コラム:マテリアルデザイン
アプリケーションサービス部 材料技術課 山﨑 敏広
[2020/01/15]
エントロピーという言葉からなんとなく想像がつくかもしれません。図1に高エントロピー合金の模式図を示します。高エントロピー合金は様々な元素が含まれ、ランダム上に配置された状態の合金です(熱力学的には配置のエントロピーが高い状態)。
素直に読めば、こうエントロピーですが、ハイエントロピーと呼んだり、書いたりします。個人的には高エントロピーと書いて、ハイエントロピーと呼んでいます。
一般的な合金は、主となる成分、例えば鉄などの場合、強度や伸び、靭性といった機械特性や耐食性を付与させるために、炭素やクロム、ニッケルといった元素を微量添加させます。しかしながら、高エントロピー合金の場合、一般的な合金とはコンセプトが異なり、複数種類の金属(多くの場合5種類以上)がほぼ等モル比含まれて構成されます。そのせいか、以下のような特徴を有します。
実用化が最も期待され、研究が盛んな分野としては、構造材料分野です。素材や自動車、航空など多岐にわたる産業において、構造材料の軽量化や機械特性向上の課題は常に付きまといます。なぜ高エントロピー合金が構造材料分野で期待されるかというと、ミクロ組織のつくり込みで高強度化が図りやすく、延性や靭性、高温特性に優れること、耐腐食性が良いことが挙げられます。
そのための高エントロピー合金のデザイン方法(合金設計)がユニークです。目的に応じて元素を決定したり(軽量化のために低密度の元素を入れるとか)、元素の標準状態の結晶構造を参考にしたり、周期律表を眺めたりします(価電子という観点でも、合金設計の一つのパラメータになります)。このデザインに研究要素が豊富にあります(もちろん加工や熱処理プロセスも大事です)。
CTCが販売する熱力学計算ソフトのThermo-Calcはあらゆる合金系を計算上で設計でき、材料分野ではデファクトスタンダードツールとして利用されています。高エントロピー合金についても、専用の熱力学データベースが数年前に作成され、固溶体相および化合物相の有無や組織予測などに使われています。
弊社でも、Thermo-Calcおよびデータベースの販売促進の一環として、Thermo-CalcとMICRESSを用いて、事例開発に取組んできました。MICRESSはフェーズフィールド法ソフトウェアで、Thermo-Calcの熱力学データベースと連携して、合金のミクロ組織形成予測を行うことができます。
2019年秋の金属学会のオーラルセッションに参加し、熱力学と速度論の観点からミクロ組織形成のメカニズムについての考察を発表しました。図2に示すように、シミュレーションでも実験観察で得られているような材料組織形成の支配因子を明らかにし、Thermo-CalcおよびMICRESSの有用性を示すことができました。
最近は、情報収集を兼ねて関連する研究会にも積極的に参加しておりますが、大学・研究機関を中心に、Thermo-Calcの利用および高エントロピー合金用の熱力学データベースがじわじわと広まり、積極的に利用していただいていることを喜ばしく思います。
合金元素の組合せパターンが無限に存在する本合金系の場合、実験研究のみで検討するよりも、Thermo-Calcを導入することで、合金設計に効率性・効果性を期待することができます。
弊社ではソフトウェアおよびデータベース導入検討の際には試計算等々、導入後もサポートを行い、客様の材料開発にお役に立てるように取り組んでおります。
熱力学計算ソフト Thermo-Calc
http://www.engineering-eye.com/THERMOCALC/
フェーズフィールド法計算ソフト MICRESS
http://www.engineering-eye.com/MICRESS/
高エントロピー合金の研究開発にThermo-Calcを適用した例 (Thermo-Calcユーザ会2019資料)
以下のページよりダウンロード可能です
http://www.engineering-eye.com/THERMOCALC/download/