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コラム:衝撃・安全

建築学会の耐衝撃設計への取組みのご紹介

科学・工学技術部 CAE技術課 大田 敏郎

[2018/06/15]

2015年、日本建築学会から「建築構造物の耐衝撃設計の考え方」という本が出版されました。この本にはCTCの技術者が少なからず関係しておりますので今日はその話を。

意外に思われるかもしれませんが、長らく日本の建築学会では耐衝撃設計にかかわる基準が定められておりませんでした。動的な荷重という捉え方では地震や風の荷重の基準は存在していたのですが、物体の衝突や爆発による動的な荷重をそのまま建築構造物の解析で扱う基準はありませんでした。

2009年4月、構造委員会 耐衝撃性能の評価小委員会に「耐衝撃・耐爆設計ガイドライン作成WG」が発足します。CTCの技術者も初期からWG委員として参加しており、特に建築学会にはあまりなじみのない爆発時の安全評価や数値解析の知見で貢献しました。発足時のWG主査は武蔵工業大(現東京都市大)の濱本卓司先生でした。まずは想定事象にはテロを含めず、衝突事故や爆発事故などの偶発事象に限定すること、一般の設計者にも実施できるように数値シミュレーションに頼ることなく手計算で評価が可能な手法を構築する、カバーしきれなかった想定外の事象にも対応する、といった具体的な基本方針が示され、WG委員はガイドライン策定に向かって取り組みました。

耐衝撃設計/解析という分野では、実は土木学会が先行していました。幸い土木で扱う梁や柱は建築構造物でも基本的には同じものであり、技術的には共通の課題も多く見られます。2010年にこのWG活動の一環として企画されたワークショップ「構造物の耐衝撃設計に関するシンポジウム」は、建築学会と土木学会の共催となり、学会の垣根を越えたつながりのきっかけになったと考えています。なお、日本では建築と土木は分野が分かれておりますが、欧米では“civil engineering”というと日本での「土木+建築」と認識されることが多く、境界はあまり明確ではないようです。

成果本の執筆作業ではCTCは業務で得意としている外部爆発荷重を担当したのですが、普段は爆発物の物性計算も爆風応答も基本的にはコンピュータ任せにしていたのが、すべて手計算で算出するのは非常に大変でした。ただし膨大な資料をあたり実際に自分の手を動かして結果を導く過程は現象の理解に大きく役立ち、非常にいい経験をさせていただいたと感じます。CTCには当然のように存在する膨大な資料や文献が一般には入手困難なものが多いことに気が付いたのもこの作業を通してのことです。

ガイドライン作成WGは後に「準備WG」と名を変え、主査は神戸大の向井洋一先生に引き継がれ、成果は最終的に冒頭の「考え方」という題の書籍で世に問われました。関連し、2015年の「建築物荷重指針・同解説」の改訂時にも衝撃荷重の章が新設され内容が反映されました。建築学会大会にも2012年から「衝撃解析・設計」というセッションが新設され、年々発表件数は増え続けており関心の高まりが伺えます。

同WGは2018年現在「衝撃作用低減対策検討WG」として活動を継続しており、CTCもWG委員に名を連ねております。これからもCTCの持つ技術と知見を社会貢献に役立てることができれば幸いです。