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事例紹介

Exabyte.io

半導体、カーボンナノチューブ(CNT)

分子動力学法を用いたカーボンナノチューブの熱伝導率計算

カーボンナノチューブ(CNT)は曲げや引張に対する耐性が高く、ナノスケールにおいて非常に安定した構造を持っています。また電気伝導性や熱伝導性に優れていることから、次世代の半導体デバイスの素材として期待されています。ここでは、分子動力学法(MD)を用いてCNTの熱伝導率を計算した事例を紹介します。全ての計算にはMD計算コードLAMMPSを用いています。

1.計算モデル

ここでは、CNTの熱伝導率に対するチューブ長依存性、および炭素欠陥濃度依存性を解析しました。計算に用いたCNTの計算モデルの詳細を表1に示します。また、図1にはチューブ長が50nmの場合の計算モデルを示します。

表1 CNT計算モデル条件

項目 内容
層数 単層
カイラリティ (10,10)
チューブ長 50nm、100nm、200nm、400nm
炭素欠陥密度 欠陥無し、0.1%、0.5%
(a)炭素欠陥無し (a)炭素欠陥無し
(b)炭素欠陥0.1% (b)炭素欠陥0.1%
(c)炭素欠陥0.5% (c)炭素欠陥0.5%

図1 チューブ長50nmの(10,10)CNTの計算モデル
赤く示した原子は欠陥周囲の炭素原子を示している

2.分子動力学法を用いた熱伝導率計算

熱伝導率の計算手法として、非平衡分子動力学法(NEMD)[1] を用いました。NEMD法を用いた熱伝導率計算では、図2に示すように、計算モデル中に高温領域(Hot bath)と低温領域(Cold bath)を設定して、MDシミュレーションにおいて温度勾配を発生させます。温度勾配が分かれば、次式のフーリエの法則を用いて熱伝導率を評価することができます。ここではチューブ軸方向をz方向としています。

上式の各項の説明は以下の通りです。

κ0  :熱伝導率
q  :CNT断面を通過する熱量(LAMMPS入力で設定)
S  :CNT断面積
   (カイラリティ(10,10)の場合はCNT直径が1.0nmとして計算)

 :シミュレーション結果より得られる温度勾配(図3参照)

図2 NEMD法のための計算モデルの設定方法。Fixed領域の原子はシミュレーション中に固定 図2 NEMD法のための計算モデルの設定方法。
Fixed領域の原子はシミュレーション中に固定

3.計算条件詳細

熱伝導率計算は(1)温度一定MD(300K)で熱平衡化、(2)温度勾配条件下での平衡化、(3)熱伝導率の評価、の3ステップで行いました。計算条件の詳細を表2に示します。

表2 MD計算条件

項目 説明
使用原子間ポテンシャル AIREBOポテンシャル [2]
(1) 温度一定MD条件 アンサンブル:NVT
制御温度:300K (Nosé-Hoover)
計算時間:0.2ns
(2) NEMD平衡計算 アンサンブル:NVE
熱浴に加える熱量:1.0eV/ps
計算時間:3.5ns
(3) 熱伝導率評価 計算時間:1.5ns

4.計算結果

図3にチューブ長が50nm(炭素欠陥無し)のモデルにおけるチューブ軸方向の温度プロファイルを示します。温度変化がほぼ直線となる区間(図の赤点線部)から温度勾配を評価しました。他のチューブ長のモデルに対しても同様に温度勾配を評価し、熱伝導率のチューブ長依存性を評価した結果を図4に示します。他の研究結果によるとチューブ長が長くなるにつれて熱伝導率が一定値に近づくことが知られており [3]、その傾向が表れていることが確認できます。

図3 チューブ長50nmのモデルにおける温度プロファイル 図3 チューブ長50nmのモデルにおける温度プロファイル
図4 CNTの熱伝導率におけるチューブ長依存性 図4 CNTの熱伝導率におけるチューブ長依存性

また、図5に熱伝導率の炭素欠陥濃度依存性を示します。炭素欠陥の存在により熱伝導率が低下し、0,5%程度の欠陥濃度で熱伝導率が半減することが分かりました。

図5 CNTの熱伝導率における炭素欠陥濃度依存性 図5 CNTの熱伝導率における炭素欠陥濃度依存性

5.CNTの熱伝導率計算のワークフローについて

LAMMPSを用いたCNTの熱伝導率計算のワークフロー(図6)と詳細情報(表3)を示します。

図6 CNTの熱伝導率計算のワークフロー 図6 CNTの熱伝導率計算のワークフロー

表3 CNTの熱伝導率計算のワークフロー情報

項目 説明
ワークフロー名 CNT_thermal_conductivity (lammps)
フロー内容
 make_CNT
 run_lammps
 make_output

CNTモデル作成のフロー
LAMMPS計算のフロー
結果解析フロー
主な出力ファイル
 temperature_profile.csv
 temperature_profile.png
 thermal_conductivity.ou

温度プロファイルのCSV出力
温度プロファイルのグラフ
熱伝導率結果

CNTモデル条件(カイラリティ、チューブ長、炭素欠陥密度、温度条件)はmake_CNTフロー中のmk_scriptフローの入力画面のinput paramtersで設定できます(図7)。

図7 CNTモデル条件の設定 図7 CNTモデル条件の設定

CNTの熱伝導率計算のワークフローはBankから「CNT_thermal_conductiity (lammps)」を取得してご利用ください。

6.計算時間とコスト

最後に本計算の実施にかかった計算時間とコスト表4に示します。

表4 CNTの熱伝導率計算の計算時間とコスト(セービングノードを使用)

CNTモデル 計算時間 [時間] 金額 [ドル]
50nm炭素欠陥なし 6.4 5.7
50nm炭素欠陥0.1% 6.4 5.6
50nm炭素欠陥0.5% 6.4 5.5
100nm炭素欠陥なし 11.2 9.7
100nm炭素欠陥0.1% 11.2 9.7
100nm炭素欠陥0.5% 11.2 9.7
200nm炭素欠陥なし 21.6 18.7
200nm炭素欠陥0.1% 21.2 18.4
200nm炭素欠陥0.5% 21.3 18.4
400nm炭素欠陥なし 41.9 36.2
400nm炭素欠陥0.1% 41.9 36.2
400nm炭素欠陥0.5% 42.2 36.2

7.参考文献

  1. P.Wirnsberger, D.Frenkel and C.Dellago, "An enhanced version of the heat exchange algorithm with excellent energy conservation properties", J. Chem. Phys., 143, 124104 (2015)
  2. S.J.Stuat, A.B.Tutein and J.A.Harrison, “A reactive potential for hydrocarbons with intermolecular interactions”, J. Chem. Phys., 112, 6472 (2000)
  3. J.Shiomi and S.Mayuyama, “Molecular Dynamics of Diffusive-Ballistic Heat Conduction in Single-Walled Carbon Nanotubes”, Jpn. J. App. Phys., 47, 2005 (2008)