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コラム:マテリアルデザイン

金属積層造形(3Dプリンター)のミクロ組織解析
~ 合金組織形成シミュレーション ~

CAEソリューション営業部 材料ビジネス課 下野 祐典

[2016/12/16]

一般には3Dプリンターと呼ばれている積層造形法ですが、近年は急速にその利用が広がってきています。以前は、ラピッドプロトタイピングとして、試作品作成が主でしたが、現在は実用品の作製でも使われ始めています。3D CADのデータを基にして、金型を必要とせずに中空構造やメッシュ構造などの複雑な形状を作成できます。医療分野、航空分野、自動車分野といった幅広い分野での応用が期待されています。

金属材料の積層造形法としてはいくつかの手法が実用化されていますが、薄く敷いた金属粉末に高出力レーザーまたは電子ビームを数百μm 幅で照射して瞬時に融解後凝固させながら繰り返し積層していく方法が最も複雑形状に適用できることから注目されています。照射時の微細な溶融池の最大温度は数千℃以上に達し、また熱容量は極めて小さいために、凝固時の冷却速度は数十万K/s 程度になり、かつ大きな温度勾配も生じます。そのため、実用化の進展に比べ凝固組織形成に関する基礎研究、特に数値シミュレーション手法の検討はあまり行われて来ませんでした。この原因としては極めて大きな冷却速度では既存の局所平衡仮定に基づく凝固理論の適用が可能であるかの判断が困難であったためです。しかし、近年、ニッケル超合金の積層造形実験において電子ビーム照射条件を変化させた実験により柱状晶・等軸晶遷移が観察されることが報告されています。この事実は組成的過冷却に基づく凝固理論が適用できる可能性すなわち局所平衡仮定の成立を示唆しています。また同時に凝固数値シミュレーションの適用の高い可能性も示されました。

CTCでは、東北大学金属材料研究所と共同でマルチフェーズフィールド法を用いた金属組織形成予測計算ソフトウェア MICRESSを用いて、ニッケル超合金(Inconel718)の積層造形凝固プロセス解析を行いました。MICRESSではCALPHAD法(計算状態図法)を用いた材料熱力学計算ソフトウェアThermo-Calc の熱力学データベースおよび拡散モジュール(DICTRA)の拡散モビリティデータベースと連携することで実用合金の凝固ミクロ組織形成予測計算ができます。また、MICRESSでは凝固方向の一次元温度場と連成した計算が可能です。そこで小泉准教授から提供された電子ビームの照射を模擬した移動熱源による金属粉末床の有限要素法による温度分布変化解析結果を用いて、MICRESS の一次元温度場境界条件として連性させて実際に近い積層造形プロセス温度条件での解析を実施しました。

解析の結果、実験観察と同様の柱状・等軸晶遷移を確認することができました。
また、複数の温度プロファイルでの計算結果を使って界面移動速度と温度勾配をパラメータとした柱状・等軸晶遷移凝固マップを作成したところ、柱状晶が成長する領域と等軸晶が生成する領域が分かれていることが確認できました。これにより、MICRESSを使って積層造形凝固過程に適した従来の凝固理論での知見と一致する凝固マップの作成が可能であることが分かりました。

この研究結果は、9月に行われた日本機械学会第29回計算力学講演会や10月に行われたCTC主催のイベントCAE POWER 2016名古屋などで発表しました。また、現在、Abaqusを用いて電子ビーム移動熱源による温度分布の独自計算も開始しています。更に今後はMICRESSのオプション機能である均質化モジュールHOMATを用いて人工骨のように弾性率の異方性を積極的に用いる分野などへのマルチスケール材料設計につなげて行く予定です。

2017年3月17日(金)に首都大学東京で行われる、日本金属学会 2017年度春期講演大会のシンポジウム「医療・福祉のためのAdditive Manufacturingの材料科学(2)」でも発表することになりました。

会場 :F会場(1号館 2階201号室)
時間 :10:55~11:20
題名 :マルチフェーズフィールド法によるチタン合金の積層造形凝固組織解析
講演者:○下野祐典(CTC)、大場一輝(CTC)、野村裕子(CTC)、野本祐春(CTC)、
    小泉雄一郎(東北大金研)、千葉晶彦(東北大金研)

日本金属学会 2017年春期講演大会
http://jim.or.jp/MEETINGS/2017_spr/index.php

セッションプログラム(S4.13-S4.21)
http://jim.or.jp/MEETINGS/2017_spr/program/src/session.php?code=S42&lang=ja

この他にも、Thermo-Calc Software ABでは積層造形への適用事例Webinarを公開しております。こちらもご参照ください。
http://www.thermocalc.com/webinars/webinar-application-of-calphad-based-tools-to-metal-additive-manufacturing/

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