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コラム:熱流体

配管内の液充填時の注意すべき事項とその予測について

アプリケーションサービス部 CAEサービス2課 橋本 元信

[2018/08/24]

新設またはメンテナンス後の配管システムでは、水やLNG(液化天然ガス)燃料など様々な作動流体は存在せず(あるいは抜き取っており)、配管内は空気や気化したNGガスなど気体で充満している状態です。そして(再)始動時にポンプなどにより圧送された作動流体は気体を押し出す、すなわち配管内を液で充填させながら配管システムの末端に到達します。
このような液充填時に設計として留意すべき事項は大きく2つあります。1つは配管システムの末端に作動流体が到達する時間を予測する事と、そしてもう1つは作動流体が充填した際に生じる液撃を予測する事です。以下にこれらに関して例を示し説明します。

作動流体が到達する時間を予測する例として消火設備の1つであるスプリンクラー設備が挙げられます。スプリンクラー設備は大別すると配管末端まで常に液が充填した状態である湿式と、ポンプなど圧送する系統入口部に制御バルブを配置し、制御バルブから末端のスプリンクラーヘッドまでの配管内は液ではなく加圧空気が充填された状態である乾式の2種類です。
乾式スプリンクラーは寒冷地で配管内の水などが凍結する恐れのある場合やスプリンクラーヘッドの故障による液漏れが危惧される電子機器を要する設備に採用されています。そしてスプリンクラーヘッドが作動、あるいは火災感知器が作動することで加圧された管内空気が放出され管内圧力が低下し、その結果制御バルブが開き通水が開始されます。
作動流体が末端に到達する時間、すなわち火災が検知され、乾式スプリンクラーが稼働し端部のスプリンクラーヘッドに到達、放水が開始されるまでの時間を要求される時間内に収まるように設計する事が非常に重要です。

作動流体が到達する時刻を予測するもう1つの例として、内燃機関(エンジン)のオイル潤滑回路が挙げられます。自動車エンジンの潤滑回路は、ピストンなどのしゅう動部や、クランクシャフトなどの回転部の摩擦抵抗や摩擦による発熱を低減させ、エンジン性能を十分に発揮させます。
長時間放置した自動車では、潤滑回路内のエンジンオイルは重力によりオイル溜まり(オイルパン)に戻ってしまう現象が発生します。このような状態でエンジンを始動させるとエンジン各部の潤滑がスムーズに行われず、エンジンが焼付くといった不具合が発生する危険性があります。従って、エンジン始動から末端(ベアリング)に到達する時刻を予め予測する事が重要となります。

作動流体が充填した際に生じる液撃を予測する例として、タンカーに積載された流体を陸上の処理設備に陸揚げする場合や、タンカーのバランスを維持する為にタンカー内の別のタンクに移動させる場合などが挙げられます。
作動流体が液体の場合、空気などの気体よりも千倍程密度は大きくなります。
従って圧力損失も密度に比例して非常に大きくなり、特にバルブや曲部(エルボ)に作動流体の液が到達すると大きな液撃が発生します。そして発生した液撃は液で充填された下流に伝播し、予想と異なる箇所でシステムの不具合が生じる可能性があります。

このような液充填時の配管システムの末端に作動流体が到達する時間を予測したり、作動流体が充填した際に生じる液撃を予測する手段の1つとして、1次元流動解析を利用するのが有効的です。
1次元流動解析であるFloMASTERでは、液充填解析用のソルバーであるPriming解析を過渡解析オプションとして標準で実装しております。従って、上記の作動流体が端部に到達する時間の予測や、作動流体が充填した際に生じる液撃及び液撃の伝播を予測する事が可能です。またPriming解析では配管内で生じる気体の圧縮効果も考慮してます。
またFloMASTERでは気体側の初期圧力を任意に設定する事で、例えば宇宙環境下において燃料が端部(ノズル)に到達するまでの時刻予測や、真空状態から液ではなく空気が充填する状況を予測するなど、様々な検討が可能であると考えます。

弊社並びに開発元は、FloMASTERを使用した更なる業務改善が実現できる様に、今後も継続して積極的に機能改善に取り組みます。

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1次元熱流動解析ソフトウェアFloMASTER
http://www.engineering-eye.com/FLOWMASTER/