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CAEと品質工学寄稿 芝野 広志 氏  高木 俊雄 氏  平野 雅康 氏

基礎編:品質工学の考え方と活用のポイント

2005/07/04

3.品質工学活用の3ポイント

 我々は品質工学研究・実践過程で、製品開発や技術開発を無駄なく円滑に進めるためには、技術者が次の3つのポイントを理解して仕事に取り組むことが重要であるとの考えに至った。

(1)実験に用いる特性値の問題
⇒品質特性は用いない。基本機能を用いる。
(2)2段階設計の考え方
⇒研究開発の段階でも機能の安定性を優先する。
(3)直交表を使う目的
⇒直交表は制御因子間の交互作用の検査に用いる。

この3ポイントは重要ではあるが、理解することは、すこぶるやさしいのである。

ポイント1=実験に用いる特性値の問題

図1 基本機能の関係 品質工学には、“品質を得たければ品質を測るな”、という有名な言葉があるが、品質項目を特性値に使うなと言われても、我々の仕事の目的は品質改善なのである。実際、基本機能で実験しても最後には品質特性を調べて最適条件が正しいかを確認する。上司に報告するためと言うより、技術者としても気になるのは品質特性の改善結果である。それなら最初から品質特性で仕事を進めれば、そんな手間は省けると思ってしまう。しかし、実際に品質項目で開発業務を進めると、品質項目同士のもぐらたたきが発生して余計に手間がかかる。
基本機能は対象とする技術課題によって異なるが、製品や技術に投入されるエネルギーの入出力関係に着目することで、意外と簡単に見つけることができる。エネルギーに関連した特性値を計測すると、入力エネルギーMと特性値Yの理想的な関係は、多くの場合下の図1のような比例式になる。この関係が比例式からずれたり、傾きβが様々な条件でばらついたりすることが、品質問題を発生させる原因なのである。

ポイント2=2段階設計の考え方

 研究開発の初期段階では、目的とする機能をいかに達成するかが仕事の中心である、と考えている技術者が多い。誤差因子の影響による機能のばらつき(逆にいえば安定性)は、機能が達成できた後に検討すればよいと考えている。品質工学で提案している2段階設計の逆である。しかし実際に技術者が苦労し時間を費やしているのは、機能を達成するためよりも誤差因子による機能のばらつき対策である。機能を達成するためのアイデアは初期の段階で提案され、大きく変わることは無いが、誤差因子の影響を考えずに開発を進めた結果は、量産現場で悲惨な状況に陥ることが多い。研究初期の段階から、機能の安定性を確保しておくことが重要である。
2段階設計の一段目は機能の安定性確保、2段目が機能を目標値にあわせること(チューニングと呼ぶ)である。順序を間違えると、仕事の効率は著しく低下する。

ポイント3=直交表を使う目的

図2 直交表による実験のパターン 品質工学では設計に関係する要素を、技術者が自由に選択決定できる要因(制御因子と呼ぶ)と、自由に出来ない要因(誤差因子と呼ぶ)に分けて、それぞれを直交表の内側と外側に割り付けて実験することが多い。制御因子をA~Hの8個、誤差因子をN1~NkまでK個割り付けた直交表L18の実験パターンを図2に示す。Yは実験毎に計測した特性値のデータである。
一般的な直交表実験の効用としては、割り付けた因子を公平に研究できることと、実験回数の削減があげられる。しかし、品質工学で直交表を使う目的は、制御因子間の交互作用の有無を検査するためである。制御因子間の交互作用が大きい場合には、確認実験で再現性の無い結果となり、そのシステムを下流に流すことはあきらめるべきであると言われる。しかし担当者としてはその後どうしたらよいか途方にくれる。直交表で実験をした後では、あらためて新システムを検討する時間がなくなっている場合が多い。再現性の無い場合には交互作用を調べ、とにかくよい条件を探そうとしてしまう。しかし、交互作用を調べてよい条件が見つかったとしても、交互作用があるのだから下流で他の条件が変われば、市場や量産現場でトラブルを発生する可能性が高い。交互作用の大きいシステムを量産や市場に投入することは、技術者に無駄な仕事をさせることに繋がる。


このように、3つのポイントを理解せずに仕事を進めれば、技術担当者は必ず無駄な作業に時間を費やすことになる。いかにして技術者の無駄な仕事を無くすか、その答えが品質工学で提案されている基本機能による技術開発/2段階設計であり、直交表による制御因子間の交互作用の検査なのである。特性値としては基本機能を使い、直交表に制御因子と誤差因子を割り付けて実験する。確認実験で最適条件での改善効果が再現されていることを確かめる。この一連の動作の中に、無駄な実験をさせないための工夫が盛り込まれている。



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