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コラム:製造・構造

次世代モノづくりに向けて新たな取り組みについて
~3DAモデルとDTPD~

科学システム本部 科学エンジニアリング第2部 秋田 麗佳
車両開発/数値解析 JSAEプロフェッショナルエンジニア

[2022/06/30]

1980年代に第三次産業革命(デジタル革命)が始まって以降、社会は常にデジタル化を続け、新たに生まれたモノづくり産業に対応してきました。企業の規模や業種業界に問わらず、デジタル化は今後も社会の隅々まで浸透していくでしょう。

また、20年以上前から、新たな産業革命に向けた製造業のデジタル化を実現するいくつかのコンセプトが世界各国で提唱されてきました(表1)。

表1 製造業に関連した主な動き

表1 製造業に関連した主な動き

2011年にドイツ政府が打ち出したインダストリー4.0から10年以上が過ぎた今、世界のモノづくり産業はITを活かして高い生産性を実現しつつ、新しいビジネスモデルにつなげることに成功しました。一方最近では、インダストリー4.0からデジタルトランスフォーメーション(DX)に注目が移ってきています。Googleトレンドで調べてみると、世界的に「Industry 4.0」の検索量は2019年11月ごろをピークに、その後は緩やかな右肩下がりとなっている一方、「DX」の検索量は2014年ごろから増加を続けています(図1)。

図1 世界における5つのキーワードの検索量の推移

図1 世界における5つのキーワードの検索量の推移

DXは便利でキャッチーなキーワードですが、その目指す理想は抽象的なものです。こうしたキーワードに振り回されることなく、「我が社」のデジタル化における現状・課題・理想を明確にし、地に足のついた取組みを継続しつつ、10年先のデジタル技術活用を先取りした対応をしていくことが重要でしょう。

現在のモノづくり産業は、お客様のニーズに沿った製品を速やかに提供する為の開発期間短縮や現地生産への対応等、時には相反する課題を、デジタルエンジニアリング技術を活用して解決することが必須となります。また、次世代モノづくりのためのデジタル化は、ある産業界だけではなく様々な産業界、そして日本だけではなく国際的にも通用するために、国際標準に基づいた内容でなければなりません。

こうした流れの中で、経済産業省は長年にわたり、デジタル製品の技術文書についての工業規格JISB0060を制定してきました(表2)。さらに、一般社団法人日本自動車工業会(JAMA)や一般社団法人日本電子情報技術産業協会(JEITA)などの団体から、この規格に基づいたそれぞれの業界での対応ガイドラインも発行されました。これらはいずれも、モノづくりにおけるDXのあり方を、近い将来において目指す姿として具体化したものと言えるでしょう。

表2 日本工業規格 JISB0060の状況

表2 日本工業規格 JISB0060の状況

ここで、モノづくりにおけるDXで特に重要なキーワードである3DAモデルとDTPDについて簡単にご紹介します。

・3DAモデル(3D annotated model):三次元製品情報付加モデルのことです。
三次元CADを用いて作成された設計モデルに、製品特性(表示要求事項及び/又は非表示要求事項)、二次元図面(必要な場合にだけ構成する)、モデル管理情報を加えたモデルを指します。

・DTPD(digital technical product documentation):デジタル製品技術文書情報のことです。
図2に示すように、三次元製品情報付加モデル(3DA)を中核として、製品製造に関連する各工程の情報を連携させて得られる、デジタル形式で表現した製品に関係する情報の集合体を指します。

デジタル製品技術文書情報(DTPD)に含まれる情報には、三次元製品情報付加モデル(3DA)のほかに、モノづくりの各工程に特有の情報データがあります。例えば、DMU(デジタルモックアップ)データ、解析データ、試験データ、製造データ、品質データ、サービスデータが含まれています。さらに、これらのデータ群を管理する「DTPD管理情報」があります。

また、DTPDの中では製品のライフサイクルが考慮されています。JISB0060-9に定められていますが、製品の開発、製造、販売に活用するためには、製品ライフサイクルにおいて、時間とともに更新されるDTPDのデータを管理する仕組みが必要となります。

図2 デジタル製品技術文書情報(DTPD)の情報体系

図2 デジタル製品技術文書情報(DTPD)の情報体系

一方で、モノづくり産業の現状はどうでしょうか。例として、一般社団法人日本自動車工業会が、2003年から自動車工業の効率化を狙って普及を進めてきた、3D図面標準化の状況をご紹介します。
図3は自動車工業会が公開した2008年~2019年の3D図面普及の推移についての調査レポートです。全体的に、2D図主体から3D図主体への移行が停滞している傾向が現れています。2019年時点でも3D単独図+管理情報の割合はわずか4%にとどまる一方、3Dと2D図面のセットでの運用が6割近くを占め、3D図面標準化が遅れていることが窺われます。

図3 2019年度3D図面普及調査レポート

図3 2019年度3D図面普及調査レポート

CAD/CAM/CAEの普及に伴い、モノづくり産業の世界では各社が様々なデジタルデータをバラバラに持っている、あるいはJISB0060規格通りに作られていないケースが多いと思われます。今後DX技術を活用し、データベース化を進めていくことで、国内外における競争力の向上の実現が可能になってくると考えられます。中でも、次世代モノづくりに向けた新たな取り組みとして「3DAモデルとDTPD」の推進と適用がとりわけ重要になってくるでしょう。

CTCでは、ものづくり産業が直面している課題に対し様々なアプローチを取り入れ、加速するデジタル化技術における進歩を支援しています。デジタル化による生産情報の可視化に対する、当社のIT技術の貢献も評価されており、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティー、データ分析、人工知能、CAD/CAM/CAEなど新たな分野におけるイノベーションへの期待に応えられると自負しております。私たちはトータルでのIT技術を熟知した専門集団として、まずはお客様のデジタル化に関する現状・課題・理想を徹底的にヒアリングし、無駄のない最適なプランをご提案しております。「こんなシステムが欲しい」、「こういった機能はないのか」などご希望・ご要望がありましたら、まずは、科学システム本部にお気軽にお問い合わせください。専門エンジニアの“眼”で次世代モノづくりに向けた新たな取り組みをサポートしてまいります。

参考資料

・一般社団法人日本自動車工業会:https://www.jama.or.jp/

・一般社団法人電子情報技術産業協会:https://www.jeita.or.jp/

・日本産業標準調査会:https://www.jisc.go.jp/

お問い合わせ

材料・CAEビジネス推進部
t2-22@ctc-g.co.jp