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コラム:製造・構造

LS-DYNAの現在地

科学ビジネス企画推進部 プロダクトサービス第1課 早川 尊行

[2022/12/28]

LS-DYNAは、主に衝突・衝撃解析の分野で活用が進められてきました。また、以前ご紹介したように(https://www.engineering-eye.com/rpt/column/2020/1125_structural.html)マルチフィジックスソルバーとして発展を遂げ、非常に幅広い分野に活用が広がってきています。今回はそういった辺りを含めて、LS-DYNAの現在地について述べたいと思います。(Ansys社の紹介資料を基にしています)

まず、LS-DYNAは「1つのコードでマルチフィジックスのシミュレーションに対応する」(One-code for multi-physics simulation[1])のが特徴となっています。図1にある通り、陽解法・陰解法の構造解析を中核として、電磁場、流体、伝熱、メッシュレス&先進的CAE、粒子法、周波数領域(振動)の解析機能を連成させることで、複雑な問題への対応を可能にしています。また、ユーザー向けに提供されている周辺ツールは無償で利用が可能で、活用の幅を押し広げてくれます。(図中のLS-PrePost, LS-OPT, LS-TaSC, LST Models)

図1 LS-DYNAと周辺ツール(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

図1 LS-DYNAと周辺ツール
(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

LS-DYNAの大きなメリットの1つは、ここでソルバー間の通信にあまり気を使わなくていいところです。例えば、図2に示したようなやり取りがLS-DYNAの中だけで完結しますので、ソルバー間の通信用インターフェースを用意したりする必要がありません。

図2 LS-DYNA連成でやり取りされる物理量の例 (出典:“LS-DYNA_Automotive_Overview”より抜粋しCTCにて日本語化)

図2 LS-DYNA連成でやり取りされる物理量の例
(出典:“LS-DYNA_Automotive_Overview”より抜粋しCTCにて日本語化)

次はそれがどのような分野で利用されているかを確認したいと思います。まず自動車、航空宇宙産業での活用が代表例と言えるでしょう。(図3,4)モビリティの分野は「安全」が最重要のキーワードとなっています。LS-DYNAは身の回りの安全に大きく貢献しています。

図3 自動車衝突の解析例(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

図3 自動車衝突の解析例
(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

図4 航空宇宙産業での解析例(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

図4 航空宇宙産業での解析例
(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

安全という意味では、防災・減災にも深く関わる土木建築分野でも活用が広がってきています。単純な構造解析はもちろんのこと、例えば、図5に示す落石防護ネットもLS-DYNAの重要な適用例となってきています。ワイヤー(ビーム要素)同士の接触も扱えることから、簡易的にシェルで行っていた解析から、実製品の具体的な形状を考慮したモデル化も可能です。また、粒子法の一種であるDEMを利用することで、土砂の堆積を模擬するようなことも可能になっています。実際にはここでモデル化した以外にも、ある種の減速機構を組み込んだり、柱や土壌の影響を考慮したり、といったことが必要になってきます。ここでは示しませんが、砂防ダムなども重要な適用例となってきています。

図5 落石防護ネットの解析例(CTCにて作成した解析例)

図5 落石防護ネットの解析例
(CTCにて作成した解析例)

出来上がった製品の解析以外にも、製造工程そのものを解析の対象とする場合も多々あります。CFRP製品などは最終的に狙った性能をしっかりと発揮させるためにも、製造工程から様々な注意が必要になってきます。解析のテーマとしても重要な分野と言えるでしょう。また、LS-DYNAはメタルフォーミングの分野でも広く利用されています。メタルフォーミングの解析では、サードパーティ製のプリポストを介して利用することが多いようです。SPGなどを使って、切削のような解析を行うこともあります。

図6 各種製造工程での解析例(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

図6 各種製造工程での解析例
(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

少し意外かもしれませんが、図7に示すようなバイオサイエンス、医療分野にも適用が広がっています。構造解析だけでなく、ICFDを用いた流体構造連成での血液ポンプ(https://www.dynaexamples.com/icfd/advanced-examples/bloodpump)や心臓弁(https://www.dynaexamples.com/icfd/advanced-examples/heartvalve)の解析例であったり、EMを用いた心臓の不整脈時の電位の伝播を示したり(https://www.dynaexamples.com/em/epintro)と、一昔前では想像もつかなかったようなところにまで活用が広がっています。これは、マルチフィジックスソルバーとしての機能に加え、膨大な種類の材料モデルを実装していることで可能になっています。

図7 バイオサイエンス、医療分野の解析例(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

図7 バイオサイエンス、医療分野の解析例
(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

昨今、ニュースでも話題に上ることの多い防衛分野でも広く活用されています。(図8、9)個人的な思いですが、平和維持のために寄与してくれることを願って止みません。先にご紹介した防災・減災にも関わる分野として、コンクリートへの飛翔体の衝突解析のようなものもあります。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsceje/63/1/63_1_178/_pdf)近年では、火山噴火による噴石の衝突への対応策の一環としても研究が進められているようです。こういった分野でも、人命を守るという意味で、解析技術は非常に重要な役割を担っていると言えるかもしれません。

図8、9 防衛分野での解析例(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)
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図8、9 防衛分野での解析例
(出典:[1]”General Introduction to LS-DYNA”より抜粋)

適用分野自体は、構造解析が関わるところであれば、そのほとんどに出番があるというのがLS-DYNAの特徴と言えるかもしれません。図10はそれを示したものです。様々な先進的解析技術、豊富な材料モデル、マルチフィジックスソルバーとしての特性、そういった辺りがこの幅広い適用分野を実現しています。

図10 LS-DYNAの適用分野(出典:“LS-DYNA_Automotive_Overview”より抜粋しCTCにて日本語化)

図10 LS-DYNAの適用分野
(出典:“LS-DYNA_Automotive_Overview”より抜粋しCTCにて日本語化)

速度域という観点でも少しだけ触れておきたいと思います。「LS-DYNAといえば衝突問題」というイメージが強いですが、自動車等の衝突や製品の落下試験のような速度域は、CAEの世界では“低速度域”とされます。爆発であったり、さらにはスペースデブリのような超高速衝突の速度域までがLS-DYNAの守備範囲であることは想像しやすいかもしれません。一方で、静的な問題、年単位でひずみの大きくなるクリープ現象など、そういった領域にも陰解法を用いることで対応が可能です。(図11)

図11 LS-DYNAのカバーする速度域とソルバーの使い分け(出典:[3]“Ansys LS-DYNA が実現する_「より効率よく簡単に行うLS-DYNA 解析」とは?”(陽解法と陰解法の使い道)より抜粋)

図11 LS-DYNAのカバーする速度域とソルバーの使い分け
(出典:[3]“Ansys LS-DYNA が実現する_「より効率よく簡単に行うLS-DYNA 解析」とは?”
(陽解法と陰解法の使い道)より抜粋)

今回は詳しく紹介していませんが、化学的反応(燃焼)を伴う圧縮性流体と構造の連成解析なども扱えることから、ガス関連施設のシビアアクシデントの解析を行ったりすることも視野に入ります。振動に関わる機能の一環として、サウンドに着目した解析例も増えてきているようです。

以上のように、LS-DYNAの活用分野は多岐にわたっています。複雑な接触問題を扱えること、豊富な材料モデルを実装していること、マルチフィジックスソルバーであること、様々な先進的解析技術が実装されていること、などがそれを支えています。1つ1つの機能が追加されたその時は、どこを目指しているかわかりにくいこともありましたが、今日ではこのようにそれらの実装の意図が目に見える形で表れてきました。元々、各機能はユーザーの要望を反映して実装されてきたものですから、当然の帰結だったのかもしれません。

大手のCAEソフトウェアベンダー各社がそれぞれの観点で総合的なソリューションを提供する体制を整えてきていますが、LS-DYNAは単独でそれに近しい道を切り開いています。今後も我々の解析能力の向上、解析対象の拡大に寄与し続けてくれることでしょう。あえて課題をあげるなら、設計者CAEやAIの活用といった、設計者と解析者との垣根を取り払うソリューション、あるいはワークフロー全体・経営という観点まで含めたDXといったことが、本格的に取り組むべき問題であると認識されていくことでしょう。

どう価値を創造していくのか。CTCとしても、本腰を入れて取り組みたい課題です。

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参考文献(図の引用元として)

[1]Ansys, “General Introduction to LS-DYNA”, 2020
[2]Ansys, “LS-DYNA_Automotive_Overview”, 2020
[3]Ansys, “Ansys LS-DYNA が実現する_「より効率よく簡単に行うLS-DYNA 解析」とは?”, 2020