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コラム:衝撃・安全

火星で活躍する超音速パラシュート

科学・工学技術部 CAE技術課 末木 未来

[2016/10/14]

宇宙好きの方には記憶に新しいと思いますが、2012年にNASAによるMars Science Laboratory:MSL で火星地表への探査機投入を成功させました。ケープカナベラル空軍基地からアトラスVによって打ち上げられ、約8ヵ月後、火星に着陸しました。そこから火星探査機キュリオシティの活躍が始まるのですが、その少し前の行程で今回のテーマとした「超音速パラシュート」が活躍しました。探査機を地表へと軟着陸させるためには宇宙船が火星大気圏に突入した後に、徐々に速度を落とさなければなりません。 ここで使用された減速装置の一つが今回お話する「超音速パラシュート」です。

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大気圏突入というとスペースシャトルの帰還をイメージされる方も多いと思いますが、スペースシャトルは上空でパラシュートを使いません(着地後には使いますが)。同じ大気圏突入であるのになぜ火星ではパラシュートを使うのかというと、大気の成分や状態が火星と地球では大きく異なることがその理由です。火星の大気密度は地球に比べ 1/100程度と、非常に小さいため、宇宙船だけでは速度を十分に小さくすることができません。そこでパラシュートを使った減速を行います。このときの速度が火星における音の伝わる速度(音速)を超えている、すなわち超音速での使用となるので、超音速パラシュートと呼ばれます。実は超音速とついているだけで大気による抵抗を使って減速されるという原理は普通のパラシュートと同じです。ただし、音速を超えているため、パラシュート周囲には衝撃波という気体の壁のようなものが発生し、パラシュートの挙動が不安定になったり、パラシュートそのものが損傷してしまうことなどが報告されています。
そのため、実際の運用には高い技術レベルが求められているのです。

近年、ここ日本においても年代学探査や生命探査を目的とした火星探査が計画されています。その計画の中でも火星大気圏突入時の減速装置の一つに超音速パラシュートを用いることが提案されています。MSL に使われたように運用実績は世界的にはいくつかあるのですが、日本にとっては初の火星探査計画ということで超音速パラシュートを使った実績もありません。そのため、この分野に関する知見も決して十分だとは言えないのが現状です。そこで現在、様々な機関によって超音速パラシュートに関する研究が行われています。研究といえば実験がつきものですが、超音速パラシュートの実験には多くのコストを必要としたり、詳細な流れの状態を計測することが難しい場合があります。そのため、数値解析によるアプローチも非常に重要な役割を果たすと考えられてます。火星探査計画の実現に向けて、日本における超音速パラシュート研究もさらに活発になっていくことでしょう。

弊社でも僅かながら超音速パラシュートに関する研究にチャレンジしています。
弊社の取り扱っている衝撃解析ソフトウェア Autodynの強みの一つである高速流体と構造物の連成を活かして、超音速パラシュート問題を解いています。今後、学会発表や Webサイトに掲載できるよう、活動に力を入れていきたいと思っています。

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