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コラム:プラント

STAAD.Proを用いた吊り構造物の解析

建設ビジネス推進部 解析システム課 佐野 秀昭

[2021/02/25]

架構構造物を施工する場合には梁や柱を部品として現場に持ち込んで現場で組み立てる場合と、輸送可能な程度に工場で組み立てたユニットとして現場に持ち込み施工する場合が考えられます。工場で組み立てると天候や立地などの諸条件の影響を受けにくく、作業し易い環境で組み立て作業が行えるため、品質の向上に繋がります。ただし、ユニットとして合計重量が増えるため、工場や現場での移動の際にクレーンなどで吊られて、施工後の運用時とは異なる力学的な状態に置かれます。安全に作業することや運用後のユニットの性能を確保するために、そのような状態でも構造物の応力状態を把握して、安全を確認することが必要になります。

図1

図1 工場で組立てたユニット

ユニットを吊り下げるときは、一般的にはクレーンのフックからユニットの数点にケーブルを使って吊り下げます。クレーンのフックは1点のだけため、重心位置で吊り上げないとユニットが回転したり、大きく揺れたりした危険なため、重心を求めることが重要です。STAAD.Proでの自重の重心を計算する専用コマンドがあり、簡単に重心位置を求めることができます。

図2

図2 重心未考慮・考慮時の挙動

このようなケーブルに吊り下げた造物を解析するとき、線形解析では適切な計算ができないので、ケーブル要素を使った幾何学的非線形解析が有効です。この解析では、以下の項目が考慮されます。

ケーブル要素

ケーブルに自重のような分布荷重があると、中央部分が下方向にたわんでカテナリー曲線と呼ばれる形状になり、このたわみをサグと呼びます。この曲線を考慮することで、正確な解析が行えます。STAAD.Proのケーブル要素には自重以外の等分布荷重も付加することができますが、途中に集中荷重を付加できないため、その場合は複数要素に分割してノードに荷重を付加します。ケーブルは始点と終点の座標、分布荷重、初期張力(無応力長)によりカテナリー曲線が決定されます。

図3

図3 ケーブル要素

ケーブル張力による幾何剛性

ケーブルに与えられた初期張力により幾何剛性が考慮され、張力の大きさに応じた曲げに対する幾何剛性が考慮されるので、このようなモデルでも安定した解が得られます。張力は荷重増分による繰り返し計算による変化も考慮されます。また、ビーム要素やプレート要素でも幾何剛性は考慮されます。

幾何学非線形解析

繰り返し計算の各ステップにおいて、変形後の座標値が考慮されます。ケーブル要素・ビーム要素・プレート要素ではP-Delta効果が考慮され、荷重増分と収束のための繰り返し計算が実行され、ニュートンラプソン法で収束計算が行われます。以下に計算の流れを示します。

解析の流れ:

  1. 入力された荷重ベクトル{Pext}が計算され、荷重増分ステップ数に応じた1ステップ分の増分荷重ベクトル{P}={Pext}/nStepsが計算されます。nStepsは荷重ステップの数です。また、初期の変位ベクトル{uprev}={0}も定義されます。
  2. 最初のステップでは、不釣合い力{ΔP} = {P}と変位ベクトル{u} = {uprev}、剛性マトリックス[K]が計算されます。ここでは要素の非線形性(幾何剛性Kgなど)も考慮されます。
  3. 方程式[K]{Δu}={ΔP}を解いて、増分変位{Δu}を求めます。
  4. 変位ベクトルを{u}={u}+{Δu}として更新します。
  5. {u}により全てのノード座標が更新されます。
  6. 更新された要素に基づいて要素反力{R}が計算されます。
  7. 不釣合い力は{ΔP}={P}-{R}になります。
  8. |{ΔP}|/{P}と収束許容誤差εを比較して収束判定します。収束した場合は、現在の変位が反復計算前の変位として{uprev}={u}とされます。
  9. 収束していない場合は、ステップ2~7が収束するか、最大反復回数に達するまで繰り返されます。

このようにSTAAD.Proでは吊り構造についても正確な解析が可能で、この結果を用いて各設計規格に準じた評価を行うことができます。

CTCでは、プラント関連の架構設計業務を効果的にご利用頂くために、上記のSTAAD.Proの販売とユーザーサポートを提供しています。

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