HOME技術コラム超大規模シミュレーションを見据えたAbaqus反復線形方程式ソルバの全面的刷新

コラム:製造・構造

超大規模シミュレーションを見据えた
Abaqus反復線形方程式ソルバの全面的刷新

科学システムサポート部 CAEサポート課 小田切 亮

[2017/08/25]

イメージ

製品開発におけるシミュレーションの高精度化の要求は年々厳しいものとなってきています。有限要素法などのメッシュを用いた計算においては、高精度化の1つの選択肢としてより細かいメッシュの採用が挙げられますが、当然のことながらモデルの大規模化に直結し、多くの場合非現実的な計算時間が要求されることとなります。そのため多くの場合モデル規模を小さくするための工夫が要求されることとなり、この作業がモデル開発期間の長期化を引き起こします。Abaqusでは並列化機能の強化を含むソルバー技術の改善によりこういった大規模問題に対するソリューションを提供してきましたが、その一方で、従来のモデル規模をはるかに超えるような、いわゆる超大規模問題を「そのまま解析」するニーズも根強く存在し続けています。

Abaqusの開発元であるダッソー・システムズでは超大規模解析(※)として10億メッシュモデルを想定しています。これは、m(メートル)オーダーのモデルをmm(ミリメートル)オーダーのメッシュで切った場合、単純計算でメッシュ数が1000の3乗で10億となることに由来しており、昨今のマルチスケール解析の需要を見据えた規模になっています。Abaqus/Standardにてデフォルトで選択される線形代数ソルバーはマルチフロント法を用いた直接法ソルバーであり、小規模~大規模モデルにおいては高いパフォーマンスを発揮しますが、10億というメッシュのモデルを解くには非現実的なほど大量のメモリを要求し、非現実的なほど長い計算時間がかかってしまいます。そのためダッソー・システムズでは非常に規模の大きい問題に向いているとされる反復法ソルバ―に注目することとなりました。
※ここでの大規模とはメッシュ数が多い事ではなく解くのに必要な演算回数(FLOPS)を指します。

Abaqusには既に反復法ソルバーが実装されていましたが、サードパーティ製のソルバーでした。このソルバーは大規模モデルに対するメモリ量が非常に多いものであったため、ダッソー・システムズではこの度、超大規模問題に対応したネイティブなソルバーとして、Algebraic Multigrid(AMG 代数マルチグリッド)テクノロジーに基づいた反復法ソルバーを開発いたしました。このソルバーはAbaqusのメモリ管理制御下にある統合されたソルバーであり、一般的に収束解が得られにくいとされる非常に不規則なメッシュやガスケット要素、ラグランジュ未定乗数を利用したモデルに対しても柔軟かつロバストな対応が可能になっています。この新しい反復法ソルバーは静的解析、熱伝導解析で利用可能であり、従来の反復ソルバーに比べて以下に挙げる利点があります。

  • 直接法ソルバーと同様、分散メモリ並列(DMP)と共有メモリ並列(SMP)を同時に使用するハイブリッドモードで実行可能
  • メモリ消費を大幅に削減しより大きなモデルでの計算実行が可能
  • 様々な顧客のための新しい機能の開発が容易
  • ソルバーコードの維持とメモリ使用量の管理が容易
  • DMPとSMPのホスト構成を任意に指定可能
    例えば、DMP 16並列とDMP 4並列×SMP 4並列の両方が指定可能です。
    (多くの場合後者の方がメモリ消費量が減る傾向にありますが、そういった細かいチューニングにも対応しています。)

本稿で紹介したAbaqusの新しい反復法ソルバーですが、Abaqus 2017の更新パッケージであるFixPackとして既にリリースされており、Abaqus 2017をインストールの上、FP.1721の更新パッケージを適用することでご利用可能です。
これまで諦めていた規模の解析モデルにトライしてみるのはいかがでしょうか?