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コラム:衝撃・安全

衝撃波と音波は何が違うのか? ~衝撃波を体験してみよう!~

原子力・エンジニアリング第一部 阿部 淳

[2019/08/23]

まず皆さんに質問させてください。皆さんの身の回りにある”衝撃波”を挙げてくださいと言ったら、何を思い浮かびますか?「ああ、昨日の昼の衝撃波はちょっとすごかったな」「そういえば最近は衝撃波を見てないなあ・・・」という方は間違いなくいないと思います。もちろんそう簡単に体感できるものではありません。誰でも日常で経験できる”衝撃波”として私が思い浮かぶのは「雷鳴」と「打揚(うちあげ)花火」でしょうか(図1)。ただし「雷鳴」は気象現象であり場所やタイミングが難しく、運よく近くにいたとしても感電しないようにすぐに避難してください。一方、「打揚花火」は事前に場所もスケジュールもばっちり決まっているので、「衝撃波を体感してみたい」という方にはお勧めです(今年は新コロの影響で残念ながら中止となる場合が多そうですが)。今回のコラムは「打揚花火を通して”衝撃波”と”音波”の違いを分かりやすく説明してみよう」という内容です。

図1

図1 誰でも日常で経験できる”衝撃波”

打揚花火と言っても玉の大きさはピンキリです(念のため、玉というのは花火の核となる火薬が詰まった球です。これを筒から打ち揚げて空中で爆発させます)。衝撃波を体感したいのであれば尺玉クラスを間近で見ないとだめです。尺玉というのは玉の直径が30cmを超える巨大なものであり、最近では各地で打ち上げられていますが、私が観覧したのは20年以上前の土浦の花火大会でした。普通の打揚花火が「ドン」だとすると、尺玉は「(一瞬静寂)ドドドーンッ」という感じです。なんの心構えもしていなかったので、何かの”圧”の通過とともに実際に私は後ろにひっくり返りました。かなり乱暴な定義ですが、「ドドドーンッ」という大音響と「ボゥ」という空気の”圧”を感じれば、それが”衝撃波”です、と言っても間違いではないかなと思います。

それでは”音波”とは何でしょうか?それは日常で皆さんが聞いている”音”そのものです。目覚まし時計の音、電車の発車ベルの音、イヤホンから流れる音楽の音。これらはすべて尺玉に比べると大音響ではなく、”圧”を感じることもないはずです。何かやらかして上司や奥さんに怒鳴られたとしても、精神的な”圧”でダメージを受けても、空気の風圧そのものを感じることはないはずです。それは”音波”は空気分子の振動だからです。音の発生源から皆さんの耳まで、空気分子はほぼ移動することなく振動することだけで音を伝えています。

さて、これまで”衝撃波”を連呼してきましたが、さて”衝撃波”というのは具体的にどのような現象でしょう?少し難しい言葉で説明しますと「音速を超えて伝播する圧力の不連続面」です。音速というのは音(音波)の速度で、例えば相手が話した声が自分の耳に聞こえるまで空気の振動が伝わる速度です。これは日常では約340m/s(1224km/h)で、新幹線の速度(320km/h)の約4倍、人間の感覚では「あっという間」です。あくまで振動が伝わる速さであり、空気分子そのものが移動する速度ではないのでご注意を。一方、不連続面というのは図2の(a)を見て頂いた方がわかりやすいですね。衝撃波の到達とともに圧力が大気圧から垂直に上昇して、そのあとは高い圧力のまま平らになっています。このように圧力が垂直に上昇することを「圧力の不連続」と呼んでいます。この圧力の不連続面が音速を超える速さで空気中を伝わる波が”衝撃波”となります。ちなみに、衝撃波の後ろの圧力が一定になるような衝撃波は日常ではめったに起こりません。このような衝撃波を見るためには精密な実験装置が必要になってきます。

図2

図2 衝撃波と音速の波形の違い

「え?でもさっきは雷鳴と打揚花火で衝撃波を体験できるって言ってなかったっけ?」と思われるかもしれません。もちろん体験できます。ただし、それは図2の(b)のような「爆風」の中の”衝撃波”となります。爆風(爆風波とも呼びます)の先頭に圧力の非連続面がありますよね。これが衝撃波です。ただし、その後の圧力は一定ではなく、次第に下がっています。これは”膨張波”と呼ばれるもので、基本的に爆風は衝撃波と膨張波の組み合わせになります。もちろん先頭が衝撃波になっていますので、音速を超える速度(いわゆる超音速というやつです)で伝わっていきます。さらに図2(c)の”音波”の波形と比べてみましょう。音波は爆風ととは違ってなだらかで圧力振動が小さいですよね(波の周期は音色で変わってきますので、ここでは「ポーン」という時報の音のようなものを想像してください)。音波に比べて爆風の衝撃波は、圧力の値そのものが高く、圧力の立ち上がりが切り立っていますね。これを耳で聞いた時は”音”なんてレベルではなく鼓膜を突き刺すような”爆音”となります。あまりに圧力が高いと鼓膜が損傷することもありとても危険です。また、音波は空気の振動であるのに対して、衝撃波は空気そのものが少しだけですが高速で移動します。一瞬なので”風”というよりは空気の”圧”であり、耳だけではなく体全体で感じられるレベルになります。

さて、以上が衝撃波と音波の違いになりますが、実際には図2の(b)と(c)のように分かり易い波形できっちり分けられるわけではありません。「圧力の立ち上がりの傾きが○○MPa/secより傾いていれば衝撃波とする」と決まっているわけでもありません。例えば、実際に計測される圧力波形は図2(d)のような波形になることが多いです。こうなると"音波"か"衝撃波(爆風)"かは判断がつかないですね。私がかつて土浦で受けた圧力波形はこんな感じだったのかもしれません。となると「衝撃波を体験してみよう!」というタイトルも非常に微妙な感じになってきてしまうのですが、その辺の判断の曖昧さと難しさをやんわりとお伝えしたところで、本コラムはお仕舞いといたします。

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