コラム:機構・切削
アプリケーションサービス部 CAEサービス1課 坂井 哲也
[2018/08/24]
今回、機構・構造解析分野のテーマとして、公差を取り上げます。製造の現場において製品寸法の誤差、あるいは位置ずれなどの幾何学的バラツキは避けがたく、このため公差、すなわち「基準値に対し、許容される範囲の最大許容値と最小許容値の差」を把握することは極めて重要です。公差の設定があいまいで設計サイドの感覚による過剰な公差設定のもとでの製造は、加工の難度を上げて製造コストを引き上げると共に製造効率の低下につながる一方、甘い公差設定に基づく製造は、製品品質の低下や不良品の増加を招きます。したがって設計の早い段階で公差解析を実施し、適切な公差の設定を行う設計・製造プロセスが必要となってきます。一般に品質向上とコストの抑制は相反するトレードオフの関係にあり、そのバランスをとる公差の設定はセンシティブな問題です。そのような背景のもと、あらためて適切な公差設定とは何かを考えてみると、対象のコンポーネントあるいは機器が、許容される範囲、すなわち必要とされる機能、品質を実現、維持することを保証した上で、より緩和な公差を設定することになると思います。
この公差解析の中で寸法公差に関わる解析機能が、弊社が扱う機構・構造解析ソフトウェアDAFUL の最新バージョン(ver. 6.2)において、接触公差解析機能として新たに加わりました。この機能ではモデル作成時の接触設定において、設計公差を接触面の法線方向のオフセット量として設計変数化した上で動解析を実施します。
一方、DAFULの既存の機能の中ではDOE(Design of experiment/実験計画)の機能が備っています。DOEは設計パラメータの変化に対する性能指数の変動を効率的に得ることを目的とし、Orthogonal Array法やPlacket Burman法等の手法を備えたシミュレーションケース設計です。この機能を組み合わせることで、先に述べた適切な公差の設定に結びつく効率的な公差解析が可能となります。
ここではDAFULにより寸法公差の検討を行うアウトラインを、自動車ドアの閉鎖力を求めるドアラッチ(留め金)解析を題材にご紹介します。Fig. 1、Fig. 2、Fig. 3にそれぞれ一般の自動車ドアシステムの概要、機構解析におけるモデル化、開閉時のラッチ機構の状態を示します。ここでFig. 3に赤破線で示したStrikerの径及びBumperの接触面に公差±0.05mmを考え、この公差範囲でドアの閉鎖力の応答値の変化を観察します。(ここでは最大の閉鎖力に着目)解析の手順は以下となります。
以上の手順を踏み解析実行することで、各パラメータケースの閉鎖力の時間変化(Fig. 4)と最大閉鎖力に関するDOE結果(Fig. 5)が得られます。
Fig. 5のグラフよりドアの閉鎖力は、最大18.43 N、最小17.05 Nの範囲で変化し、Striker、Bumperの公差の組み合わせは、前者が共に+0.05mm、後者が共に-0.05mmでした。この閉鎖力の値が想定する閉鎖力の範囲であるかどうか、裕度がどれ程あるかで適切な公差の設定を検討します。この例のようにDAFULでは、分かり易い設定手順に基づく接触公差解析によって適切な寸法公差の設定検討が可能となります。
今回ご紹介したDAFULは公差解析の適用分野の一つ、騒音や振動の要因にもなる歯車の歯同士の干渉を抑えるため運動方向に意図して設けられる隙間(バックラッシュ)の設計、分析等にも用いることができます。
機構・構造解析ソフトウェアDAFULにご関心の際は、毎月開催されます以下のサイトに掲載の体験セミナーにぜひご参加ください。