支援を続けて参りたいと存じます。

皆様のご用命を心よりお待ちしております。

カーボンニュートラル及びDXソリューションに関する事例

・X Simulation “トランスシミュレーション”のご紹介
https://www.engineering-eye.com/seminar/2021/0826_cae.html

・CTCの新事業創出・DX推進
https://www.ctc-g.co.jp/solutions/dx/

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