コラム:マルチフィジックス
科学・工学技術部 先進技術開発課 鈴木 弘仁
[2018/10/19]
近年、自動車の軽量化と高剛性化のため、車体にCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)やアルミニウムなどの軽量材料を接続して用いる異種材料化が進んでいる。しかし、CFRPはその中に炭素繊維を含むために、電解質溶液(海水や融雪剤を含む塩水等)中においてCFRPと接続した金属材料の腐食を促進する。所謂「ガルバニック腐食」の発生が懸念される。
ガルバニック腐食は、図-1に示すように電解質溶液中において異種の導電性材料を接触させたときに生じる腐食現象であり、電位が碑な方の導電性材料がアノードとなって、単独材料だけの場合より腐食速度が加速される。一方電位が貴な方のカソード側の導電性材料は腐食速度が減速してカソード防食される。自動車において使用されるCFRPとアルミニウムの接続箇所に塩水膜が付着した場合、アルミニウムがアノードとなって腐食される。
このCFRPとアルミニウムの接続箇所のガルバニック腐食の数値解析モデルについて以下で簡単に述べる。
この解析で扱う支配方程式は式 (1) の電場の式と式 (2) のイオン濃度の輸送方程式である。式 (1) では塩水膜中は電気的には中性が成り立つと仮定して、右辺は0としたラプラス方程式となる。また、式 (2) は時間微分項、拡散項と生成項があるが対流項がないイオン濃度の輸送方程式となっている。解析は塩水膜領域を解析領域として行う。
境界条件は以下のように設定する。
解析領域の離散化手法は保存則を満足する有限体積法を使用する。
腐食速度∝腐食表面積×電流密度となるため、腐食面の表面積は正確に計算する必要がある。腐食面は移動境界面となり、その離散化モデルは腐食速度の計算精度に大きく影響する。腐食面の形状をALE法(移動メッシュ)で表すと、腐食の進行とともに腐食面近傍の計算メッシュの変形が激しくなり、計算メッシュの再構成が必要となる。このため計算安定性と計算時間の点から移動メッシュ(ALE法)より固定メッシュで腐食面の移動を扱う手法を選択する。
腐食の溶液内の化学反応は時間積分幅に対して十分短い時間で行われるものとして、1つの時間ステップ幅内では化学平衡が成り立っているとする。その反応速度式を連立方程式として計算することで式(2)の各化学種の生成項Siを求める。
時間積分は陰解法を採用する。計算手順としては以下の 1. ~2. を収束基準を満たすまで1つの時間ステップ内で反復計算し、収束後に 3. と 4. の処理を行い次の時間ステップの計算を行う。
このような計算は有限体積法を使用した汎用流体解析コードで計算可能なことが多い。ただし、移動境界面を扱う上でユーザーサブルーチンでのプログラミングが必要となる可能性があり、それに対応可能なコードであることが求められる。