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コラム:衝撃・安全

衝撃解析ソフトウェアAutodynによる
代表的な解析事例のご紹介(高速衝突編)

科学エンジニアリング第1部 技術第2課 阿部 淳

[2024/03/29]

1. はじめに:衝撃解析ソフトウェアの紹介

可燃性ガスや爆薬の爆発やそれに伴う破片飛散現象、航空機や徹甲弾の高速衝突による構造物の大変形・破壊現象は、基本的にマイクロ秒オーダーからミリ秒オーダーの短時間現象であり、人間の感覚では「あっ」という間の出来事になります。その短時間の中で物体が複雑に大変形するのみならず、物質の状態(気体・流体・固体)が変化しつつ、さらに力やエネルギーのやり取りをすることになります。この現象を数値シミュレーションで解くことは簡単なことではなく、長年の経験と実績を持つ専門の解析ソフトウェアを導入する必要があります。衝撃解析コードは衝撃現象の解明を目的とした数値解析プログラムであり、その元祖は1950年代に米国で開発されました。これを核として継続的に高速衝突および爆発解析に有効な解析手法が開発され、成長過程でいくつかの衝撃解析コードに枝分かれした経緯があります。さらにそのうちいくつかは現在も商用ソフトウェアとして活躍していますが、そのうち特に高速衝突・爆発解析を得意としたものが衝撃解析ソフトウェアANSYS Autodynです。今回はこのソフトウェアを使用した代表的な高速衝突現象の解析事例をいくつか紹介します。それぞれの事例のモデル化方法、解析結果動画については最下のリンク先に掲載していますので、ぜひご覧ください。

2. 航空機の高速衝突

航空機が原子力関連等の重要な施設に衝突する際の危険性については80年代ころから調査されていました。その際の議論の対象は戦闘機であり、大型旅客機は考慮されていませんでした。しかし、大型旅客機は戦闘機と比較すると総重量や燃料搭載量が格段に大きく、衝突時の被害は戦闘機の場合と比べものにならないほど甚大になる可能性があります。特に近年では原子力規制委員会から発表された新規制基準のうちシビアアクシデントの1つとして航空機衝突が盛り込まれており、大型旅客機を含めた航空機衝突に対する安全対策の必要性が高まっています。図2-1では大型旅客機および戦闘機が鉄筋コンクリート構造物に高速衝突した場合の状況をそれぞれ示しています。

大型旅客機(総重量約340トン)は厚さ1mの鉄筋コンクリート壁に300km/hで衝突した状況です。衝突によりコンクリートは破壊、鉄筋も破断に至り、壁を貫通する様子がわかります。戦闘機(総重量17.5トン)は鉄筋コンクリートブロックに衝突速度215m/sで垂直衝突した状況です。戦闘機は先頭から大変形して破壊、要素削除に至っています。コンクリートブロック側は顕著な破壊はないもののブロック自体が衝撃荷重により後方に加速されています。この加速度を元にして戦闘機衝突時の衝撃荷重が算出し、実際のRC建屋に対する影響予測に使用することができます。

図2-1 鉄筋コンクリート構造物に対する航空機(上:大型旅客機、下:戦闘機)の高速衝突

図2-1 鉄筋コンクリート構造物に対する航空機
     (上:大型旅客機、下:戦闘機)の高速衝突

3. 成形炸薬(Shaped Charge)の生成・侵徹現象

成形炸薬弾は、炸薬の爆発エネルギーを金属の運動エネルギーに変換することで、数千m/sオーダーの速度を持つ飛翔体を生成させるものです。成形炸薬弾には、対戦車りゅう弾(HEAT弾)と自己鍛造弾(SFF弾もしくはEFP弾)の2種類があります。図3-1に数値シミュレーションによるHEAT弾の金属ジェット生成過程を示します。HEAT弾は炸薬の先端に円錐形の金属ライナーが張り込まれたものです。着弾時の信号で炸薬が底部から起爆して膨張することにより、金属ライナーが塑性流動して円錐の中心軸上に収束します。するとこの部分の金属は高温高圧状態となり、ここから秒速数千メートルの超高速の金属ジェットが前方に発生する仕組みになっています。図3-2に鋼板に対する金属ジェットの侵徹状況を示します。一方、EFP弾は炸薬の先端に皿状の金属ライナーが設置されたものであり、飛翔体はジェット形状にはならずに、高速飛翔中に鋭利な形状に変形します。最終形状は金属ライナーや炸薬の形状、金属の種類、起爆方法などに依存しますが、数値シミュレーションにより飛翔体の最終形状および飛翔速度の予測が可能です。

図3-1 HEAT弾の金属ジェット生成過程

図3-1 HEAT弾の金属ジェット生成過程

図3-2 鋼板に対する金属ジェットの侵徹状況

図3-2 鋼板に対する金属ジェットの侵徹状況

4. ロングロッドの超高速衝突に対する防護装甲板

戦闘車両や戦闘艦の内部構造を防護するために様々な種類の装甲が開発されています。主な装甲として、最も単純な金属装甲、金属板の間にセラミック材などを積層させて防護性能を高めた複合装甲、鋼板の間に爆薬を設置した爆発性反応装甲、などがあります。これらの装甲に対して円柱飛翔体(ロングロッド)が速度1000m/sで斜めに衝突した際の侵徹状況を図4-1~図4-3にそれぞれ示します。侵徹過程をわかりやすく把握するため、衝突部分の断面を表示しています。図4-1の金属装甲の場合、侵徹が進行するにつれて侵徹孔に沿って金属が塑性流動して、衝突方向と反対側に噴出する現象(ejecting)が見られ、最終的にロングロッドが装甲板を貫通する様子が確認できます。一方、図4-2の鋼板の間に2種類のセラミック板を3層設置した複合装甲の場合、セラミック板の脆性的な破壊特性により、ロングロッドの侵徹威力を低下させていることがわかります。さらに、図4-3の爆発性反応装甲の場合、ロングロッドの衝突とともに爆薬が爆発してロングロッドを切断する様子が確認できます。

図4-1 鋼製装甲に対するロングロッドの侵徹状況

図4-1 鋼製装甲に対するロングロッドの侵徹状況

図4-2 複合装甲に対するロングロッドの侵徹状況

図4-2 複合装甲に対するロングロッドの侵徹状況

図4-3 爆発性反応装甲に対するロングロッドの侵徹状況

図4-3 爆発性反応装甲に対するロングロッドの侵徹状況

5. おわりに

今回は代表的な高速衝突現象の解析事例をいくつかご紹介しましたが、そのほかにも様々解析な事例があります。ご興味があれば下記リンクをご覧ください。なお、次の機会に衝撃解析ソフトウェアAutodynのもう1つの得意分野でもある爆発現象の解析事例をご紹介できればと思っております。

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