HOME技術コラム鉄筋コンクリート構造の非線形有限要素解析

コラム:マルチフィジックス

鉄筋コンクリート構造の非線形有限要素解析

科学システム開発部 酒井 新吉・児玉 剛

[2016/06/17]

鉄筋コンクリート構造はコンクリートの圧壊やひび割れ、鉄筋との付着など非線形性に富んだ材料挙動を示す構造です。鉄筋コンクリート構造の解析では、例えば、梁、柱部材の曲げモーメントと曲率の関係を示す履歴モデルを用いたいわゆるマクロモデルによる解析は設計の現場でも用いられています。また、材料の応力‐ひずみの非線形領域の履歴を考慮した構成則を用いたミクロモデルによる解析も設計で用いられるようになってきています。
鉄筋コンクリートの構成則(応力‐ひずみ関係)に関しては、コンクリートの圧壊やひび割れ、鉄筋との付着など非線形性を考慮したものである必要があります。

出力結果 出力結果 出力結果

ひび割れに関しては、部材内に比較的一様に発生するひび割れに関して、ひび割れを含む領域で平均化したひずみと応力の関係でモデル化する分散ひび割れモデルと、個々のひび割れをモデル化する離散ひび割れモデルがあります。
分散ひび割れモデルは、ひび割れを含む領域を要素として扱うことが可能なため、予めひび割れ発生箇所を設定する必要のないこと、要素の大きさを大きくとれること、鉄筋位置による要素分割への制約が少ないなど、構造のモデル化が容易になります。
分散ひび割れモデルには、ひび割れ面を主応力に合せて回転する回転ひび割れモデルと、ひび割れ方向を固定する固定ひび割れモデルがあります。
回転ひび割れモデルは、主ひずみ方向も主応力方向に一致し、ひび割れ面のせん断挙動のモデル化の必要がありません。固定ひび割れモデルは、発生したひび割れ面との交差角が小さいひび割れは発生しないという事実に基づき、発生したひび割れを固定し、発生済のひび割れに対して角度の大きいひび割れの発生を許す多方向の固定ひび割れモデルが使われています。主応力方向とひび割れ面が一致しなくなるため、ひび割れ面直交方向の圧縮・引張の応力‐歪関係の他、ひび割れ面でのせん断伝達を考慮する必要があります。

大規模非線形構造解析システムFINAS/STARでは、多方向固定分散ひび割れモデルに基づいた構成則が利用可能ですが、ひび割れを考慮したコンクリート材料、鉄筋ののモデル化には、以下のような点を考慮したモデル化を用いています。
コンクリートに関しては、ひび割れ面に直交する方向の引張‐圧縮履歴モデルとひび割れ面でのせん断伝達モデルを考慮した構成則を利用します。引張側はひび割れ後の引張軟化挙動を考慮したモデルとし、鉄筋の付着効果などによる相互作用を考慮します。また、無筋コンクリートのモデル化では、破壊エネルギーを考慮した引張軟化曲線が用います。圧縮側では圧縮強度までの硬化域と圧縮強度以降の軟化挙動をモデル化した骨格曲線を持ち、塑性ひずみや除荷載荷時の剛性下を考慮した履歴特性を考慮します。
鉄筋の構成則はひずみ硬化、バウシンガー効果を考慮した履歴モデルを用いますが、分散ひび割れモデルにおいて、鉄筋コンクリートとしての平均応力‐平均ひずみ関係とする場合は、ひび割れや付着の影響により、鉄筋単体での応力‐歪関係とは異なることを考慮します。

以上、鉄筋コンクリートのモデル化の一例を簡単に紹介しました。このような構成則のモデル化により、鉄筋コンクリート構造の非線形構造解析が実現されてきていますが、複雑な非線形性を伴う構造であるため、設計に使用するためには、十分な妥当性評価を行うことが重要です。

大規模非線形構造解析システムFINAS/STARの紹介ページはこちら
http://www.engineering-eye.com/FINAS_STAR/index.html

このページの先頭へ