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コラム:マテリアルデザイン

ナノスケールシミュレーションによる金属-樹脂界面の解析

材料工学技術部 材料技術第2課 齋藤 方大

[2020/10/29]

近年、異なる素材を適材適所で複合的に使用することで、構造物の機能を向上させる、マルチマテリアル化が注目されています。マルチマテリアル化においては、異なる材料の接合部がウィークポイントとなるため、異種材料接合技術の進歩が求められています。金属-樹脂の接合もその一種であり、軽量化を目的とした自動車ボディへのCFRPの適用や金属のプラスチックへの置換を進める上でのキー技術と言われています。金属-樹脂の接合においては、金属表面の酸化物-樹脂界面の微視的構造が強度に影響を及ぼしますが、界面の詳細な観察が困難なため、この影響についての理解は進んでいません。
一方、素材の微視的現象の解明には、しばしばナノシミュレーションの一種である分子動力学法(MD法)が利用されます。MD法の適用には原子間に働く力の計算に使用される力場パラメータが必要ですが、酸化物-樹脂間の相互作用を精度よく表現する力場パラメータが少ないため、異種材料接合技術へのMD法の適用が制限されています。したがって、本事例では、より精度の高い手法であるDFT計算で計算される物性値を、MD法で再現できるよう新たにMD法の力場パラメータを作成し、酸化物-樹脂界面の解析に適用しました。さらに、Exabyte.ioを用いて引張計算を実施し、酸化物表面の微視的状態が界面強度に与える影響を調査しました。

図1 MD用力場パラメータの作成例と引張計算の様子

図1 MD用力場パラメータの作成例と引張計算の様子

図1に、①「力場パラメータを作成し、DFT計算での物性値へのMD法での計算をフィッティングした例」、および、②「作成した力場を使用しMD法で引張剥離計算を実施した様子」を示します。図1に示すように、金属酸化物としてはα-Al2O3を採用しました。これは、代表的な軽金属材料であるAl合金の大気中表面を想定しています。また樹脂としては熱可塑性CFRPによく用いられるPA6(重合度n=10)を採用しました。

①の金属酸化物-樹脂間のポテンシャル作成では、樹脂分子と酸化物スラブの距離とエネルギーの関係が、DFT計算とMD法による計算で一致するようにMD力場パラメータを最適化することで実施しました。なお、DFT計算にはVASP を、MD法の計算にはLammpsを使用しました。MD法においては、界面に生じうる相互作用である、クーロン相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合および化学結合を模擬するために、ポテンシャル関数として、Coulombポテンシャル、Lennard-JonesポテンシャルおよびMorseポテンシャルのハイブリット関数を使用しました。

②の引張剥離計算では樹脂部分のひずみ速度が6.67✕109 sec-1になるように酸化物スラブに速度を与えること引張を模擬しました。また酸化物の表面の微視的状態として水酸基の有無を考慮し、図2に示すように酸化物表面に水酸基がない場合とある場合について計算を実施しました。なお、実際の構造物においては、大気の温度・湿度、製造プロセスによって水酸基の有無や量が変化することが知られています。

図2 引張計算から得られた系の応力ひずみ曲線

図2 引張計算から得られた系の応力ひずみ曲線

各モデルにおける、応力-ひずみ線図を図2に示します。引張計算において、破壊モードは、水酸基のないモデルでは樹脂の凝集破壊、水酸基があるモデルでは酸化物-樹脂界面の界面剥離となりました。したがって、水酸基の存在により、接着強度が低下することが分かります。
さらに、強度低下の要因を調べるために界面の電子状態や原子分布を調査した結果、水酸基がない場合は酸化物表面と樹脂末端官能基の間には共有結合性の強い相互作用が生じますが、水酸基がある場合にはこの相互作用が生じないため接着強度が低下することが分かりました。

また、弊社では本稿のようなナノシミュレーションの精度をさらに高め、得られた特性をマクロモデルの構造解析に利用する、マルチスケールソリューションの提供を目指しています。

※本稿の内容は、第45回複合材料学会シンポジウムにて発表(2020年9月25日)

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開催日時:
2020年11月10日(火)10:00~11:00
タイトル:
「分子動力学法による金属-樹脂間の異材接合界面強度解析の紹介」
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