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コラム:衝撃・安全

貯蔵タンクやタンクローリーの大爆発!「BLEVE現象」とは?

原子力・エンジニアリング第1部 阿部 淳

[2020/12/22]

テレビやYouTubeで「衝撃映像」特集のような番組を見る機会がありますが、化学工場の貯蔵タンクやタンクローリーに火災が生じて、大爆発とともに空中に大きな火の球が生じる衝撃的な映像をご覧になったことがあるかと思います。火災だけでなく、爆発による破片の飛散、爆風の伝播などによって、周囲には甚大な被害が生じます。これはBLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapor Explosion)と呼ばれる現象が原因とも考えられています。Wikipediaによると「ブレビー」または「ブリーブ」と読み、日本語では「沸騰液膨張蒸気爆発」や「沸騰液体蒸気拡散爆発」と訳されるようです。このBLEVE現象だと考えられる大爆発事故はこれまで世界の至るところで発生しており、この現象のメカニズム解明と防止対策が長年研究されています。

この物理現象は非常に複雑なプロセスでまだ完全に解明されていないのですが、例えば以下のようなシナリオが考えられます。

  1. 燃料や可燃性液化ガスを充てんした貯蔵タンクやタンクローリー近傍で火災が生じ、タンク内の可燃性液化ガス(「液化ガス」は「気体」の状態ではなく、低温高圧により「液体」になった状態を指します)が火災の熱により加熱されます。もちろん加熱すると温度上昇だけでなく、密閉されているため圧力も高くなります。長時間加熱すると液化ガスは飽和温度(ある圧力で液体が沸騰する温度)を超える場合があります。圧力も数十気圧を超えることもあります。
  2. タンクは、火災の熱による軟化、液化ガスの内圧上昇、などの厳しい環境に晒されますので、破壊するのも当然です。タンクの一部が破損して亀裂や穴が生じた場合、内部の液化ガスはどうなるでしょうか?まず、内部の液化ガスは非常に高圧ですので、亀裂や穴から一気に噴出し、大気中に拡散します。噴出によってタンク内に残った液化ガスは急激に減圧しますが、もし液化ガスの温度が減圧時の圧力における飽和温度を超えていた場合、液化ガスが“沸騰”して一気に気化します。これを「沸騰爆発」と呼びます。液体が気体になると一般に体積は10~100倍オーダーで増加します。こうなるとタンクの破損はさらに拡大し、液化ガスの噴出・拡散は爆発的に加速していきます。
  3. 大気中に噴出した液化ガスは蒸気状となり空気と混合しながら広い範囲に拡散します。一方で地上では火災も生じています。この火災が混合ガスに着火するのは火を見るよりも明らかです。着火した瞬間、大気中の混合ガスは大きな火の玉となって爆発的に燃え上がります。この爆発現象を「自由空間蒸気雲爆発」、この時発生する火の玉をファイアボールと呼ぶようです。

これがBLEVE現象の1つのシナリオ例です。なお、細かい話ですが、文献によっては、1. と2. だけでBLEVE現象とする場合と、3. までを含めてBLEVE現象とする場合があるようです。

図1

さて、このBLEVEによる爆発現象を数値解析で再現することは至難の業です。タンクなどの構造物の変形・破壊、液化ガスの状態変化、液化ガスまたは上記の流動・拡散、混合ガスの燃焼、など、どの過渡現象を切り取ってみても簡単に計算できるようなものではありません。さらにこれらが互いにほぼ同時並行で進行しますので現時点では不可能に近いでしょう。海外では試験的にBLEVEによる爆発を発生されて、様々な試験データを取得し、さらに数値解析による再現に向けて努力を重ねているようです。
しかし、「実際の現象の再現」ではなく、「爆発威力が最大となる条件でのBLEVE現象の再現」であれば、我々の手持ちの解析ソフトウェアによってBLEVEで生じる爆発威力を評価することが可能になってきます。その場合、例えば以下のような仮定を設定します。

  1. タンク内部の液化ガスが十分に加熱された時点でタンクの特定部位が破壊するものとする。
  2. タンク破壊時に内部の液化ガスがすべて瞬時に気化するものとする。
  3. すべての液化ガスが空気と一様に混合するものとする。
  4. 混合ガスは瞬時に完全燃焼して、高温高圧の燃焼ガスとなる。

このa.~d. の仮定が起こる可能性は確率的には極めて小さく、現実的には起こるはずがないと笑われるかもしれません。しかし、このような仮定を設定して、爆発威力が最も大きくなる最悪の条件での計算であれば、現在手持ちの解析手法で計算することが可能になってきます。この時の爆発威力を数値解析である程度把握しておき、技術的かつ予算的に可能な範囲で不測の事態に備えるということは、決して無駄な検討ではないと思います。
冒頭で述べた通りBLEVEに関する動画はYouTubeなどで視聴することができます(「BLEVE」で検索)。動画を見てからこの記事を読んでいただければより理解が深まるかと思います。

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