HOME技術コラムレーザ,EMAT,空中超音波等の超音波リモートセンシングとシミュレーション活用

コラム:超音波・電磁技術

レーザ,EMAT,空中超音波等の
超音波リモートセンシングとシミュレーション活用

材料・工学技術部 応用技術第2課 猿橋 正之

[2021/07/27]

6月22日、23日に、2021年度非破壊検査総合シンポジウム(一般社団法人 日本非破壊検査協会 主催)がオンライン(Zoom)形式にて開催されました。今回、超音波部門の企画テーマ「超音波等の非破壊試験分野におけるリモート環境の活用」の中で、超音波解析ソフトウェアComWAVEを使用した発表「レーザ,EMAT,空中超音波等の超音波リモートセンシングとシミュレーション活用」[1]を行いましたので、その一部について紹介いたします。

近年、人が作業できない環境でも作業できる、検査時間を短くできる、人による検査結果のばらつきを改善できるといった理由から、検査装置やロボット、ドローンなどにセンサを取り付けて非接触でリモートセンシングする技術が注目されています [2][3]。いずれも接触媒質を必要とせず非接触で非破壊検査が可能という特長があり、使用環境に応じて、レーザ超音波、電磁超音波(EMAT)、空中超音波が利用されています。

レーザ超音波は、パルスレーザ照射領域の複雑な熱応力により発生し、試験体の中を伝搬して、橋梁やトンネルなど足場を組みにくい箇所の欠陥探傷に使用することができます。レーザ超音波の計算は、熱荷重を介してレーザ熱励起解析と超音波伝搬解析の連携計算を行うことにより可能です。ここでは、サーマルモードのレーザ励起超音波解析事例として、橋梁等で利用されている厚さ10mmの鋼板と厚さ18mmのコンクリートの1000×1000mmの合成床板内に欠陥(水充填、真空)があるモデルにレーザを垂直入射した場合と斜め60°入射した場合の鋼板表面の最大変位の結果を図1に示します。図中の黒塗、白塗部分は、鋼板とコンクリートの境界層にある欠陥を示し、垂直入射の場合は入射位置から放射状に超音波が拡がって、どの方向の欠陥についても欠陥像が得られているのに対し、斜め60°入射の場合は上下方向に指向性を持って伝搬し、欠陥像も指向性の強い方向に限られる様子が確認できます。

図1 レーザ励起超音波解析モデル(左)、鋼板表面最大変位図(右)

図1 レーザ励起超音波解析モデル(左)、鋼板表面最大変位図(右)

電磁超音波(EMAT)は、静磁場を発生させる永久磁石と、変動磁場を励起あるいは検出するコイルから構成され、磁石の構造・配置、コイル構造を適切に組み合わせることにより、縦波、横波、表面波など各種モードの超音波を送受信でき、高温や放射線下など特殊な環境での検査にも使用することができます。EMATの計算は、ローレンツ力を介して電磁場解析(静磁場解析、渦電流解析)と超音波伝搬解析の連携計算を行うことにより可能です。ここでは、ローレンツ力型EMAT解析事例として、EMATによる超音波送受信実験および2次元解析を行った文献 [4] を元に3次元モデル(図2)を作成し、「EMAT送信~超音波伝搬~EMAT受信」の一連の解析を行った結果を図3に示します。ローレンツ力により発生した縦波が約7.5μs後に受信EMAT側の試験体表面に到達し、反射により一部が横波にモード変換している様子や、ローレンツ力により発生した横波が約16.5μs後に受信EMAT側の試験体表面に到達している様子が確認できます。

図2 EMAT解析モデル

図2 EMAT解析モデル

図3 EMAT解析 超音波伝搬図

図3 EMAT解析 超音波伝搬図

空中超音波は、空中で超音波を伝搬させて試験体からの反射や透過を計測し、バッテリーの内部欠陥やCFRPのような複合材の内部剥離の検出などに利用されます。試験体までの距離は数十cm~数m程度離れている場合が多く、空中超音波の計算は、「センサ~伝搬領域~試験体」を含めたFEMフルモデルを考えた場合、大規模な解析となり長距離伝搬となって数値誤差の影響も無視できなくなりますが、FEM解析と外挿解析の連携計算「FEM-外挿法ハイブリッド解析」を行うことにより少ないメモリ、短い時間で精度よく計算することが可能です。ここでは、空中超音波解析事例として、アクリル板内に欠陥(水充填、真空)があるモデルに、1m離れた位置から空中超音波を垂直入射した際の「Step1 FEM送信解析~Step2外挿解析(空中伝搬)~Step3 FEM反射解析」の一連の解析を行った結果を図4、図5に示します。波形引継ぎ後のStep3 FEM反射解析の結果を見ると、領域引継ぎによるリスタート計算により波形が一方向に伝搬し、波がアクリル板に到達すると空気の泡、ボイドの箇所が赤く表示されて圧力が大きくなっているのが確認できます。

図4 FEM-外挿法ハイブリッド解析モデル(Step1~Step3)

図4 FEM-外挿法ハイブリッド解析モデル(Step1~Step3)

図5 アクリル板 圧力コンター図(上段:平面図、下段:側面図)

図5 アクリル板 圧力コンター図(上段:平面図、下段:側面図)

今後、AI、IoTを用いた予知保全、遠隔監視も期待されており、いろいろな環境下でのセンサ利用が進むと考えられます。そのような使用環境を模擬し、最適なセンサ構造や配置を検討したり、複雑な超音波伝搬挙動を可視化して現象を確認したりするのにシミュレーションは有効です。今後もお客様からのご要望、ご意見等を取り入れながら、超音波シミュレーション技術の開発・向上に努めていきたいと思います。

参考文献

[1] 猿橋正之、レーザ,EMAT,空中超音波等の超音波リモートセンシングとシミュレーション活用、一般社団法人日本非破壊検査協会 2021年度第1回非破壊検査総合シンポジウム

[2] 島田 義則, レーザを用いたコンクリート構造物の遠隔・非破壊計測技術の現状と展望, 電気学会誌, 2019, 139 巻, 5 号, p. 280-283

[3] 小島 史男, 電磁超音波を用いた探傷の基礎と最新動向, 計測と制御, 2017, 56 巻, 11 号, p. 839-844

[4] 丸山真一,杉浦壽彦,吉沢正紹,電磁超音波探触子による超音波受信過程に関する研究,日本機械学会論文集C 編, Vol. 66, No. 642, pp.390–397, 2000

関連製品についてはこちら

超音波解析ソフトウェア ComWAVE
https://www.eng-eye.com/ComWAVE/