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コラム:プラント

高圧ガス設備等耐震設計基準の改正<配管系>

アプリケーションサービス部 CAEサポート第1課 本橋 賀津彦

[2019/10/25]

1981年に高圧ガス設備等耐震設計基準(告示第515号)が制定され、高圧ガス設備における塔槽類および架構に対する耐震設計が規定されました。
1995年に発生した阪神・淡路大震災において、プラント設備の構造物においても甚大な被害が発生し、耐震設計の見直しが行われ、1997年に告示第143号において基準の一部の改正が行われました。この改正告示において、今まで耐震設計の対象になっていなかった配管系が評価対象に追加されています。また、この改正において耐震設計地震動がレベル1地震動とレベル2地震動の2段階評価になっています。レベル1地震動は供用期間中に発生すると想定される従来規模の地震動で、レベル2地震動は供用期間中の発生確率は低いものの直下型地震や海溝型の巨大地震を想定した地震動です。レベル1地震動に対しては弾性設計(降伏点以下)が要求されるのに対し、レベル2地震動(レベル1地震動の加速度の2倍)では、内容物の漏洩は認められないが構造物の塑性変形は認めた終局強度設計による評価となります。なお、配管においては、ベンド(エルボ)の塑性の影響を、たわみ係数に反映された簡易的な解析手法が導入されています。また、レベル2地震動では、埋め立て地等における液状化による地盤の沈下や側方流動(地盤変状)に対する評価が規定されています。(AutoPIPEは、この改正告示に対応しています)
その後、十勝沖地震(2003年)や東日本大震災(2011年)によりプラント設備も被害を受け、その都度、告示の改正(告示第236号、第250号)が行われてきました。(配管の評価に係る改正はなし)

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将来、首都直下型地震や南海トラフ地震の発生が想定されていますが、今までの地震では経験しなかったような甚大な被害が発生することが考えられます。これに対応すべく、2018年11月に従来の「高圧ガス設備等耐震設計基準」が廃止され、新たに「高圧ガス設備等の耐震性能を定める告示(告示第220号)」が制定されました(施行は2019年9月)。従来は、地震によって被害が発生した後に告示の改正が行われていましたが、今回の改正では、今後発生する地震に備え、事前に告示の改正が行われたことになります。新告示における大きな改正点は、「性能規定化」と「サイトスペシフィック地震動の導入」になります。以下は、耐震告示の新旧の構成を比較したものです。旧告示は17条から構成されていましたが、新告示では要求される性能のみが規定され、解析法・応力算定方法・評価方法等を具体的に記載した第3条から第17条までが削除されています。

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直下型地震や海溝型の地震では、地域によって想定される地震の規模、特性、被害等が異なり、画一的な手法による評価ではなく、地域ごとに想定される地震動(サイトスペシフィック地震動)に応じた設計が必要となります。また、地震動や耐震設計等における最新の知見に柔軟に対応できるように、耐震性能のみを規定した法体系に改正されています。
削除された旧告示の第3条から第17条の内容は、高圧ガス保安協会で新たに発行されたKHK規格の「高圧ガス設備等の耐震設計に関する基準(レベル1:KHKS 0861(2018)、レベル2:KHKS 0862(2018))」に例示基準として規定され、従来の計算式や評価式は当面そのまま適用することができます。また、最新の知見や耐震設計手法等は、今後発行される技術文書(KHKTD:Technical Documents)に反映されることになります。

球形タンク等の大型の設備において、従来の設計手法では耐震性能を満たさなかった場合であっても、地盤・機器の連成解析を行ったり、最新の知見を積極的に取り入れて、より詳細な解析を行うことで、要求を満たす評価結果が得られる場合もあり、設備の工事等に係るコストを大幅に削減できる可能性があります。
一方、配管系は設備内に多数あり、効率的に解析・評価を行うことが必要で、個々の配管ごとに解析手法や条件を検討して解析や評価を実施ことは現実的ではありません。このため、配管系については、当面は従来手法の例示基準を適用した設計が中心になります。

配管応力解析システムAutoPIPEのご紹介ページはこちら

http://www.engineering-eye.com/APIPE/

過去のテクニカルレポート「高圧ガス設備等における配管系の耐震設計と解析」

http://www.engineering-eye.com/rpt/c001_gas/