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コラム:製造・構造

異種材料接合に向けたシミュレーション技術への取り組み

科学システム本部 科学エンジニアリング第2部 秋田 麗佳
JSAE 車両開発/数値解析 プロフェッショナルエンジニア

科学システム本部 科学ビジネス企画推進部 早川 尊行
CTC シニアスペシャリスト

[2023/06/29]

カーボンニュートラルの実現を目指して、自動車産業では様々な取り組みがなされています。「軽量化」への取り組みが急速に進んでおり、車体のマルチマテリアル化による軽量化技術が実用化されています。マルチマテリアル接合によるアプローチは、クルマ脱炭素へのカギとなっており、その技術について見聞きすることも増えてきました。

マルチマテリアルの接合方法は多岐にわたりますが、構造の強度を確保するための高強度な接合が求められる一方で、生産性・コストといった制約が存在します。そういった制約の中、接合強度を損なわないための工夫の一つとして、メカニカルクリンチングと接着剤の併用、いわゆるハイブリッド接合技術があります。この記事では、高張力鋼板とアルミニウム合金板におけるクリンチングと接着剤の接合強度予測の数値解析手法ついてご紹介いたします。

さて、接着剤を使用した接合に関する特有の知識についてお話しいたします。図1は接着接合物のイメージ図です。外力が加わると、接着剤の内部、被着材自体、接着剤と被着材の接合界面のいずれかで破壊が生じることがあります。これはそれぞれ凝集破壊、基材破壊、および界面破壊と呼ばれています。

図1 接着剤接合の破壊形態

図1 接着剤接合の破壊形態

また、接着接合物の破壊強度は接着強さと呼ばれ、試験方法はJISによって規格化されています。JISで定められている接着強さ試験方法の中でも、代表的なものを図2に示しています。基本的には通常の材料試験方法と類似しており、試験片として接着接合物を使用し、接着層に変形を与えて破壊するという手順です。

図2 JISで規定されている接着強さ試験方法のイメージ図

図2 JISで規定されている接着強さ試験方法のイメージ図

接着剤のモデル化について、図3では数値シミュレーション分野でのモデル化の手法をまとめています。

図3 接着剤層のモデル化

図3 接着剤層のモデル化

仮想バネモデルの手法は、接着剤のメッシュを作成する必要がなく、接着の結合を容易にモデル化できます。ただし、接着剤の材料特性と破断の指定が簡略化されているため、他の手法に比べて解析結果の精度が劣るという欠点があります。

接着要素モデルの手法は、接着剤を接着要素として扱い、エネルギー解放率に基づいた破断特性を設定することができます。この手法では仮想バネモデルよりも高い精度で挙動を再現できます。ただし、詳細な挙動の再現は連続体モデルに比べて劣るというデメリットがあります。

連続体モデルの手法は、接着剤を弾塑性の樹脂として扱い、詳細な弾塑性材料特性の設定ができます。この手法では高精度で挙動を再現することができます。ただし、接着剤の材料特性値の取得は容易ではありません。また、局所的に精細なモデル化が必要となり、トータルとしての計算コストが高くつきやすい点にも注意が必要です。

各手法には利点と欠点がありますので、具体的な解析目的や要件に応じて最適な手法を選択する必要があります。

さて、数値解析に携わる技術者にとって、何が一番大事なのかを我々は常に考えています。我々の世界には、「理論に裏付けられた経験・勘と決断」[5] という言葉があります。私たちCTCの技術者は、接着技術を基礎から学び、学会活動への参加や業界トップレベル研究者との連携などを通じて、皆様のお役に立てる活動を目指しております。

このような取組みの一例として、図3のCZモデルを利用した「高張力鋼板とアルミニウム合金板の接着・クリンチング接合継手の強度解析」をご紹介いたします。

高張力鋼板とアルミ合金板に、接着・クリンチをした場合の接合強度について、引張試験による試験片での測定を行いました。接合継手の強度解析には、汎用解析ソフトであるANSYS LS-DYNAに実装された *MAT_COHESIVE_GENERAL(*MAT_186) を使用しました。このモデルを用いて、接着・クリンチング接合継手の挙動を詳細に解析しました。

図4では、試験片の断面形状やクリンチング部の形状などが示されています。また、接着強さ試験値に基づく同定された接着破壊パラメータも示しています。これらのパラメータを数値解析モデルに反映させ、接合継手の強度を予測しました。

図5では、数値解析結果と試験値の比較が行われています。この解析によって、同定された接着剤材料モデルを使用して、試験値と一致するシミュレーション結果が得られましたことが確認されています。

本事例の詳細につきましては、文末の参考資料に記載された技術論文を是非ご参考ください。

図4 接着・クリンチング接合継手強度解析の試験片と同定パラメータ

図4 接着・クリンチング接合継手強度解析の試験片と同定パラメータ

図5 数値解析結果と試験値の比較

図5 数値解析結果と試験値の比較

弊社は、LS-DYNAの販売・保守に留まらず、シミュレーションモデルに必要な材料モデルの構築やパラメータ同定などのトータルサービスを提供しております。具体的には、材料試験方法の提案や試験委託業者の紹介・見積もり、さらには各種材料試験データに基づくLS-DYNAの材料モデル作成など、幅広い委託業務をお引き受けしています。お客様のニーズに合わせて最適な解析ソリューションを提供することを目指しています。

私たちは、お客様の現状や課題を詳しくヒアリングし、適切な試験方法や解析手法のプランを提案することを重視しています。ご要望やお悩みがございましたら、ぜひ科学システム本部までお気軽にお問い合わせください。私たちのチームが迅速かつ丁寧に対応させていただきます。

参考資料

[1] 秋田 麗佳,麻 寧緒,安部 洋平:
高張力鋼板とアルミニウム合金板の接着・クリンチング接合継手の強度評価
日本溶接協会誌,溶接技術,Vol.70,9号 (2022)

[2] 秋田 麗佳, Yunwu Ma, Peihao Geng, 堤 成一郎,麻 寧緒,安部 洋平,森 謙一郎:
高張力鋼板とアルミニウム合金板の接着・多点クリンチング接合継手の強度評価
自動車技術会2022年春季大会,学術講演会予稿集,講演番号118 (2022)

[3] Yunwu Ma, Yohei Abe, Peihao Geng, Reika Akita, Ninshu Ma, Ken-Ichiro Mori:
Adhesive dynamic behavior in the clinch-bonding process of aluminum alloy A5052-H34 and advanced high-strength steel JSC780
Journal of Materials Processing Technology, Volume 305, 117602 (2022)

[4] 秋田 麗佳, Yunwu Ma,安部 洋平,堤 成一郎,麻 寧緒,森 謙一郎:
高張力鋼板とアルミニウム合金板の接着・クリンチング接合強度の予測
自動車技術会2021年秋季大会,学術講演会予稿集,講演番号244 (2021)

[5] 吉田 豊 著,岡田 浩 編集,NPO法人CAE懇話会解析塾テキスト編集グループ 監修:<解析塾秘伝>実測との比較で学ぶ!CAEの正しい使い方 機械工学の実験で検証するCAEの設計・評価テクニック

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