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コラム:製造・構造

S-N線図を用いた構造物の疲労破壊予測

科学エンジニアリング第1部 技術第4課 大西 慶弘

[2023/11/30]

部品が破壊するというと、その部品に大きな力が加わったときに、その部品の一か所に亀裂が入って割れる、いわゆる破壊するというイメージを持たれる方が大きいかもしれません。しかし、破壊する現象においては、大きな力が作用しなくても、比較的小さい力が作用した場合でも、繰り返しその力が作用すると、小さい亀裂が発生し、最終的に破壊に至る場合があります。この現象を疲労破壊と言います。

疲労破壊を予測するには、疲労破壊のメカニズムを理解しておく必要があります。疲労破壊が起きやすい場所としては、応力が発生している場所、特に応力が集中する箇所になります。材料試験のような簡単な形状で、簡単な負荷ではない限り、均一な応力分布という状況はなかなかなく、通常は、どこかに応力集中します。配管のつなぎ目や支持部などは、応力集中がしやすい箇所です。このような応力集中部に、繰り返し力が作用された場合、小さな亀裂が発生し、それが進展して破壊に至ります。また、構造上応力集中が発生しないような場所でも、材質の中に小さな欠陥があった場合、その欠陥の端部に応力集中部ができたりして、その欠陥が大きくなり破壊に至ることもあります。
疲労寿命としては、このような繰り返しの荷重が作用することで、小さい亀裂が発生し、その亀裂が成長していき、最終的に破壊に至るまでの、時間や繰り返しの回数を指します。

疲労破壊の大きな要因である、応力集中部を予測するには、有限要素法による解析が便利です。有限要素法による応力・ひずみを解析することで、応力集中部を予測することができます。これを使って疲労破壊の予測をすることができます。次の図は、ある荷重がかかった場合の応力分布を示していますが、荷重がかかる前の状態から、この応力になる状態になり、その後除荷されて荷重のかかる前の状態に戻る一連の過程を1サイクルとして考えて、疲労寿命の予測を行います。

応力解析の例:応力分布図

応力解析の例:応力分布図

この応力分布を元に、疲労寿命の評価を行う際には、応力と疲労寿命を結びつけるデータが必要となります。それがSN線図(疲労寿命曲線)です。SN線図は、ある一定応力を繰り返し作用した場合に、それが何回でその材料が破壊するかという試験を、様々な応力の値で実施したデータを集めて近似した線図のことです。金属の場合、ある値以下の応力が繰り返し作用した場合、何回繰り返しても破壊しないような材料があり、その下限の応力値は、疲労限と言われます。このSN線図、疲労限は材料によって異なりますし、同じ材料でも使用する環境によっても変わります。

SN線図(疲労寿命曲線)のイメージ

SN線図(疲労寿命曲線)のイメージ

有限要素法の解析で、1サイクルで発生する応力が計算できるので、このSN線図を用いれば、その応力が繰り返し発生する場合は、何回で壊れるかを判断することができます。

疲労寿命予測は構造物や部品の信頼性を保証する上で重要なプロセスです。原発の耐用年数などの話はニュースで聞かれたことがあるかもしれませんが、この耐用年数の算出などにも使われています。疲労寿命予測では計算された応力を元に評価しますが、その際に考慮すべき重要な要素は次の通りです。

・材料の種類

材料の種類によって、同じ荷重、同じ環境での使用でも、疲労寿命は異なります。例えば、銅とアルミでは、一般的にアルミの方が疲労寿命が長いと言われています。アルミは、銅よりも延性が高く、疲労亀裂の発生し進展したときに、進展のしやすさが変わってくる場合が多いです。金属だけではなく、樹脂や繊維強化複合材(FRP)なども同様に疲労評価されます。ただし、複合材は繊維の入り方などによって評価を分ける必要があり、複雑ですので、これについては、別の機会に紹介したいと思います。

・応力レベル

応力レベル(平均応力)が高ければ高いほど、疲労寿命は短くなります。例えば、無負荷な状態から、引張状態に推移することが繰り返されるような場合にくらべ、圧縮状態から、引張状態へ繰り返すような場合、同じ応力振幅のでも、疲労寿命は長くなります。

・応力振幅

応力振幅が高ければ高いほど、疲労寿命は短くなります。ただし、鋼などは、ある一定の応力振幅以下では、疲労破壊しない特性があると言われています。その応力振幅の値を疲労限と言います。

・環境条件

製品が使用される場所、温度などの環境条件によって、疲労寿命が大きく変わる場合があります。例えば、腐食性の高い環境では、疲労寿命が低下します。

・表面状態

製品の表面が研磨されている状態と粗いままの状態では、疲労寿命が大きく変わる可能性があります。粗い表面の場合、その不連続面から疲労亀裂が発生し、疲労寿命を大きく低下させる場合があります。

・製造欠陥

製品の製造時に欠陥ができてしまった場合、そこから破壊が進展するなどして疲労寿命が大きく低下する場合があります。

製品にとって疲労破壊は、重要な問題となります。この破壊を予測し、予防することでより安全な製品を開発することができます。ここでは、有限要素法により、応力を予測しSN線図を用いることで疲労寿命を予測する方法を紹介しました。疲労評価は、製品の設計段階において、寿命を予測するということだけではなく、すでに稼働している現場においても、稼働している状態を解析することで、どれぐらいの寿命があるか、を予測し、そこからあとどれぐらいもつかを予測することによって、部品の交換時期などを予測することにつなげられます。

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