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コラム:マルチフィジックス

材料の損傷・破壊とその解析手法について/高サイクル疲労

科学システム開発部 応用技術課 田島 誠一

[2018/02/16]

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 材料の損傷・破壊において、高サイクル疲労は一般に破壊・破断までの荷重の繰返し数が10万回を超える場合として分類されており、部材の弾性範囲内となる比較的低い繰返し応力下で起こる破壊現象となります。高サイクル疲労は古くから研究が積み重ねられており、機械・構造物の設計における耐疲労評価の手法も一般化され、広く用いられるに至っています。
設計における耐疲労評価では、その概念・目的から大きく疲労限度設計、有限寿命設計の2つの考え方が確立されています。周知の通りいずれの手法においても疲労強度に関するデータとしては、S-N線図が基礎となっています。疲労限度設計では、部材にかかる最大の繰返し応力が、十分大きな繰返し数(≒十分に長い時間)まで破壊が生じない許容応力以下になるように設計されます。このとき用いられる許容応力は、S-N線図から求まる疲労限度σw0に、切欠き(応力集中部)の効果、寸法効果等の係数、さらに各種の安全率を考慮した値が用いられています。疲労限度に対する平均応力の影響についても、研究が積み重ねられており、疲労限度線図として整理されています。疲労限度線図は、横軸に平均応力、縦軸に応力振幅を取り、疲労限度を表す線と降伏応力を考慮するための降伏限界線をプロットしたものとして考案されています。疲労限度を表す線としては、Goodman線、修正Goodman線、Gerber2次曲線、Soderberg線が提案されており、それぞれ実験結果との相関がまとめられています。
この疲労限度については、切欠き底(応力集中部)に発生した初期の微小な疲労き裂が、わずかに進展したのちに停止する現象が認められており、停留き裂と呼ばれています。この停留き裂という現象に基づき、前述の疲労限度σwに加えて、き裂発生限界に対する疲労限度σw1と、停留亀裂が生じたまま破断に至らない疲労限度σw2が導入され、現象が整理されています。停留亀裂現象には切欠き底の曲率半径もしくは応力勾配が密接に関連しており、これらからσw1もしくはσw2を算出し、切欠き効果(切欠き係数)とする方法も提案されています。
さらに停留き裂と破壊力学分野における下限界応力拡大係数範囲⊿Kとの関係も研究されており、⊿KとS-N線図から求まる疲労限度σw0から切欠き底におけるき裂発生限界に対する疲労限度σw1を予測する手法などが提案されています。
このように高サイクル疲労における知見と概念の積み重ねにおいて、非常に近しい分野とはいえ異なる体系として整理されている疲労分野と破壊力学の連関と、さらに機械・構造物の設計という実学における相互作用が認識されるのは、こういった分野に身をおいている一技術者として大変興味深いところです。

参考文献
本記事に関連するソフトウェアのご紹介ページはこちら

FEMによる3次元き裂進展解析ソフトウェア:FINAS/CRACK
http://www.engineering-eye.com/FINAS_CRACK/