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コラム:衝撃・安全

あらゆる衝撃波現象について書かれた古典的名著
「ショックウェイブ(Shock Waves & Man)」の紹介

原子力・エンジニアリング第1部 阿部 淳

[2021/03/23]

「衝撃波」のイメージとしてはやはり「爆発」や「破壊」といった負のイメージを持たれる方が多いと思います。我々の身の回りで衝撃波を目の当たりにすることは滅多になく、もし機会があるとすれば衝撃映像特集などのTV番組で放映されるような爆発事故などよって偶然に撮影された恐ろしい衝撃波の姿ではないでしょうか?確かにそういったマイナスイメージが先行してしまいますが、実は衝撃波現象自体は人為的なものばかりではなく、自然現象として発生しうるものであり、衝撃波がなかったとしたら産業発展はおろか、地球上の生命も誕生できなかった可能性もあるのです。
ここでは「ショックウェイブ(Shock Waves & Man)」(I.I.Glass著、高山和喜訳、丸善出版社、1987年)を紹介します。著者であるGlass教授はカナダ・トロント大学航空宇宙研究所の終身教授であり、衝撃波研究の先駆者として非常に有名な先生です。Glass教授の元で多くの日本人研究者が衝撃波を学ばれ、現在の日本の衝撃波研究の拠点を創生されたと言っても過言ではありません。翻訳者である高山和喜教授は東北大学流体科学研究所の名誉教授であり、Glass教授の門下生でもあります。日本の衝撃波研究の発展を語る上で欠かすことができない大先生であり、過去に弊社のテクニカルコラム「衝撃波の科学」を執筆していただいております。今回紹介する本の原文は英語ですが、日本語の他に4か国語に翻訳されて出版されているようです。なお、画像はトロント大学から東北大学に寄贈された全長約20mの国内最大級の大型衝撃波管です。

あらゆる衝撃波現象について書かれた古典的名著「ショックウェイブ(Shock Waves & Man)」の紹介

この本のテーマとしては、もちろん最初から最後まで「衝撃波」なのですが、先ほど述べたように衝撃波のマイナス面だけでなく、プラス面である衝撃波の産業応用や生命の起源などにスポットを当てております。マイナス面としては核兵器による衝撃波について克明に踏み込んでいます。しかし、核兵器開発の加速が人類の未来を破滅に導くことを強く警告し、衝撃波(爆薬)の平和的利用について多くのページを割いています。特に衝撃波の医療への応用についてはまるまる1つの章を割いており、水中衝撃波の収束を利用した腎臓結石の破壊除去(テクニカルコラム「衝撃波の科学」の第23~25章参照)について紹介しています。また、地球上の文明および生命の誕生に衝撃波が関与した可能性についても言及しています。この部分を読むと、普段は衝撃波を実体験することはありませんが、もっと幅広い視野でとらえれば、我々人類と衝撃波は密接に関係していることを感じることができます。まさに題名の通り「Shock Waves & Man」なのだなと思います。
この本の特色として挙げられるのが、数式をまったく使用していない、そして、写真が非常に美しい、というところです。衝撃波現象を数学的に記述しようとすると、けっこう複雑な数式を書かざるを得ないのですが、そこをざっくりとそぎ落とし、いろいろな衝撃波の物語を「読み物」として一般の方にも分かりやすく取り上げています。写真についても衝撃波が鮮明に記録された実験写真が惜しげもなく掲載されています。衝撃波を静止画像でしかもピントもばっちり合わせて撮影することは至難の業です。通常では見ることができない非常に貴重だと思われる実験の画像も数多く、衝撃波現象を理解する上で助けになるものばかりです。(著作権上、実際に画像をお見せできないのが本当に残念です。)
さて、この本を図書館で検索しましたが、私の地区の図書館では登録がありませんでした。アマゾンで調べたところ中古品で1500円~40000円(プレミアプライス!)で購入可能のようです。ぜひお読みください・・・とは言えないのですが、もし機会があればぜひページをめくって写真撮影された鮮明な衝撃波をご確認ください。何十年かぶりに読書感想文を書きましたが、衝撃波についてより深く理解していただく一助になればと思います。

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