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コラム:マテリアルデザイン

積層造形プロセスを評価 ~熱力学計算ソフトThermo-Calc新規モジュールの紹介~

材料・CAEビジネス推進部 技術第1課 山﨑 敏広

[2023/09/28]

概要

積層造形(AM: Additive Manufacturing)法は、鋳造や鍛造といった既存の加工プロセスでは困難な複雑形状なモノを製造可能ということや、金型を作る必要がなく、特に少量多品種生産やオーダメイド部品においては、製品の品質向上や、コスト削減、高効率化が期待できます。

本記事では、「造形プロセス」に注目したAMモジュールの活用例を紹介します。造形プロセスにおけるレーザスポット周りの溶融池(メルトプール)の形状や深さ、溶融状況、温度分布を評価することができます。以前の技術コラムにて、金属積層造形向け生体用チタン合金の設計例を紹介しました。対象とする合金元素の組成範囲の中で、平衡計算で得られる材料物性・材料特性からデザインした事例です。造形可能であることを大前提として、軽さやコストについても考慮し、「造形性」「密度」「コスト」を両立する材料設計の実現可能性について示しました。今回紹介するAMモジュールでは、レーザ出力や走査速度、ハッチ間隔などの造形パラメータに対する溶融池形状および形状安定性などの評価も可能となります。実験を繰り返すことなく最適な造形パラメータなどの探索にも活用いただけます。

AMモジュールについて

AMモジュールは熱力学計算ソフトThermo-Calcより新しくリリースされたアドオンモジュールです。主にレーザ粉末床溶融結合法(LBPF)を対象とし、積層造形プロセスにおける温度分布や溶融池形状を予測します。熱力学データ、材料特性、プロセス条件などのパラメータを統合的に扱い、熱源の移動を伴う金属粉末の溶融・凝固に関わるマルチフィジックス問題を解きます。マルチフィジックスの計算には、熱伝導、流体流れ、蒸発損失、放射損失、対流熱損失が含まれます。さらに、得られた温度分布を、拡散モジュール(DICTRA)や析出モジュール(TC-PRISMA)と連携して、入力パラメータとして使用することも可能です。

Ti-6Al-4Vに対して各計算モードで得られる結果

AMモジュールには、3つの計算モード:"Steady-State"、"Transient"、"Transient with heat-source from Steady-State"が用意されています。

定常状態(Steady-State)モードでは、熱源周りの温度分布や流体の流れが定常状態にあり、時間とともに変化しないと仮定します。シングルトラックにおけるメルトプール形状やメルトプール近傍の冷却速度の予測に適用可能です。定常状態の計算モードにて、レーザ出力:100W、吸収率:40%、ビーム径:100μm、スキャン速度:600mm/s、粉体層:55μmと造形パラメータを設定し、計算を行った結果をFig.1に示します。Fig.1左図では3Dプロットで等高線で温度分布と、矢印で流体の流れを示します。等高線の間の領域がマッシー(かゆ状)ゾーンとなります。また、グラフの機能として、溶融池の大きさとマッシーゾーンを自動的に測定することもできます。右図では、設定距離の線上に沿って温度がどのように変化するかを示します。温度以外に、粘度や流れなどを出力可能です。

Fig.1 定常状態モードでの計算結果, 左図:温度・流体流れの3Dプロット, 右図:設定距離の線上における温度分布

Fig.1 定常状態モードでの計算結果,
左図:温度・流体流れの3Dプロット,
右図:設定距離の線上における温度分布

過渡現象(Transient/Transient with heat-source from Steady-State)モードでは、複数トラック/レイヤーの造形パターンを指定し、3Dの造形体で過渡シミュレーションを実施します。"Transient"と"Transient with heat-source from Steady-State"の違いについて、流れを計算するナビエストークス方程式を各時間ステップで解く前者の過渡現象モードに対して、後者では効率よく計算を行うために、溶融プール内の温度分布・流体流れが早くに定常状態に達すると仮定し、定常状態で得られる熱源を使用します。後者の計算モードで、ハッチ間隔:0.14mm、造形レイヤー数2、走査パターン:層ごとに熱源の走査方向を90°回転などの設定を行い、計算を行います。Fig.2左図は3Dプロットで造形途中の温度分布と流体の流れを示します。右図では、ある時間において、指定した線上(P1とP2の違いは1レイヤー分の深さ)における温度分布を示します。造形過程における選択位置の温度-時間変化を評価することができます。

Fig.2. 過渡モードでの計算結果, 左図:ある時刻における温度・流体流れの3Dプロット, 右図:ある時刻における設定距離の線上における温度分布

Fig.2 過渡モードでの計算結果,
左図:ある時刻における温度・流体流れの3Dプロット,
右図:ある時刻における設定距離の線上における温度分布

積層造形プロセスに対し、AMモジュールの活用事例を紹介させていただきました。造形パラメータに応じて計算を行い、溶融池の溶融状況や任意の場所における温度分布の評価が可能なため、時間/コストを要する造形を繰り返すことなく、最適な造形パラメータ・合金組成条件を得ることができます。導入検討の際には試計算等々、導入後もサポートを行い、客様の材料開発にお役に立てるように取組んでいます。

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