HOME技術コラムASME B31J-2017におけるティーの新しい応力集中係数とたわみ係数

コラム:プラント

ASME B31J-2017における
ティーの新しい応力集中係数とたわみ係数

建設ビジネス推進部 解析システム課 本橋 賀津彦

[2020/11/25]

配管系の応力解析に関するASME(米国機械学会)のB31.1(Power Piping)やB31.3(Process Piping)等の設計規格では、配管系を梁要素でモデル化して解析を行い、発生応力が許容値以内であること確認することが要求されます。エルボやティー等の継手部分は、通常の梁要素の単純な応力算出式で計算される応力よりも、実際にはもっと大きな応力が発生します。また、溶接部においては溶接の方法等によって強度の低下もします。配管規格では、継手のタイプごとに、応力集中係数(Stress Intensification Factor, SIF)が設定されており、梁要素として計算した応力に対してこの応力集中係数を乗じた値をその継手の発生応力として評価を行うようになっています。
この応力集中係数は50年以上も前に規定されたもので、実際の継手等に生じる応力とに差異があるのではないかと以前から指摘されていました。応力集中係数等を改善すべく、ASME B31シリーズの中に、新たな応力集中係数を規定するB31Jが制定され、その2017版において各種継手等の応力集中係数の詳細な算出式が示されています。なお、B31.1やB31.3の設計規格において、従来の応力集中係数はそのまま残っていて、どちらの応力集中係数を使用するかを選択できるようになっています。
エルボと溶接部分については、従来とB31Jの応力集中係数において大きな変更がなく、本資料ではティーの応力係数とたわみ係数について概要を紹介します。

ティーの応力集中係数:
B31.1やB31.3のティーには、Welding Tee, Reinforced Tee, Unreinforced Tee, Extruded Tee, Welded-in Insert, Welded-on Fittingの分岐に関する応力集中係数の算出式が示されていましたが、B31Jにおいても同じ種類の分岐が規定されています(規格によって、ティーの名称が多少異なります)。従来の応力集中係数はたわみ特性値h(=t/r、ここで、t:母管の厚さ、r:母管の平均半径)をパラメータとして算出するようになっていましたが、B31Jでは各種の有限要素のモデルによる解析結果を元にした、d/D, R/T, t/T等(大文字は母管側、小文字は枝管側を示し、D,tは平均径、T,tは厚さ、Rは平均半径)をパラメータとした算出式になっていて、母管側と分岐側とで個別の係数が規定されています。また、B31.3では、面内と面外のモーメントに対する応力集中係数が定義されていますが、B31Jではねじりモーメントについても応力集中係数が規定されています。算出式も複雑になりましたが、式の使用にあたっての多くの制約や条件が注意(Note)に示されていて、注意を理解して正確な応力集中係数を手計算で求めることは結構大変です。
以下は、いくつかのサイズのWelding Teeに対して、B31JとB31.3の応力集中係数の値の比をグラフで示したものです。左側が同径ティーの場合、右側が分岐管側の公称径が母管の1/2の異径ティーの場合です。グラフで1.0から離れるほど双方の応力集中係数に差があることが示しています。なお、B31.3とB31Jでは、分岐側の断面係数の計算方法も異なるため、応力算定は断面係数にも依存します。

図

※iir・ior・itrはB31Jの母管側の面内・面外・ねじりのSIF、iib・iob・itbはB31Jの分岐側のそれぞれのSIF、ii・io・itはB31.3のそれぞれのSIF(母管側と分岐側で共通、itは1.0)。

※上記はWelding Teeの場合の一例です。他のティーおいても同様になるわけではありません。

ティーのたわみ性:
エルボは、曲げモーメント等を受けた際に直管より曲がりやすい継手で、B31.1やB31.3等の規格において、その曲がりやすさを示す「たわみ係数(フレキシビリティファクタ)」が規定されています。ティーにおいても形状やサイズによって、たわみ性がありますが、従来のB31.1やB31.3ではティーのたわみ性は考慮していません。
ASME B&PV Code Section III(原子力設備規格)のNB-3686.5において、母管側と分岐側の径比が1/2以下のティーにおけるたわみ係数が示されています。また、高圧ガス設備等耐震設計指針のレベル2においては、NB-3686.5のたわみ係数が、径比が1/2を超える場合にも有効性があるとし、適用範囲を同径までのティーに拡張して使用を認めています。
B31J-2017においても、ティーのたわみ性を考慮して解析することが許容されるようになり、そのたわみ係数を算出する式が規定されています。応力集中係数と同じようにd/D, R/T, t/T等をパラメータとし、母管側・分岐側のそれぞれの面内・面外・ねじりのたわみ係数の算出式が規定されています。
下図は、たわみ性を考慮する箇所を示していて、母管側はティーの交点、分岐側は母管外表面の箇所でたわみ性を考慮します。

図

熱膨張や地震相対変位等の変位荷重に対しては、ティーのたわみ性を考慮することで配管の伸びや変位を吸収しやすくなり、変位応力(熱応力)の低減に寄与することができます。

AutoPIPEのバージョン11.3において、B31.1およびB31.3コードの2012年版以降において、B31Jの応力集中係数とたわみ係数を使用した解析が行えるようになっています。B31Jの新しい応力集中係数やたわみ係数は、まだ、実際のプラントの設計においてすぐに適用する段階ではないかもしれませんが、将来の設計に備えてぜひ使用してみてください。

関連製品についてはこちら

配管応力解析システム AutoPIPE
http://www.engineering-eye.com/APIPE/