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コラム:衝撃・安全

自動車業界における接着結合の動向とシミュレーションへの期待

科学システム本部 CAEソリューション営業部 秋田 麗佳
車両開発/数値解析 JSAEプロフェッショナル エンジニア

[2021/04/14]

CTCでは衝突ソフトウェアLS-DYNAの販売・保守・委託解析業務と併せて、モビリティ産業が直面している課題に対し様々なアプローチを取り入れ、自動車業界のシミュレーション技術の進歩を支援しています。自動車技術会(JSAE)の「接着剤破断予測ワーキンググループ」基礎研究への参与、接着学会の「構造接着・精密接着研究会」活動への参加、国立大学との共同研究による連携など、CTCの技術者らが接着技術を基礎から学び、皆様のお役に立てる活動を目指しております。本記事では、自動車用接着結合技術の見通しと接着強度試験・解析手法についてご紹介いたします。

モノづくりにおいて、結合技術はなくてはならない重要な加工方法です。自動車製造においては、構造用途としての接着結合は普及し始めたばかりですが、軽量化・安全性・モジュール構造といった現代の自動車設計ポリシーのためには、接着結合は既に必要不可欠な技術となりつつあります。今後、自動車の進化に合わせて製造工程に接着結合プロセス技術を応用展開するには、今後の開発とシミュレーション技術の利用が非常に重要となります。

接着結合は、ほとんどの材料の組合せで結合することができる方法の1つで、スポット溶接(RSW)とは異なり、接着の面結合を生成するので、構造物の剛性を上げることができます。下図は米国の調査機関CARの調査結果ですが、自動車メーカーでは締結に接着剤(Adhesive)を使用する傾向が強まっており、この傾向は今後も続くことが予想されます。

2030年以降までの結合プロセスの傾向

2030年以降までの結合プロセスの傾向

昨今、ヨーロッパの自動車メーカーが「マルチマテリアル」の車両ボディーを実用化したことをきっかけに、日本でも接着技術やこれを活かした製品開発への関心が高まっており、構造接着に関する研究が活発に進んでいます。

例えば欧米では、ドイツHenkel社、スイスClarian社、アメリカ3M社など、世界的に有名な企業が自動車向け構造用接着剤を開発しています。日本では、サンスター社、セメダイン社など多数の接着剤メーカーが自動車製造を支えています。
さらに、BMW社・Daimler社・Audi社では既に軽量化ボディーに構造用接着剤の採用が広がっています。日本でも、トヨタ自動車が「LEXUS LC」で構造用接着剤をキャビン及びアンダーボディーに利用し、接合剛性を向上した実績もあります。

なお、現在、構造用接着剤としてはウレタン系接着剤とエポキシ系接着剤が主流です。中でもヨーロッパ車はウレタン系、日本車はエポキシ系の接着剤を採用したいというニーズがあります。

さて、接着部の強度を評価するには、適切な試験方法を採用しなければなりません。接着強さの試験方法はアメリカ合衆国規格(ASTM)、日本工業規格(JIS)などに規定されており、JISでは以下に示す試験方法が規格化されています。

JISK6849:接着剤の引張接着強さ試験方法
JISK6850:接着剤の引張せん断接着強さ試験方法
JISK6853:接着剤の割裂接着強さ試験方法
JISK6854:接着剤のはく離接着強さ試験方法
JISK6855:接着剤の衝撃接着強さ試験方法
JISK6856:接着剤の曲げ接着強さ試験方法

接着強さの測定方法は、基本的には通常の材料試験方法と変わりません。ただし、試験片として接着結合物を使い、接着剤層に変形を与えて破壊します。
また、接着は力の加わる方向で強度が大きく変化しますので、せん断や均等な引張には強いのに対し、はく離や衝撃には弱くなります。従って、接着強度評価では、せん断とはく離の両方の評価が欠かせません。

近年、接着強さ測定試験の利用が進むにつれて、試験規格に基づいたLS-DYNAによる接着強さのシミュレーションも増えています。接着剤の破断・破壊材料モデルにおける簡易モデル手法の一例として*MAT_COHESIVE_GENERAL(MAT_186)が挙げられます。本手法は破壊力学に基づき、物理的に理解しやすいエネルギー解放率を元に、接着剤層の破壊現象を再現することができます。
下図に示しているのは、JIS規格化された接着剤試験の簡易解析モデルであり、今後マルチマテリアル構造ボディーを支える接着結合シミュレーションへの利用が期待されます。

K6849

K6849

K6850

K6850

K6853

K6853

K6854

K6854

K6855

K6855

K6856

K6856

自動車向け構造用接着剤に必要なCAEプロセスにおいては解析結果の精度と計算コストのバランスが大切です。また、溶接だけでは限界を迎えつつある中で製品の軽量化をこれまで以上に進めるためには、接着技術の基礎知識を把握しておくことが必須です。CTCは、引き続き適切な解析手法の提案を通して自動車業界のシミュレーション技術力の向上支援に努めてまいります。