コラム:超音波・電磁技術
アプリケーションサービス部 CAEサービス2課 酒井 幸広
[2019/03/13]
超音波を用いた構造物・材料・製品などの非破壊検査・健全性評価において活用される数値シミュレーション技術の紹介として、先日、一般社団法人 日本非破壊検査協会の機関誌「非破壊検査」68巻2月号特集「超音波 NDT/NDE におけるシミュレーション技術の進展と応用」に、「フェーズドアレイUTおよび探傷画像評価へのFEMシミュレーションの適用」[1]と題した解説文を寄稿させていただきました。今回、その中から、弊社の超音波シミュレータ「ComWAVE」を利用した解析事例について一部紹介させていただきます。
フェーズドアレイ超音波探傷法(以下、PAUT)、開口合成法およびTOFD法等は、超音波探傷結果を画像で評価することが可能な手法で、従来の探傷波形のみの評価に比べて、多くの情報を持ち、かつ直感的な評価が可能となり、工業分野での普及が進みつつあります。
その中で今回は、図1に示すような、送信と受信の一対の探触子を向かい合わせで平行走査を行い、欠陥からの微少な回折波を受信して断面をDスキャン画像として評価するTOFD法シミュレーションについて紹介いたします。
図1のTOFD法解析モデルについて、2次元断面の計算の重ね合わせでDスキャン画像を作成した場合と、3次元モデルそのもので作成した場合の比較結果を図2に示します(幅2mmの欠陥のDスキャン画像をピッチ1mmで溶接線方向に±8mm移動して計算)。
図2より、送受信探触子を結ぶ面内に欠陥がない場所では、2次元解析ではエコー画像が現れないのに対し、3次元解析ではエコー画像が観測されていることが分かります。この結果、Dスキャン画像を正確にシミュレーションするには、3次元解析が必須であると言えます。
次に、今回の解析に利用した計算環境および計算時間を表1に示します。
PC環境 | Intel Xeon Gold 6134 CPU @ 3.20GHz NVIDIA V100(16GB)×2並列 OS:CentOS 7.4 必要メモリ:約16GB |
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解析規模 | 要素大きさ:0.1mm 解析領域:24mm×120mm×82.5mm 要素数:237,600,000 ステップ数:2,581(35μs伝搬) 解析時間:1,027秒(GPU使用時) 36,767秒(CPU使用時) |
表1より、GPU計算の方がCPU計算より約36倍高速であることが分かります。
Dスキャン画像の作成には3次元解析を溶接線方向に移動しながら複数回実施して作成する必要があるため、計算に必要なメモリおよび計算時間が膨大になり、本解析のような3次元解析を繰り返す計算にはGPU計算が特に大きな効果を発揮します。
また、実際の溶接部探傷では裏波形状も複雑であり、欠陥長さや形状も様々な場合が考えられるため、さらに広範囲の3次元解析が必要になり、大規模解析かつ計算回数も膨大となります。そのような場合には、計算リソースを比較的自由に増減可能なクラウド環境を用いるなど、柔軟な計算機環境の構築が有効な手段となります。
最後に、先の機関誌「非破壊検査」同特集の他の解説文でも「ComWAVE」を利用した先進的事例が紹介されておりました[2][3]。引き続き、幅広い方に「ComWAVE」をご利用いただけるよう、ユーザ様からのご要望、ご意見等を取り入れながら、非破壊検査に貢献する超音波シミュレーション技術の開発・向上に努めていきたいと思います。
本稿のPAUTの特性評価の内容は、2014~2017年度に実施した、JSNDI超音波部門のフェーズドアレイ超音波探傷研究委員会(委員長、東北大学三原毅教授)の成果を引用しています。ご協力いただいた皆様に感謝いたします。
超音波解析ソフトウェア ComWAVE紹介ページはこちら
http://www.eng-eye.com/ComWAVE/index.html