コラム:製造・構造
アプリケーションサービス部 CAEサービス第1課 小田切 亮
[2020/03/18]
材料モデルの未知パラメータや摩擦係数の様な高精度の計測が困難なパラメータに関して、Isight の最適化機能を利用してパラメータ同定を行う事が可能です。多数のパラメータが存在する場合や相互作用を有するパラメータをあつかう場合は、Isight のような最適化ツールを使う事で効率的にかつ高精度に同定結果が得られるメリットがあります。
Isight=最適化ツールというイメージを持たれていると思いますが、「最適化」というキーワードから「パラメータ同定」というキーワードが連想できる方は少ないのではと思います。
パラメータ同定とは、解析モデル、材料モデル、統計モデルなどに含まれる未知のパラメータの値を事前にわかっているデータから導き出す作業を指します。このとき下の式の様に、試験や試供データ( yiexp.data )とモデル予測( yimodel )との残差を最小化する、と考えると目的関数(残差)を最小とする最適化問題を解くということになります。
シミュレーション・設計におけるパラメータには、材料モデル、拘束条件、境界条件などが考えられ、それら「材料モデルの未知パラメータの同定」やシミュレーションモデルの定義・精度向上のための「摩擦係数のような高精度の計測が困難なパラメータ値の同定」「マスーバネ系のパラメータ値の同定」「伝熱解析における熱伝達係数値の同定」など、シミュレーションや設計の過程のいたるところでパラメータ同定が実施されています。
パラメータ同定をIsightで実施するメリットは、最適化問題の中にも解きやすい・解きにくい、成果が出やすい・出にくいなど様々な問題がありますが、パラメータ同定は設定が比較的簡単で成果が出やすい問題であるという点が挙げられます。
また、多数のパラメータが存在する場合や応答値が多数ある場合の一般化が可能であり、相互作用を有する複数のパラメータをあつかう場合は、知見の有るエンジニアが手作業で行っても非常に難しい問題を短い時間で高い精度でかつ一般性のあるかたちで同定結果が得られる点が挙げられます。
具体的な例としてIsightを使用して粘弾性材料の非線形モデルPRF(Parallel Rheological Frame:Abaqus 6.12 より導入)のパラメータ同定の例をご紹介します。
ここでは、1つの弾性ネットワークと3つの指数系ひずみ硬化粘弾性ネットワークから構成されるものとします。指数系ひずみ硬化粘弾性ネットワークは4つ、弾性ネットワークでは1つの未定パラメータを持つため13個のパラメータが最適化対象となります。
試験データとしては、ひずみが 10%、50%、100% の3つの引張試験を実施し、そこから応力緩和データを取得します。
Isightでのワークフローは①最適化を実施するコンポーネント、②Abaqusを実行し結果値をピックアップするコンポーネント、③Abaqus と 実験値の結果である曲線間の差異を計量するコンポーネントの3つコンポーネントから構成されます。
①:Optimization コンポーネント あるいは Exploration コンポーネント
②:Abaqus コンポーネント
③:Data Matching コンポーネント
初期値での計算では、ひずみ10% ではずれは少ないですが、50%、100% となるとその差は開いてしまいます。
最適化計算を200回ほど実施した結果を確認すると100% ひずみでは多少ずれがあるものの、50%、10% のひずみでは良い一致が見られています。
このように Isight でのワークフロー構築が必要ではありますが、200回ほどの計算で13個ものパラメータの同定が行えることは十分な成果であると言えます。しかも、計算中人間は他の作業に従事できるというメリットもあります。
是非みなさまの日頃の業務に取り入れ、業務効率化にお役立てください。
この技術コラムは、ダッソー・システムズ DSx.CLIENT CARE & ORDER / Knowledge Base QA00000024054 の記事、ならびにダッソー・システムズ 公式ブログ( https://blogs.3ds.com/japan/ )内の情報をもとに書かれています。